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【特集】Jリーグアジア戦略10年~川崎フロンターレ編(前)

2022年10月3日(月) 14:00

【特集】Jリーグアジア戦略10年~川崎フロンターレ編(前)

【特集】Jリーグアジア戦略10年~川崎フロンターレ編(前)
2020ベトナム日本国際ユースカップU-13(再開発の進むベトナム ビンズン省にて)

~Jリーグアジア戦略のこれまでの10年を振り返り、未来を展望する特集企画~発端はパートナー企業の要望、継続することで広がった事業の可能性~川崎フロンターレ(前編)~

Jリーグがアジア戦略をスタートした2012年、川崎フロンターレのクラブパートナーである東急グループがベトナムでの大規模な都市開発に乗り出した。そこからフロンターレのアジア事業が始まる。

■街づくりに合わせたベトナム進出
東急は同年、ベトナムのデベロッパーであるベカメックスIDCと合弁会社ベカメックス東急を設立。ホーチミンの北30キロに位置するビンズン新都市の街区面積110ヘクタールを対象に「東急ビンズンガーデンシティ」の開発に着手した。

そのスタートに当たり、ベトナムへの挨拶代わりに人々に楽しんでもらえるイベントを催したい。そう考えた東急はフロンターレにベトナム遠征を持ちかけた。何しろベトナムではサッカーが「超」が付く人気スポーツ。老いも若きもサッカーに心を寄せる。

翌2013年は日越外交関係樹立40周年という節目の年だった。その記念事業の一つとして6月、東急ビンズンガーデンシティカップを開催し、ビンズンスタジアムでフロンターレとVリーグのビンズンFCが対戦した。

2013東急ビンズンガーデンシティカップでのお祭りの様子
2013東急ビンズンガーデンシティカップでのお祭りの様子

会場では「日本の祭り」と銘打ち、盆踊り、川崎大師を模した風鈴市を行い、屋台でたこ焼きなどを提供した。エア遊具で子どもたちを楽しませる「キッズランド」を併設し、フロンターレのホームゲームと同様にサッカー以外のエンターテインメントをふんだんにそろえた。

それはフロンターレが築いたサッカーを核とした複合エンターテインメントの提示であり、そうしたユニークなクラブと関係する東急を印象づける機会になった。

この催しの成功を経て、ベカメックス東急は街づくりにサッカーを絡めていく。同社の平田 周二副社長(COO)は「東急は街づくり会社であり、単体の不動産開発で終わらせるつもりはない」と話す。「マンションを建てて終わりではなく、商業施設、娯楽施設をつくり、通信・交通インフラを整え、人々が誇りを持って住み、働ける街を開発し、管理運営していく」

この街に住みたいと思わせ、住民の生活を豊かにするには、そのためのコンテンツが欠かせない。ベカメックス東急はその軸になるのがサッカーであるとみた。その考えがベトナムでの育成年代の国際大会開催、サッカースクールの開校につながっていく。

ベトナム 児童養護施設への訪問
ベトナム 児童養護施設への訪問

■日越の育成年代の強化と国際交流
2014年にもトップチームが遠征する予定だったが、ベトナムと中国が領土問題で衝突したため中止を余儀なくされ、代わりにU-13チームが遠征した。その後、フロンターレは国際交流基金アジアセンターの事業として育成コーチの短期派遣、ベトナム人選手とコーチの日本への招へい、単発のサッカー教室などベトナムでの貢献事業を重ねる。

一連の地道な活動が2018年、ビンズン新都市でのベトナム日本国際ユースカップU-13の開催に結実する。両国から13歳以下の4チームずつを招いたこの大会はすでに4度の開催を重ね、選手の児童養護施設訪問、交流パーティーで社会教育、国際交流の場も設けている。日越外交関係樹立50周年の2023年は他のASEAN諸国からもチームを招く計画だ。

指導者派遣プログラム
指導者派遣プログラム

特筆すべきは、この決して華やかとはいえない中学生の大会をエースコックベトナム、ロッテベトナム、日東電工ベトナム、NTTイーアジアなど20社を超える企業が支えていることだ。

第1回から支援するエースコックベトナム・マーケティング部の梶原 伸介部長はその意義をこう話す。「この大会はベトナムのサッカーを底上げする素晴らしい取り組み。ベトナムの若者を支援することでエースコックに対する親しみ、信頼感が増す」

同社の即席麺のベトナムでのシェアは50%を超え、商品PRのためベトナム代表をサポートしている。その一方で知名度の低いユース大会を支えるのは「消費者に寄り添った企業であるというイメージづくりになるから」だという。

大会の企画、法人営業、関係各機関との調整を手掛けるブレインコミュニケーションズの古川直正代表は「フロンターレという1企業のためでは、賛同は難しかった」という。

「ベトナムに進出している日系企業にはこの国でビジネスをさせてもらっているという意識がある。これだけ多くの企業が協賛してくださったのは、この大会がベトナムのためになり、日越の友好、そして日本のプレゼンスのアップに結びつくから」。この考察はJリーグと各クラブによるアジア事業の成否のカギになるのかもしれない。(後編に続く)
(取材・文 吉田誠一)

 

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