元日本代表の山口 素弘氏が、若手選手を紹介する特別企画の後編。リオ五輪に出場するU-23日本代表のメンバー発表を7月1日に控え、23歳以下の選手たちのパフォーマンスに関心が集まるなか、7月2日に開幕する明治安田生命J1リーグ 2ndステージで注目したい選手をピックアップしてもらった。
鈴木 優磨(鹿島)は本当に久しぶりに見るFWらしいFWだ。プレーは粗削りだけと気持ちは強いし、なにより面構えがいい。昨年J-22選抜の臨時コーチを務めたときにはじめて彼のプレーを見たけど、とにかく驚かされたのがゴールへの執念。ここまで分かりやすく点を取りたいという気持ちを前面に押し出す選手も珍しい。一方で鹿島ではサイドで使われる機会もあり、そういう意味では器用さもあるのかもしれない。ただ粗削りなところは失ってほしくない。オフ・ザ・ボールの動きの質を高められれば、岡崎 慎司のような選手になれる可能性もある。鹿島の前線はやや人材が不足しているので出場機会も多く得られるだろうし、成長できる環境にもあると思う。世界と戦うにはこういったタイプが必要だと手倉森 誠監督が考えれば、オリンピックのメンバーに抜擢される可能性もあるかもしれない。
富樫 敬真(横浜FM)もシンデレラボーイになれる可能性を秘めている。決してうまい選手ではないけれど、アグレッシブなスタイルは魅力だし、身体の強さは大きな武器だ。チームでもU-23代表でも結果を出しているだけに、十分に五輪メンバーに加わる資格を有していると思う。優磨と同様に、オフ・ザ・ボールの動きや相手の最終ラインとの駆け引きを身に付ければ、さらに怖い選手になれるはず。マリノスには良い出し手がいるわけだから、そういった部分は常日頃から学べるはず。チームではまだまだレギュラーの座を確保しているとはいえず、ぜひともポジション争いに打ち勝って、存在をアピールしてもらいたい。
亀川 諒史(福岡)の魅力は、縦への推進力。力強くアップダウンできるし、果敢に仕掛ける積極性も備える。中途半端にならず、最後までやりきるところも彼の良さだ。もちろん両足で蹴れるから、左右両サイドで使える。監督としては非常に使い勝手の良い選手だと思う。守備時のポジショニングはもう少し改善できるかもしれないけど、そこは試合を重ねながら身に付けられるところだろう。この世代の中では間違いなく、屈指のサイドバックだと思う。
福岡にはもう一人、魅力的なタレントが存在する。今季トップ昇格した17歳の冨安 健洋だ。185センチとサイズがあり、高さに加えてパワーも備えたダイナミックなプレーヤーだ。CBとボランチに対応し、背が高い割には足元もしっかりしている。U-19代表にも選出されており、主にボランチとしてプレーしている。ナビスコカップでは出番を得たけど、リーグデビューはまだ果たせていない。福岡のチーム事情もあり、井原 正巳監督もなかなか起用に踏み切れないかもしれないけど、個人的には使ってみても面白いと思う。ポテンシャルは非常に高く、将来的に福岡の主軸となれる存在なのは間違いない。冨安だけでなく、鹿島の町田 浩樹や浦和ユースの橋岡 大樹など、この世代には良いCBがひしめいている。日本には優れたCBが少ないといわれているけど、将来を考えれば彼らの存在は頼もしい限りだ。
最後に触れたいのは奈良 竜樹(川崎F)だ。彼は札幌から昨季、FC東京に移籍したけど、出番を得られずに今季川崎Fに移籍。そこで開幕からレギュラーの座を掴んで、川崎Fの躍進に貢献していた。そういう意味では苦労人だし、強い反骨心を備えている選手だと思う。私が横浜FCの監督を務めていたとき、当時札幌にいた奈良と対戦した経験があるが、1対1の対応がしっかりして、強さもあり、若いのにリーダーシップも備えた良い選手だと感じていた。ポカが少ない安定感も彼の優れた能力だろう。ビルドアップが課題と感じていたけど、川崎Fでレギュラーを取ったのだから、そこはだいぶ改善されたはず。試合に出るなかで成長を感じていただけに、今回、大怪我を負ってしまったことは、本当に残念だ。目指していたリオ五輪の出場は叶わなくなったが、とにかく前を向いて頑張ってほしいし、1日も早い回復を願うばかりだ。
■プロフィール■
山口 素弘(やまぐち・もとひろ)/1969年1月29日生まれ、群馬県出身。現役時代は横浜F、名古屋、新潟、横浜FCに在籍し、戦術眼に長けたクレバーなボランチで日本代表としても活躍。フランスW杯アジア最終予選の韓国戦で決めたループシュートは今も語り草となっている。2007年に現役引退し、2012年から3シーズン横浜FCの監督を務めた。2015年に日本サッカー協会技術委員に就任し、Jリーグ・アンダー22選抜のコーチに登録。現在はサッカー解説者として活躍する。