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【特集】Jリーグアジア戦略10年~北海道コンサドーレ札幌編(後)

2023年2月9日(木) 10:00

【特集】Jリーグアジア戦略10年~北海道コンサドーレ札幌編(後)

【特集】Jリーグアジア戦略10年~北海道コンサドーレ札幌編(後)

~Jリーグアジア戦略のこれまでの10年を振り返り、未来を展望する特集企画~東南アジアのスター選手を次々と獲得、観光面でもホームタウンに寄与~北海道コンサドーレ札幌(後編)~
(前編はこちら)

■スター選手を自治体、企業に役立てる
北海道コンサドーレ札幌はベトナムのレコンビンの獲得、半年後の退団を経て、アジア事業の将来性と課題を感じ取った。当時、強化部長として事業を推進した三上 大勝代表取締役GMは「東南アジアの有力選手獲得をマネタイズするには5年スパンで考え、選手を長期保有する必要がある」と話す。

2017年7月のタイ代表MFチャナティップ(現川崎フロンターレ)獲得はその考えを元にしている。ムアントン・ユナイテッド(タイ)から1年半の期限付き移籍で契約し、2019年2月から完全移籍に移行した。加入前に完全移籍する場合の移籍金等を定めておき、パートナー企業、ホームタウンの自治体に「完全移籍にはこれだけの資金が必要です。協力していただけますか」と示した。母国での人気が絶大なスター選手を企業、ホームタウンにも役立てる考えを固めていた。

チャナティップは2022年に川崎に移籍するまで通算で4年半プレーし、2018年にはクラブ史上最高の4位に導いた。貢献はピッチ上だけではない。2017年12月、コンサドーレは冷菓製造・販売の赤城乳業とアジアプロモーションパートナー契約を締結。タイでの「ガリガリ君」の販売促進を図る同社はチャナティップを活用したPRを仕掛けた。

パートナー企業の石屋製菓がチャナティップを起用した「なまらバターバウムTSUMUGI」のCMを日本国内で流すと、その映像がYouTubeを通じてタイで広まり、商品の知名度が上がった。札幌ドームにはタイからの観戦客が目につくようになり、100人ものタイ人が練習見学に訪れる時期があった。

■インバウンド促進を目指す
北海道にとって観光は重要な産業であり、インバウンド観光促進に力を入れている。札幌市の外国人宿泊者数は新型コロナウイルス感染症の拡大以前の2018年度がピークで270万人を超えた(20、21年度は1万1000人に激減)。地域別には中国、韓国、台湾、香港、タイからの宿泊者が全体の8割を占め、シンガポール、マレーシアが続く。

札幌市経済観光局観光・MICE推進部の石井正治部長は「東南アジアの方は雪への憧れが強く、冬の旅行者が多い。冬は閑散期なのでありがたい。観光業界の雇用安定という観点からも東南アジアは重要な市場だ」と話す。「チャナティップ加入の効果は分析できていないが、札幌の認知度アップにつながったと思う。今までリーチできていなかった層に知ってもらえた可能性がある」とみている。

北海道に枠を広げると、インバウンドはコロナ前に7年連続で最多を更新し、2018年度に311万人を記録した。東南アジアからの来訪が増え、特にタイは2012年にタイ国際航空のバンコク~千歳便が開設されてから急増し、2018年に2011年の24倍となる23万5000人に達した。

北海道経済部観光局観光振興課の中尾敦誘客担当局長は「広い範囲から誘客を図りたいが、身近な東南アジアは重要な地域。量的な拡大だけでなく、じっくり滞在してもらうための手を打っている」という。ASEANでは北海道の食への関心が高いため、アンテナショップの「北海道どさんこプラザ」をシンガポールとバンコクに開店した。

コンサドーレはこうした地元自治体のインバウンド施策を様々な形で支援している。2021年8月からパートナー企業のミズノと共同でバンコクに期間限定で開設した「スタジオ・コンサ」はクラブのPRの拠点だが、北海道の観光プロモーションも手掛けた。

2022年9月のバンコク日本博では北海道をはじめとする各市町村とともに出展。2023年2月にはバンコクでの旅行博(タイ旅行業協会主催)に合わせ、バンコク中心街に特設スペースを設け、クラブのグッズ販売とともに北海道の観光地、特産品をPRする計画だ。

チャナティップは退団したが、2022年6月にタイ代表のMFスパチョークを獲得。人気選手をプレーさせることでタイ人を引きつけ、北海道の魅力を伝える構造が成り立っている。

2022年11月 アジアチャレンジinタイの際にバンコクで開催したWELCOM HOKKAIDO カンファレンス
2022年11月 アジアチャレンジinタイの際にバンコクで開催したWELCOM HOKKAIDO カンファレンス

2022年11月にはJリーグアジアチャレンジinタイでブリーラム・ユナイテッドに続き、川崎フロンターレと対戦し、スパチョークとチャナティップの競演でファンを沸かせた。このツアーには地元自治体、パートナー企業の参画を促し、北海道、札幌市、旭川市、洞爺湖町、余市町、石屋製菓、あいプラン、ミズノ、サッポロビール、日本航空ら計19名が視察した。タイのサッカー熱を感じてもらうとともに、現地ステークホルダーとの関係構築を仲介した。

コンサドーレは北海道を豊かにするというビジョンでアジア戦略を進めながら、クラブの収益拡大を目指してきた。22年2月にはタイのインスタント食品製造・販売のTakasoSCとアジアプロモーションパートナー契約を結んだ。タイで広げた人脈を生かしてスポンサー営業を重ね、TakasoSCとはJリーグを放映するサイアムスポーツを介して、接点を持ちパートナー契約に至った。観光産業のパートナー企業も増えている。

アジア戦略スタート前の2011年度に13億円弱だったコンサドーレの営業収益は急伸し、2021年度は34億円に迫った。2017年からJ1に定着したことが最大の要因だろうが、売上げの伸びはアジア事業の継続・発展と軌を一にしている。アジアに目を向けた効果は表れている。(取材・文 吉田誠一)

 

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