――昨シーズン、明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ(以下CS)を制し、FIFAクラブワールドカップ(以下FCWC)で激闘を繰り広げた後に天皇杯を戦い、短いオフに入りました。まず新シーズンに向けて頭の中をどう整理したのでしょうか。
「12月29日に天皇杯準決勝で負けて翌日からオフに入りましたが、年明けの1月3日には自主的に動き始めました。休むことよりも、常に体を動かすことでリフレッシュを兼ねたいと思ったんです。休むのは引退後でいいですし、次のシーズンを見据えていけるのは、自分たちがいい結果を出したからこそ。新たなタイトルへのモチベーションもありますし、逆に休みが少なかったからコンディション良くいられるので、そこはポジティブに捉えています」
――昨シーズンの戦いを踏まえて、新シーズンのチームをどう見ていますか?
「昨シーズンのチームで一番得点を取ったドウグラスが抜けてしまいましたが、チームとしてリーグ最多得点を奪っていますからね。決して彼一人に頼っていたわけではないですし、全員でたくさんのゴールを決めていけるチームだと思っています。何より力のあるピーター ウタカが入ってきてくれたので、個人的には不安要素はあまりないです。昨年末のFCWCでもチーム全員で非常にまとまりのあるいい戦いができましたし、キャンプからの積み重ねでもっとクオリティを高めていけると感じています」
――昨年末のFCWCではアジア王者の広州恒大(中国)を破って大会3位に入りました。今シーズンはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)制覇への期待が高まるかと思います。
「正直、これまではなかなか『ACLを取りに行く』と言える状況ではありませんでした。でも、今は少なからず『取りに行きたい』と言えるようになったと思います。チャンスはそう多くないので、逆にこういう状況の時に取りに行けなければいけない。もちろんリーグ連覇も重要な目標ですけど、今シーズンはリーグとACLの双方で頂点に立つことをより強く意識してやっていきたいと思っています。ガンバ大阪は昨年、リーグ王者を自分たちとギリギリのところで争いながら、並行して戦っていたACLでも準決勝まで勝ち上がっています。Jリーグヤマザキナビスコカップではファイナル進出を果たし、天皇杯で優勝するなど本当に実力のあるクラブ。自分たちもアジアとの二冠を狙うことで、選手個々にやらなければいけないことがしっかりと見えてくると思います。両方のタイトルを狙いに行くという思いを強く持つことで、チーム全体が集団として前へ向かって行けるのではないかとも思いますしね」
――「取りに行ける状況になった」という部分をもう少し具体的に教えてもらえますか?
「ACLはリーグ戦と並行して戦うことに加えて、大きく異なるサッカースタイルにアジャストしなければならない難しさはあって、今までは選手層の部分でそこに対応しきれませんでした。ただ、森保 一監督が昨シーズンから言っているように、今の広島には2チーム分の戦力があると思いますし、どんな組み合わせであっても自分たちの良さを出せるチームになってきています。そういう手応えを感じられるようになったことが、二冠を狙いに行ける状況になったという理由です。リーグとACLを両方勝ち取るためには総合力が必要になってくる。そういう意味ではFCWCは本当に全員で戦って結果を出せましたし、みんなの力を結集させて頂点を取りに行くという楽しさはありますよね。新シーズン開幕以降は試合が続くので、なかなかチーム全員で練習する機会はないと思うんですが、どの選手が出ても結果を出していくことが重要だと思います」
――クラブとしては4回目のACL出場となりますが、確かに過去3回よりも確実に総合力が明らかにアップしているように思います。
「全然違いますよね。公式戦に絡んでいく実力を持った選手は、間違いなく多いと思いますから。今シーズンは全選手がそれだけの力を持っていると言っていいくらいですし、試合に絡むだけでなく結果を出せる力もあると思います」
――やはり昨シーズンのチャンピオンシップからFCWCを乗り越えた経験は、すごく大きな経験であり、手応えになっているのでしょうか。
「CSやFCWCでは、選手全員がそれだけの力を持っていることを証明できたと思います。ただ、もともとチーム内では全員がメンバーに入れるくらいの実力を持っていて、それをトレーニングで出していることは分かっていました。それでもベンチには18人しか入ることができないわけで、なかなか試合に絡めなかった選手がシーズン最後にその実力を証明したに過ぎないんです。あの時期だけが良かったわけではなく、チームとしては開幕からそういう状況にありました。とはいえ、注目を集める素晴らしい舞台でしっかりとチームの総合力を見せることができたので、そこを今シーズンにつなげていきたいと強く感じますね」
――自分にとって、チームにとって、ACLの位置付けが変わってきた部分もある?
