2月、3月度の明治安田生命Jリーグ KONAMI月間MVP(J1)に選出されたのは、名古屋グランパスの躍進を支えた稲垣 祥だ。そのハイパフォーマンスはいかにして生まれたのか。ピッチ内外でのこだわりを明かしてもらいパーソナリティを掘り下げながら、プレーする上での意識や考え方に迫った。MVPにつながった稲垣の「ベストルール」とは?
――まずは改めて、月間MVPを受賞した感想を教えてください。
「素直に嬉しいですし、こうした賞をいただけること自体、これまでのキャリアではなかったことなので光栄に思います」
――2月、3月のパフォーマンスを振り返ってみて、MVPを受賞できた要因はどこにあったとご自身は思いますか?
「チームが絶好調だったというところが何より大きくて、その好調のチームにおいて自分自身も点を取ることで、躍進の要因のひとつになれたと思います。チームの努力なくして、この賞はなかったのは間違いありません」
――当然、ご自身のパフォーマンスにも手応えはあったと思いますが。
「チームとしては結果を出しながら、どの選手が試合に出てもいいパフォーマンスができていました。個人としても、試合を決定づけるゴールを決めるところではいい働きができたかなと思います。ただ、それ以外のところでは、まだまだ自分自身が見つめるべきポイントは多いと思っているので、満足はしていません」
――今回はピッチ内外を問わず、稲垣選手の様々なこだわりを聞いていきます。そのこだわりから稲垣選手のパーソナリティや好調の要因を探っていければと思います。まず、試合前のルーティーンやゲン担ぎはありますか?
「ゲンを担がないのが、ゲン担ぎですね(笑)。試合前に何かをしなければいけないとか、この流れじゃなくてはいけないというのはないですし、むしろ意識的に持たないようにしています。もちろん、たまたま同じような流れになることもありますけど、それはゲンを担いでいるわけではなく、自分が100%のパフォーマンスを出すための準備としてやっているだけです」
――では、食事に対するこだわりはありますか?
「乱れた食生活をしないとか、最低限のところは守っていますけど、何かを我慢したり、試合前にこれは絶対に食べるというものはありません。いろんなものを食べながら栄養を取るのが一番いいと思っているので。基本的には、妻が用意してくれる物を食べるだけです。妻も自分のコンディションを気にしながらいろいろと考えてくれていて、その結果、バランスよく食べられていると思っています」
――驚異的な運動量を誇る稲垣選手ですから、何か特別なスタミナ源があるのかなと思っていました。
「それはよく言われるんですけど、特別に食べている物はないんですよ。栄養をコントロールしてくれる妻を信頼していますし、感謝していますね」
――食事以外の部分で、コンディション管理に気を付けていることはありますか?
「いっぱいありますよ。細かいところで言えば、胃を温めるために朝は白湯を呑むとか、夜はシャワーで済ませず必ず湯船に浸かるとか。寝る前にストレッチをすることもそうですし、就寝前は携帯を使わないようにもしています。睡眠に関して言えば、寝ている時のデータを取って、そのデータをもとに専門家の方にアドバイスをもらっています。やっぱり大事なのは、食事と睡眠と休養ですね。ただ、あまり意識しすぎて負担になるのも良くないので、ストレスのかからない程度にやっています」
――それは年齢を重ねるなかで変わってきた部分ですか?
「いや、昔からですね。育ってきた環境のなかで、コンディション管理の重要性を理解していましたから。年を取ってきたからこうしようではなく、昔からアスリートとして成功するためには何が重要なのかを意識して取り組んできました。もちろん、自分の知識だけではできない部分もあったので、そういうものを教えてもらえる環境だったり、指導者がいたことが幸運だったかもしれないですね」
――身体作りや、コンディションについて考えることは好きですか?
「引退したら絶対やらないですね(笑)。もちろん現役中は、大事なものだと理解しているので、そこに意識を置いたり、知識を入れたりして、少しでも自分のパフォーマンスが良くなるように努力しています。コンディションは、1週間や1か月やっただけでよくなるものではないんです。本当に長いスパンの積み重ねで、少しずつベースができあがってくるもの。そこの積み上げる作業に関しては自信があるところだし、今の良いコンディションにつながっているものだと思っています」
――オフの時間でこだわっていることはありますか?
