2022年5月26日
2021年度クラブ経営情報開示(先行発表)メディア説明会 発言録
2022年5月26日(木)16:00~
オンラインにて実施
登壇:クラブライセンス事務局 クラブライセンスマネージャー 大城 亨太
陪席:理事 窪田 慎二
クラブ経営本部 本部長 鈴木 徳昭
〔司会より〕
2021シーズンのJ1、J2、J3全57クラブの内、本日は3月決算の3クラブ、柏、湘南、磐田を除いた54クラブが発表の対象となります。全57クラブの情報は7月末に開示予定です。資料は先ほど16時にメディアチャンネル上で公表させていただきました。個別のクラブのご質問に関しては、回答を控えさせていただきます。
〔大城マネージャーより説明〕
本日、2021年度クラブ経営情報を先行発表いたします。
2021シーズンは東京オリンピックという、スポーツ界におけるピックイベントがございました。Jリーグクラブの運営面では、緊急事態宣言が長く続く地域も多く、観客も100%入場させることができないという状況で、経営面では厳しいことも多いシーズンでした。
《1−1.はじめに》※PPT1ページ
(1)経営情報開示の概要
①2021シーズンのJ1、J2、J3全57クラブのうち、3月決算である3クラブ(柏、湘南、磐田)を除いた54クラブにつき、 5月に先行して経営情報(2021年度決算情報)を開示する
②7月には、全57クラブの経営情報を開示するとともに、Jリーグ全体の収入規模や各指標の比較等を加えた具体的な数値データの発表を行う予定である(「2段階発表」とする)
(2)「2段階発表」を実施する背景
①JリーグおよびJクラブをサポート頂いている方々への迅速な情報提供
・JリーグおよびJクラブの公共性を鑑みると、適時適切な情報を提供することはJリーグの信頼性を向上していくうえで不可欠である
・クラブ経営への関心が高まることで、クラブに関わる方々がクラブとともに成長に必要な策を検討、実行していく機会も増加する
②クラブライセンス制度の透明性・公平性の担保
・クラブライセンス制度の浸透により、財務基準に対する世間の関心が高まっている
・迅速な開示を行うことで、クラブライセンス審査の透明性と公平性を担保する
《1−2.主なトピックス》※PPT2ページ
3月決算である3クラブ(柏、湘南、磐田)を除いた54クラブについて
①営業収益は54クラブ合計で1,147億円となり、115%の成長率であった。45クラブが増収となり、全体としてコロナ前の規模に戻りつつある(19年度対比93%)。
✓入場料収入は136%の成長率であったが、コロナ前の53%(19年度対比)であり、まだ回復には至っていない。
②営業費用は54クラブ合計で1,204億円となり、営業収益と同様、コロナ前の規模に戻りつつある(19年度対比97%、20年度対比105%)。
✓チーム人件費は583億円であり、コロナ禍においても微増で推移している(19年度対比100%、20年度対比101%) 。
③単年度赤字クラブは20クラブ(20年度34クラブ)、債務超過クラブは10クラブ(20年度10クラブ)であった。ただし、現時点で経営の継続(資金繰り)が困難に陥っているクラブは存在しない。
厳しい状況は続いていますが、コロナ前の規模に戻りつつあるというのが全体感だと考えています。
《1-3.営業収益(2021年度決算)》※PPT3ページ
営業収益は、54クラブ合計で1,147億円
スポンサー収入 563億円
入場料収入 108億円
スポンサー収入、その他収入など2020年度に落ち込んだ部分が、2021年度には増加していますが、入場料収入はまだ青色の2019年の水準には戻ってきていない状況です。
《1-4.営業費用(2021年度決算)》※PPT4ページ
(2)営業費用は、54クラブ合計で1,204億円
チーム人件費 583億円
試合関連経費 70億円
チーム運営経費 151億円
チーム人件費はコロナ禍においても横ばいに推移し、今年も微増になっています。試合関連経費や、チーム運営経費についてはコロナ禍で少し落ち込んだところが収入と同じように戻ってきている状況です。
《1-5.2021年度以降の財務基準》※PPT5ページ
ここでクラブライセンスの財務基準について少しご説明いたします。
【2020年度末、2021年度末:特例措置】
・債務超過、3期連続赤字をライセンス交付の判定対象としない
・2021年度末に新たに債務超過に陥っても判定対象としない
【2022年度末、2023年度末:猶予期間】
