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「ワクチン・検査パッケージ」はどのようにして行われたのか?2021JリーグYBCルヴァンカップ決勝「ワクチン・検査パッケージ」実施レポート

2021年12月10日(金) 08:00

「ワクチン・検査パッケージ」はどのようにして行われたのか?2021JリーグYBCルヴァンカップ決勝「ワクチン・検査パッケージ」実施レポート

「ワクチン・検査パッケージ」はどのようにして行われたのか?2021JリーグYBCルヴァンカップ決勝「ワクチン・検査パッケージ」実施レポート
10月30日の2021JリーグYBCルヴァンカップ決勝で、「ワクチン・検査パッケージ」の技術実証が実施された

名古屋グランパスが初優勝を飾った10月30日の2021JリーグYBCルヴァンカップ決勝で、「ワクチン・検査パッケージ」の技術実証が実施された。

会場となった埼玉スタジアム2002には、大規模イベントの入場者数制限1万人(当時)にプラスし、ワクチン・検査パッケージシート(VTシート)1万席を設け、入場制限緩和に向けたオペレーションやデータの集積などが行われている。

この技術実証の実施目的について、Jリーグ・新型コロナウイルス対策室の仲村 健太郎は次のように語る。

「緊急事態宣言なり、まん延防止なりで人数上限が制限されているなかで、特に収容数の大きなスタジアムでは席が空いていました。そのなかでいかにしてお客様をお迎えできるか。海外では100%近くのお客さんが入っているなかで、日本でもワクチン・検査パッケージを政府が導入するという情報があり、Jリーグとしても少しでも多くのお客様に安心してスタジアムに来ていただく環境が作れないかということで、このワクチン・検査パッケージを導入しました。コロナ禍で入場者数が激減し、クラブの収益を痛めていたところもあるので、当然、それにも貢献できたらという想いもありました」

Jリーグではまず10月6日に豊田スタジアムで行われた名古屋グランパスvsFC東京のルヴァンカップ準決勝を皮切りに、日産スタジアムノエビアスタジアム神戸等々力陸上競技場などでワクチン・検査パッケージを実施。1万人規模の大掛かりなものは、10月24日に名古屋が実施したものに続いてルヴァンカップ決勝が2例目となった。

「Jリーグとしては10月初旬の名古屋を皮切りに徐々に席を増やしていったんですけど、設定する席数は政府から出ているものをベースに、プラスアルファの部分はクラブや各自治体で設定していました。今回のルヴァンカップでは空いている席がどれくらいあるか、運用としてどれくらいさばけるかなどを踏まえたうえ、埼玉県側と調整して席数を決定しました」

1万席のVTシートが設置されたのは、スタジアム上部に当たるアッパー席。通常の席とは完全に隔離され、配席も前後左右を1席開けたいわゆる“市松模様”の形となった。
「今後のことを考えれば、席を詰めた運用をJリーグとして先陣を切ってトライアルしたかったんですが、最終的に席を空ける形となりました。ただ、すでに名古屋などがやってくれていますので、各クラブの運用から知見はたまっていくと思っています」

ルヴァンカップでのVTシート設置に向けては、当然、大きな苦労もあったという。

「スポーツ界ではJリーグが初めてワクチン・検査パッケージを導入したわけですが、スポーツ界のスタンダードとなる運用をクラブと一緒に考えていったのが、9月末くらいです。その後、政府と何度かやり取りするなかで、政府と私たちが一緒になって運用を考えていきました。例えば入場の前にワクチンの接種証明や検査の陰性証明を確認するプロセスを踏むのですが、項目として何を確認すればいいのか。あるいは有効期間をいつに置いたらいいのか。今回は2回目のワクチン接種から14日以上経ったものを有効としたのですが、そういった部分も私どもとすり合わせしながら決まっていきました。初めてのことですから、手探りの部分は大きかったです」

当日、懸念されたのは入場時のオペレーションだ。入場時にはワクチンの接種証明、もしくはPCR検査の陰性証明と本人確認、そしてチケットの3つを提示しなければいけないため、通常の入場よりも時間がかかることになる。そのため待機列の発生や混乱が生じることも考えられたが、当日はそのようなことは起こらなかった。

「大きな混乱はなかったですね。早ければ1人当たり20秒ほどで入場いただけ、平均で30秒くらい。大きな混乱なく9000人近くを通すことができたので、上出来だったと思います」

ただし、なかにはワクチン接種からの日付が条件に満たしていなかったり、証明書を忘れてしまう人もいたという。

「不備があったのは50件くらいでした。忘れた方もいましたし、そもそもそうだと知らずにVTシートを買われた方もいました。お客様への告知は課題としてありますが、あらかじめ想定していたので、一般の席をある程度確保しておき、お客様にご了承いただいてそちらの席に振り替えることで対応しました」

