公益社団法人日本プロサッカーリーグ 野々村 芳和チェアマンは下記の件について裁定委員会に諮問し、名古屋グランパスに対し下記のとおり懲罰を決定しました。併せて名古屋グランパスに対し同種事案の再発防止を期すために必要な措置の実施を依頼しました。
1.対象事案
懲罰の対象となる名古屋グランパスの違反行為
(1)名古屋グランパスは、2022年7月16日に開催予定であった川崎フロンターレとの試合に関し、同月14日、真実は管轄保健所から指導を受けたものではなく、名古屋グランパスの対応方針を是認されたものにすぎないのに、新型コロナウイルス感染者の多発により管轄保健所から同日から3日間の活動停止の指導を受けた旨をJリーグに報告し、チェアマンをして、2022明治安田生命J1・J2・J3リーグ戦試合実施要項(以下「実施要項」という。)第13条第3項第3号に照らし、エントリー資格を有する選手はいないものと誤信させ、実施要項第13条第4項に定めるエントリー下限人数を満たさないことが明らかであるとして、Jリーグ規約(以下「規約」という。)第62条第2項第2号に基づき同試合の中止を決定させた。
(2)本件は、後述のとおり、後日の調査によりチェアマンに誤った決定をさせたものではなかったことが判明したとはいえ、誤った報告に基づいてJリーグの最も基本的な活動である公式試合の中止を決定させたものであるから、規約第1条のJリーグの目的達成を妨げる行為に該当するとともに、Jクラブの最も基本的な義務である公式試合の日程遵守義務(規約第56条)を安易に回避したのではないかとの疑念を内外に生ぜしめたものであり、Jリーグの信用を毀損する行為にも該当し、規約第3条第2項が定めるJリーグ関係者の遵守すべき義務に明らかに違反するものである。
2.懲罰内容
・けん責
・罰金200万円
3.懲罰量定に際し参考とした事情
Jリーグが制定・運用する「Jリーグ新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」(規約第3条の2)においては、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナウイルス感染症」という。)の感染が拡大した場合、濃厚接触者の認定や入国制限地域からの入国等により、公的機関から自宅待機等の指示を受けている選手をはじめ、実施要項第13条第3項各号に定める要件を満たさない選手をエントリー可能選手から除外し、その結果エントリー下限人数である13名(ただしゴールキーパー1名含む)に満たないことが明らかであるとチェアマンが判断した時には、試合を中止することとしている(規約第62条第2項第2号、実施要項第13条第4項)。その運用に当たっては、感染症法に基づく陽性者や濃厚接触者に対する保健所等の公的機関からの自宅待機等の指示の有無や、コロナウイルス感染症関連以外の理由によりエントリーができない選手(怪我人等)の有無について各Jクラブが虚偽を述べないことが大前提となっているところ、本件名古屋グランパスの行為はこの前提を揺るがすものである。
名古屋グランパスは、Jリーグから保健所による指導の有無を再確認された際、保健所から試合中止など経済活動を中止する指導はできない旨を明確に伝えられていたにもかかわらず、チームの活動停止はこれと異なると判断し、保健所へ追加の確認等を行わなかった。これらが生じた背景には、担当と保健所とのやりとりならびにリーグへの報告内容に対し、組織として再度確認する体制が十分に整えられていないことも確認された。また、公式試合は予め一部のJクラブのみが不利な日程にならないよう調整して日程が組まれており、特別の事情がない限り変更され、または中止されないことが原則である(規約第58条、第62条参照)。そのため、各Jクラブは公式試合の日程遵守義務を負っているところ、虚偽報告により安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブ、サポーター等に抱かれかねない事態を招いたことは、Jリーグの信用を大きく毀損するものである。
一方で、弁護士等も交えた名古屋グランパス、川崎フロンターレ、管轄保健所等への聞き取り調査に基づき、名古屋グランパスが虚偽の報告を故意に行ったとは認められず、また、保健所側からチーム活動の停止に関する直接的な指導を受けたものではないにせよ、名古屋グランパス側が示したチームの活動停止の方針に保健所側が異議を唱えず、これを前提とした感染拡大防止に関する指導を行っている事実が認められる上、保健所の指導に基づいて活動を停止したとされる過去の他クラブの直近の事例からしても、当時の名古屋グランパスの陽性者の広がりからすれば保健所から指導があり得ると考えても不自然とはいえない。また、その後の調査によれば、当時、名古屋グランパスは、陽性者、濃厚接触者、怪我人等を除外すると実施要項第13条第4項に定めるエントリー下限人数をもともと満たせていなかったことが客観的に明らかであるために、虚偽報告の有無にかかわらず、結果的に開催可否判断への影響が限定的であった。
以上の事情を総合的に考慮した。
4.適用条項
規約第133条第2号
規約第142条第1項〔懲罰の種類〕
規約第152条第1号〔2,000万円以下の罰金〕
規約第3条第2項〔遵守義務〕
(参考)
Jリーグ規約:https://aboutj.jleague.jp/corporate/wp-content/themes/j_corp/assets/pdf/02_20220228.pdf
Jリーグ新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン:https://www.jleague.jp/img/pdf/2022_0823_1.pdf