・債務超過が解消されなくてもよいが、前年度より債務超過額が増加してはいけない
・新たに債務超過に陥ってはいけない
・3期連続赤字のカウントをスタートする(2022年度末が1期目となる。2021年度以前の赤字はカウントしない)
【2024年度末、2025年度末:特例措置なし】
・債務超過が解消されていなければならない
・2022年度末から赤字が継続しているクラブは、2024年度末に3期連続赤字に抵触する可能性がある
こちらは一旦昨年の秋に21年度以降の財務基準ということで決定したのですが、コロナ禍の状況によっては柔軟に考える方針を持っており、今年のクラブライセンスの審査において、本当にこの財務基準で運用するかを、6月末時点の外部環境・内部環境の分析を踏まえて再検討したいと思っています。22年度・23年度以降の財務基準においても、また今年の秋に来年のルールを決める際に様々な状況を勘案して考えていきたいと考えております。
《1-6.赤字・債務超過クラブ①》※PPT6ページ
・赤字クラブは20クラブ、債務超過クラブは10クラブ
特に債務超過のクラブについては24年度までに解消していただく必要があるので、比較的密にコミュニケーションをとっています。一部のクラブはまだ見通しが立っていないところもあるのですが。多くのクラブは親会社等と相談の上で債務超過が解消される見通しもすでに立っている状況です。
《1-7.赤字・債務超過クラブ②》※PPT7ページ
1億円~5億円という比較的大きな赤字がJ1:5クラブ、J2:3クラブ、J3:1クラブ(合計9クラブ)となりました。
債務超過については、5億円以上という比較的大きな額の債務超過のクラブがJ1とJ2で1クラブずつとなります。
※PPT9~10ページ
《2-1.前年度との比較:J1・J2・J3クラブ合計》※PPT9ページ
《2-2.前年度との比較:J1・J2・J3クラブ平均》※PPT10ページ
《2-3.営業収益(売上高)の推移》 ※PPT11ページ
《2-4.スポンサー収入の推移》※PPT12ページ
《2-5.入場料収入の推移》※PPT13ページ
《2-6.チーム人件費の推移》※PPT14ページ
3.「赤字」と「債務超過」の違い ※PPT15ページ
赤字は収入に対して支出が増えてしまったことですが、債務超過は資産と負債のバランスで、今ある資産を現金化しても借金を返せず、赤字よりも経営上厳しい状況です。
債務超過の解消は、資本金の増加、利益余剰金(黒字を増やす)の説明を記載しています。
〔質疑応答〕
Q:先ほど今年5月末にライセンス制度の猶予期間の運用について見直す機会があるというお話をされましたが、基本的には猶予期間を短くする、前倒しにするということは選択肢に含まれていないということでよいでしょうか。
A:大城マネージャー
選択肢としてはいろいろな可能性があると思っていますが、2021年度決算で終わっている特例措置を2022年度も続けた方が良いのか、など、今年の判定の話になりますので、まず6月の段階では特例措置を整理することになると思います。そのあとの来年以降の基準を新たに考えるタイミングで、猶予期間を延ばすかどうかという議論になります。限定して議論するものではないので、いろいろなパターンがありうると思っています。
Q:単年度赤字、債務超過も含めて、対象クラブの数が多い印象を受けます。特に、お客様の戻りの鈍さは取材する立場でも今年も感じています。観客数の緩和さえできれば自然に来場者が戻るというわけではないのでは、という疑問があります。現時点で債務超過、単年度赤字のクラブがすぐにそれらを解消できるのか、という疑問もあります。2022年度の見通しがライセンス上大事だと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
A:大城マネージャー
おっしゃっていただいた通り入場者数が厳しい状況ではありますが、6月の見直しについては、外部環境の大きな変化がない限り昨年決めたルールで運用したいと思っています。大きな変化がない場合は、厳しい状況であってもコロナ禍での予算編成で動いていますので、外部環境の変化がない場合は、基本的にそのままの運用となる可能性が高いと思っています。
債務超過の解消については、各クラブとコミュニケーションをとっていますが、黒字で改善していくケース、資本政策で改善するケースなど、いろいろあると思います。
Q:債務超過のクラブに関してJリーグではこまめにチェックしてコミュニケーションをとっているとのことですが、Jリーグのどの部署の方がどのくらいの頻度で行っているのでしょうか。