「やはりFCWCに出たことが大きいですね。Jリーグで優勝して開催国枠で出場させてもらいましたけど、やっぱりアジア王者として出たいと強く思いました。他のJクラブがACLで優勝したら、リーグ優勝しても開催国枠で出場することはできませんからね。やっぱりFCWCの舞台に挑めたことで、世界を意識するようになりましたし、アジア王者の広州恒大(中国)がバルセロナ(スペイン)と対戦した試合を見て、「自分たちがあのピッチに立ちたい」とチームのみんなも強く思ったはず。浦和レッズがACミラン(イタリア)と、G大阪がマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)と対戦したように、あの舞台でJクラブや日本人選手がヨーロッパ王者と真剣勝負をすることを、多くのサッカーファンが楽しみにしていると思いますし、選手としても世界へつながっていることはすごく大きなモチベーションになっています」
――FCWCの3位入賞でACLでは相手クラブからのマークが厳しくなることが予想されます。
「そうですね。確かにアジアの中でも間違いなく『サンフレッチェ広島、やるな!』と感じてもらっているとは思います。だからこそ、自分たちもしっかりと結果を残していかなければならない。あの大会だけ調子が良かったとは思われたくないですし、開催国枠ではなくアジア王者として実力でそこへ到達できることを今シーズンのACLで見せなければいけない。でなければ、『たまたまFCWCでいいサッカーをしただけ』と思われてしまいますからね。周囲の人たちはあの素晴らしい大会で3位になったことを非常に高く評価してくれているので、それに見合う結果をACLの舞台出さなければという責任感はあります。
――近年はJリーグ勢の苦戦が目立ちます。その理由はどう見ていますか?
「JクラブがACLで優勝していた時代と今とでは、他クラブのACLへの熱の入れ方が全く違うので、ここ数年でJクラブがアジア王者になれていないことを一概に否定できるものではないと思います。特に今回の移籍ウインドウで、中国のクラブがあれだけお金を使ってヨーロッパの選手を取ってきたことは、世界のサッカー界にとっても驚きだったと思いますし、それだけACLに力を入れてきたということでもあります。僕たちはそういうクラブを最終的に倒していかなければアジアの頂点には立てないですし、例年以上に厳しい大会になるとは思いますので、そこに挑んでいく覚悟を持って臨まなければいけないわけです」
――では、実際にアジアの強豪と戦っていく上で、チームとして何が武器になると考えていますか?
「ACL出場クラブは、各国リーグで多く勝ったチームが集まってくるわけで、勝ち方を理解しているところが多い。その中で僕たちは4年間で3度の国内リーグ優勝を成し遂げていて、“勝つ術”という意味では、他のクラブに比べて経験値は高いと思います。そして何よりの強みは、先ほどからお話ししているようにリーグ戦を並行して戦っていく上での総合力。ここが自分たちの特徴ですし、他のクラブは個の部分に頼る状況が少なからずあると思うので、出場停止やケガなどのアクシデントが起こった時に本来の実力を出し切れない可能性が出てくる。長丁場のシーズンを考えたら、自分たちは誰が出ても、どういった選手であってもチームとして戦えるところが一番の強みになってくると思います。Jリーグ王者が、そしてFCWCで3位になったチームが今年のACLでどういった内容のサッカーを披露して、いかなる結果を出していくかには周りの皆さんからも注目してもらえると思いますし、それに応えていかなければという思いが強いです。自分たちはリーグもACLも取るつもりでシーズンに入ります。アジアを取る自信はあります」
――ACLで勝ち上がっていくためのポイントはどこにある?
「グループステージ突破は最低限の目標だと思っています。決して簡単な戦いではないですが、自分たちのサッカーが出せれば、そこは問題ないと思います。本気でACLを取りたいと思うんだったら、ここで苦労していたらムリじゃないですか。そこから先、決勝トーナメントに行くにあたって、前回出場時(2014年大会)はアウェイゴールの難しさを痛感しました。結果的にラウンド16で敗れている(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ相手にホームで3-1と白星も、敵地で0-2で敗れてアウェイゴール数の差で敗退)ので、ホームとアウェイのゲームコントロールはすごく重要になってくると思います」
――中国クラブによる有力選手の「爆買い」が話題になっています。そこにどう対峙していきましょうか。
「それもACL制覇を目標にしているからこその大型補強だと思いますし、Jクラブはそんな彼らに立ち向かっていかなければならない。だからこそチームとしての組織力が間違いなく求められる。僕たちも個の部分をしっかり伸ばしていくことで、さらに組織力を向上させることができるはず。僕らもこれまでACLで戦った時からは成長していると思うので、自信を持ってACLの開幕を迎えられるとは思います。
――では、最後に新シーズンに向けての意気込みを教えてください。
「僕たちは胸に3つの「星」を着けて戦っています。獲得タイトル数を表す「星」は、このクラブで歴史を創ってきた証でもある。今シーズンはここに4つ目の「星」を増やすことが最大の目標です。それがACLやリーグ戦の優勝であれば、さらにいい。ここからさらに「星」の数を増やしていけるようなシーズンにしたいですね。」
――ズバリ、サンフレッチェ広島はACLで優勝できる?
「したいですね。まだ『しなきゃいけない』とまで言える立場ではない。でも、やっぱり優勝したい。そして、あの舞台に戻りたいんです。開催国枠ではなくて、アジア王者として」
[文:青山 知雄]