もっともこの対応も、埼玉スタジアムのようなキャパシティの大きい会場では可能だが、そもそも入場可能数が少ないスタジアムでは、振り替え席を用意できないことも考えられる。

「収容率を上げていけば、そうした振り替えられる席がなくなってくるかもしれないですね。そうなると不備のある方は入場できなくなってしまいます。現時点では、告知を徹底するしかありません。チケットをお持ちいただくのと同じレベルでの対応をお願いすることを徹底していきたいと思います」

それでも、不備が出る可能性は小さくない。今後はチケットとリンクさせたり、アプリなどと連携することも考えているという。

「Jリーグ公式アプリやJリーグチケットと連携できるのがいいと思いますが、各事業者が開発すると、当然コストもかかってきます。この仕組みがいつまで続くかもわからないなかで、そこにコストを割くのも企業の原理としてなかなか難しいところはあります。ひとつ考えているのは、民間のアプリを活用させていただくこと。ルヴァンカップで試行するにはちょっと間に合わなかったのですが、今後は政府もワクチン・パスポートのアプリを開発していくそうなので、来季に向けて、もしこの制度が続くこととなれば、デジタルでの解決策も視野に入れながら、お客様にとっても使いやすく、リーズナブルに気軽に使えるものを何とか導入できればと思っています」

今回のワクチン・検査パッケージの技術実証について、仲村は「おおむね上手くできたと思います」と振り返る。

一方で課題もあった。ひとつはチケットの販売設定だ。

「これはチケット戦略の領域なので私が語ることではないのですが、今後実施する各クラブにとっても悩みどころだと思います。ルヴァンカップでは1500円という安い値段を設定しました。安心感を求める家族連れに多く来てもらいたいという狙いもあり、人数が増えればさらに安くなるというインセンティブも設けました。ただ、席はアッパー席であまり見やすい席ではありません。むしろお客さんとしては希望する席で見たいという方のほうが多いのかなと。安さや、安全さを求めるよりも、ある程度、この席で見たいという希望のほうが多かったのかなと思いますね」

当初は「売れなかったらどうしよう」という想いもあったというが、それでも用意していたVTシートは完売となり、一つの手応えを得られたのは今回の成果でもある。

「やはり一定程度、安心・安全を求めて購入される方もいらっしゃいますし、来場手続きにひと手間かかってしまう分、安さも売りにはなると思います。本来は良いポジションの席というか、正面からでも見られる席にVTシートを設置したほうがいいのかもしれませんが、そこはまだワクチンを打てていない方もおられる中なので、難しいところでもあります」

では、実際にVTシートを利用した方の反応はどうだったのか。Jリーグがルヴァンカップ決勝のVTシート利用者に対して行ったアンケートによると、満足度は0~5の6段階評価で、最高値に当たる「5」が46.8%となった。「4」も30%で、多くの人が満足したという結果が得られている。

安心感の項目でも「4」と「5」の合計値が75%を超え、「今後も希望する」と答えた方は52.1%、「わからない」が41%だった。

当日の会場で利用者を取材すると、購入理由は「席が取りやすかったため」「安心できるのと、価格が安かったため」という声が多かった。

また、愛知県からやって来た30代の女性は「幼児がいるのと自分が妊婦なので、安心感のあるVTシートにしました。コロナ前はよく観戦していましたが、感染拡大後は妊娠中ということもあって観戦は控えていました。今回はワクチン接種者向けということだったので、感染拡大後、初めて観戦に来ることができました」と購入理由を説明。実際に利用した感想は「各所にアルコール消毒なども設置されており、ほかの観戦者も節度を持って応援していたので、安心して観戦することができました」と話していた。

他にも「安心感があるのでまた利用したい」という声が多く、「安心・安全」を担保する目的は、おおむね果たされたと言っていいだろう。

ルヴァンカップ決勝後にも、各クラブはリーグ戦でワクチン・検査パッケージを積極的に実施しており、来季の試合開催に向けた準備を進めている。

現在は感染状況が沈静化するなか、入場制限の緩和も進んでいる。さらに状況が落ち着けば、制限の撤廃に向かうかもしれない。もっとも、世界各国を見渡せば、予断を許さない状況でもある。今後、日本でも再び感染拡大が起こる可能性はゼロではない。

そうした状況になった時にこそ、このワクチン・検査パッケージが有効となる。仲村は言う。

「今後、再び感染状況が厳しくなったとしても、ワクチン・検査パッケージがあれば、無観客にしなくてもいいということになるかもしれません。そうした時に、今やっている技術実証は確実に生きてくるはずです。2022シーズン、そのような状態になっても1人でも多くのお客様にご来場いただけるよう、入場可能数を100%に近づけていけるひとつのカードになるのであれば、多くのクラブでワクチン・検査パッケージの知見をためていただきたいです。もちろんリーグとしても多くの知見をためて、来季は少しでも多くのお客様をお迎えできるようにしていきたいと思っています」

 

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