J2、J3クラブで1億円以上の赤字は、親会社がいるクラブでないとなかなか厳しいのではないかと思うのですが。その点を確認させてください。
A:大城マネージャー
(Jリーグのクラブライセンス事務局がクラブとコミュニケーションをとっており)クラブによってコミュニケーションの頻度は様々なので一概に申し上げることはできないのですが、クラブライセンスの書類の提出という意味で、2022年の1月末に、今回発表しているクラブの決算の見込み、予算、4月末に確定数字をいただきました。
債務超過のクラブに関しては、その間もコミュニケーションをとって、今年の予算がどのように進捗しそうなのか、債務超過をどのように解消していくかの計画をお伺いしました。
ご質問の通り、小さな規模のクラブにとっては非常に大きな債務超過になっているクラブもありますが、解消については2022~2024年のここからの3年で解消していくことになります。黒字による解消が可能なクラブもあると思いますし、難しいクラブは増資の割当先などを探さなくてはいけません。まだある程度期間もありますので、引き続きコミュニケーションを取りながら進めていきたいと思います。
Q:協賛収入が意外と変わらない理由はどのようにお考えでしょうか。また、入場料収入については、チェアマンもクラブの経営者とお話されているとのことですが、改めてこの数字を見て入場料収入が伸び悩んでいることに関してどのようにとらえられているのでしょうか。
A:大城マネージャー
スポンサー収入が2021年度落ち込まなかった一番の理由は、常日頃各クラブがパートナー、スポンサー企業とうまくコミュニケーションを取っており、2020年度はリーグ戦が中断した期間もあったものの、そうした中でも支援を継続していただけるような関係性を構築できていたことです。企業の皆様が、中断期間でもスポンサーを引き上げることなく、支えてくださったということが一番大きいと思います。他に、親会社からの補填費用などについて、税制の優遇措置もいただきましたので、その影響も大きいと思います。
入場料収入についてはなかなか戻ってこないというのが正直なところで、クラブとしてもリーグとしてもこれからいかにお客様に戻っていただくかに注力していかなくてはいけないと思います。2020年度と比較して2021年度は大きな伸びを示していて、各クラブの予算を見ても、コロナ前の2019年度までとはいきませんが、増収傾向にはありますので、厳しい状況ではありますが、回復の方向に向かっていると考えています。
A:司会
入場料収入について今回提示させていただいているのは2021年度になりますので、冒頭大城より説明があった通り、原則50%以下の収容で運用していた時の入場料収入となります。今シーズンより100%収容できる状況になっておりますが、まだまだなかなかコロナ前まで戻っていないのは皆様もご承知の通りだと思います。引き続きJリーグとしても課題だと思っています。
Q:営業収益の「その他」の項目がコロナ前よりも多くなっていますが、どのような項目が含まれるのでしょうか。
A:大城マネージャー
その他収入については、大部分を占めるのは移籍金やサプライヤー収入、ファンクラブの収入なども入っています。コロナ禍における自治体からの補助金、助成金をその科目で処理しているクラブもありますので、それが要因になっていると思います。
Q:コロナ禍で新しい収益源を見つけられたということではないのでしょうか。
A:大城マネージャー
そのようなことではないと思います。
Q:入場料収入に関しての質問です。2020年度と2021年度の差を見るとかなり地域ごとにばらつきがあると思います。もちろん企業努力もあるかと思いますが、コロナのまん延防止などの地域ごとの外部環境の違いが地域性に表れているのでしょうか。
A:大城マネージャー
おっしゃる通りの傾向はあると思います。どうしても 緊急事態宣言が長く続いてしまっている地域では お客様の意識が戻ってこないこともあると思います。
ダイレクトに強い傾向があるかというと微妙なところもあると思いますが、大まかな傾向としてはあると思います。
Q:引き続き2022年度も制限がなくなっても地域によってはその傾向は見られるのでしょうか。それとも今後は解消されるのでしょうか。
A:大城マネージャー
現状緊急事態宣言が出ている地域はありませんので、2022シーズンについてはその影響は小さいと思います。また、シーズンチケットを販売しているクラブも多いので、現在数字を申し上げることはできませんが、2021年度より回復傾向にはあると思います。
