激闘の翌日、サンフレッチェ広島の戦士たちはもう、ホームタウンへと戻っていた。午後、広島市内のグラウンドで先発した選手たちはリカバリートレーニング。それ以外の選手はいつもどおり、ゲーム形式の練習までしっかりと行い、汗を流した。
90分の試合ではあったが、その内容の凝縮度を考えれば、疲労が身体の隅々まで残っていても不思議ではない。おそらく明日も、選手たちは日常のような激しい練習を行うことはできないだろう。肉体をどうやって回復させるか。精神面の疲れをどうやって抜いていくか。コンディショニングの勝負が、結果を左右する。それはかつて、AFCチャンピオンズリーグでも経験したことだ。
「まだ試合は残っている。次に勝つための準備は試合が終わった後から始まっている。明後日の試合に勝つことしか考えていない」
厳しい表情で語るのは、守護神・林 卓人である。G大阪に許した2失点は、2ndステージでは8月29日の名古屋グランパス戦以来の屈辱。終盤の3試合は全て完封を記録していただけに、守備の要としては手放しで逆転勝利を喜べない。第2戦ではしゃにむに攻撃に出てくるガンバ大阪の攻撃に屈し、2点差をつけられて敗戦すれば、逆転優勝を喫してしまう。その現実も背番号1の胸を支配する。
「昨日の試合を特別に劇的だとは思わない。まだ、シーズンは何も終わっていないし、手にしていない。手放しで喜べる状況でもない。正直、今はまだ危機感の方が大きい。そういう中でも自信を持って、その上でパワーを持ってやっていく必要があると思っています」
危機感は林だけでなく千葉 和彦や森﨑 和幸など、守備を司る選手たちも共有している。一方、攻撃陣も、確かに第1戦は3点を奪ったが、決してスムーズに崩してゴールできたわけではない。3点中2点が数的優位だった状況であり、アディショナルタイムという特別な時間帯だったことが、広島の苦戦を象徴している。
「まずは、いつも通りに戦うこと。しっかりと守備をしなければいけないし、攻撃の回数をもっと増やしたい。相手のよさを消して、主導権を握る戦いをやりたい」とドウグラスは語る。「とにかく、次の試合も勝って優勝したい。そのためには、広島のサッカーを表現することが大切。今までのスタイルをそのままやり続けることも必要。自分がやってきたプレーを続ければ、いい結果は出る」
森保一監督も選手たちも、口々に「何もまだ、決まっていない」と語り、周囲の空気を喧噪する。おそらく広島にとって最大の敵は、G大阪というよりも自分たちの中に芽生える達成感。その戒めを怠れば、大きな隙を与えてしまうことになるからだ。
エディオンスタジアム広島のチケットは完売直前。昨日の第1戦における広島地区での視聴率は平均22.6%。瞬間最高視聴率は30.8%という驚異的な数字を記録した。期待は高まっている。その広島の想いに応えるべく、選手たちはひたすら、回復に努めている。
[文:中野 和也]