「最近はゲームをやってますね。『デットバイデイライト』っていうゲームにはまっていて、YouTubeの配信動画を見て勉強するくらいはまっています(笑)。それがいいリラックス法でもあると思いますし、サッカーのことを忘れられる時間でもありますね」
――そのゲームが、好パフォーマンスにつながっている部分はありますか? 少し無理やりですけど(笑)。
「いや、それがあると思っています(笑)。結構、サッカーにつながっている部分があるのかなと。例えばこの作業をやりながら、別の状況を気にしないといけなかったり。情報を得て判断しないといけない状況もある。裏の取り合いといった相手との駆け引きもあるので、そういった面では勝手に似ていると思ってます」
――なるほど、ゲームがサッカーにつながっているという発想は面白いですね。でも、サッカーを忘れる時間なのに、結局サッカーのことを考えているという。
「確かに。職業病なのかもしれませんね(笑)」
――では、小さい頃から継続して取り組んでいることはありますか?
「寝る前のストレッチです。お風呂から出た後に、毎晩。これは小学校の時からずっとやっていますね。親に聞いてもらえばわかると思いますけど」
――なにかきっかけはあったんですか?
「小学校の時の指導者に、『プロサッカー選手に身体が硬いやつなんていないよ』と言われてからですね。『そうなのか、プロになるためには身体を柔らかくしないとダメなんだ』と思って始めて、今でも続いている感じです。でもプロになってみたら硬い人もたくさんいたので、いい意味で騙されましね(笑)。硬いことがダメじゃないってことは今になって思いますけど、ただ今の自分の土台があるのは日々のストレッチのおかげだとも感じています。怪我をしない身体を作れている要因も、そこにあるんじゃないかなと。今では歯磨きと一緒で、やらないと気持ち悪い感じですね(笑)」
――今季の話も聞かせてください。プレーする上で意識していることだったり、昨季から変えた部分はありますか?
「変えたことはないですね。ただ、名古屋に加入した去年から、常に自然体でやろうということは意識しています」
――今季はすでに印象に残るゴールを多く決めていますが、得点に対する意識が高まったということはないですか?
「それもよく言われるんですけど、全然そういうことはなくて。積極的にシュートを打とうとか、ゴールに絡んでいこうという意識はなく、たまたま目の前にスペースが空いて、いい感じで足が振れて、ゴールにつながっているというだけなんです」
――稲垣選手と言えば、ミドルシュートもそうですけど、やはりそのボール奪取能力に特長があります。そこに対するこだわりだったり、秘訣はありますか?
「間違いなく大事なのは予測ですね。自分がボールを奪えている要因の半分くらいは、そこにあると思っています、あとは小さい時から、ボールを奪うところにフォーカスしてきたこと。普通に教わっていたら、ボールホルダーに対して、ただ前に立っていればいいとなっていたと思うけど、そこでもう半歩だったり、30センチでもいいので、少しでも間合いを近くして、寄せに行く。そういう風に教わったし、そこは自分自身がこだわりながらやってきたことですね」
――先日、日本代表デビューを果たし、いきなりゴールも決めましたが、代表に行ったことで変わったことはありますか?
「もちろん、貴重な経験をしたからこそ、その経験をチームに還元しなくちゃいけないという想いはありますけど、自分が急に変わって、何かをしようというのは、ちょっと違うなとも思っています。自分は常に変わらず、自然体でいようと言い聞かせながらプレーしていますね。でも、周りの反応が変わるんですよ(笑)。妻も、家に代表のユニホームを飾りたがって。でも、僕はそういうものを飾りたくないタイプなんです。飾ると意識しちゃうので、妻にはやめてと言っています。あくまで気負わず、自然体でやっていきたいですね」
――最後にサッカー選手として一番大切にしていることを教えてください。
「当たり前ですけど、チームの勝利のためにプレーするところですね。自分の良いプレー、悪いプレーはありますけど、そこをフォーカスするのではなく、チームとして結果を出すためにどうするべきか。チームのために何ができるのか。そういう考え方でずっとやってきたし、そこはこれからも変わらない部分。試合に出ていても、出ていなくても、どんな立場でも、チームのために何ができるかを考えながら、振舞える選手であり続けたいと思います」
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