Q:入場料収入で苦しんでいるというのは取材を通しても感じていますが、入場料収入が伸びないことに対して、入場料の価格を上げるという考え方を、Jリーグからクラブに指示することはあるのでしょうか。入場料金の設定はクラブの権限なのでしょうか。
A:大城マネージャー
入場料についてはクラブ側で決定するものですので、リーグ側から方針を指示していることはありません。
Q:Jリーグから入場料を上げた方が良いのではないか、という考えはないのでしょうか。
A:大城マネージャー
リーグとしてはそのような考えは持っていません。
Q:10クラブ中6~7クラブ程度2年連続で債務超過だと思います。2021年度については抵触しないとのことですが、2年連続ということは結構な状況だと思います。クラブの状況、改善に関する提案を教えてください。
A:大城マネージャー
債務超過については、財務基準上2020年度、2021年度は債務超過であっても財務基準に抵触しないとしていますので、急いで解消しなくても良いという考えを持っているクラブもあると思っています。2024年度までに解消すればよいというルールで運用していますので、そこを目指しているクラブが多いと評価しています。
Q:財務基準に抵触しないので、2022年度以降からしっかりやっていくということで、リーグからは厳しく指摘をしないということでしょうか。
A:大城マネージャー
2020年度は、予算も固まりシーズンも始まってからコロナ禍に突入しましたので、全部のクラブが突発的な赤字や債務超過となっています。
2021年度に関しては、コロナ禍で入場者数の制限が続くかもしれない中で予算を策定していますので、突発的な債務超過に陥っているクラブは無く、想定の範囲内での債務超過という判断をしています。
Q:リーグの大きな戦略につながることかもしれませんが、クラブライセンス制度はクラブをつぶさないで健全に経営するという意味では非常に大事なシステムだと思いますが、同時にクラブ経営が縮小してしまう、運用を固めてしまう(狭めてしまう)ところがあって、リーグ全体の財務規模を大きくしていくという意味では、足かせになったような時期もあったと思います。
現在はコロナ禍ということで、非常事態を何とか潜り抜けようという意識だと思います。ここから日常に戻して、Jリーグをもう一度大きくしていくという中で、現状あまり明るい展望が描けないという感触を取材している立場ではクラブから受けています。今のような状況を抜け出して、日常に戻っていくエネルギーが出てくるのは、いつ頃だと考えていますでしょうか。リーグの戦略を持ってそのように移行していく時期が来るのかもしれませんが、2019年より前のような活力がクラブから出てくるのは、どのくらいからというイメージを持っていますでしょうか。
A:大城マネージャー
クラブライセンス制度については、2012年度より運用を開始し、制度開始前にも(クラブ経営が)縮小してしまうのではないかという議論はあったと聞いています。ただ実際には、2012年度から2019年度に向けて成長曲線を描いており、増加した収入をチーム人件費に投じられ、魅力的なフットボールが展開されたと考えています。制度があるから縮小するというのは、実際には少し違うという感触を持っています。ただ2020年度、2021年度に関しては、コロナ禍でクラブ経営が苦しく、我々も特例措置をとることで対応しました。
特例措置をこのまま続けるという考え方もなくはないですが、一般的な経営という考え方の下では足腰をしっかりしないとクラブの成長につながりません。クラブからもいろいろなご意見がありましたが、回復し、しっかり基盤をつくるという意味で、猶予期間の設置と2024年度から制度を元に戻すという運用をしています。
クラブの成長については、私の担当領域ではないですが、今後色々な施策を打って行くと思いますし、数字の面ではコロナ前の93%まで回復していますので、活力としては戻ってくると信じております。
Q:ライセンス制度としては、2024年以降は反転攻勢に出られるような体制を整える、という思想をもって考えているということでしょうか。2024年度には、2019年度くらいまでの形に戻って、そこから攻めていくような財務状況を作ることを目標にするイメージでしょうか。
A:大城マネージャー
おっしゃる通りです。2022年度から猶予期間に移行していますので、今年からまさに回復基調に向かっていくものだと認識しています。