1月29日から31日までの3日間にわたり、毎年恒例のJリーグ新人研修が行われた。
この研修に参加したのは、今季からプロの世界に飛び込んだ新人選手のほか、昨年参加できなかった2年目の選手も含めた計209人。座学やグループワークを通して、プロ選手に求められる資質を身に付けていった。
Jリーグ村井 満チェアマンによる講義では、「個人事業主」であるサッカー選手が、自らを経営し、どのように価値を高めていくのか。そのヒントが教示された。
成功のキーワードは「傾聴力」と「主張力」だ。相手を受け入れ、自分の意見・強みを理解させること。そのサイクルを生み出すことが重要であり、多くの一流選手はこの能力を持っているとチェアマンは言う。
「高校の時から聞く耳を持って、主張するというのは腐るほど言われてきました」そう語るのは、市立船橋高から清水エスパルスに加入した鈴木 唯人だ。
「市船では人間性の部分をずっと言われてきたんですが、チェアマンの話を聞いて、当てはまる部分が多かった。今までやって来たことが改めて重要だと分かったので、これからもその意識を持ってやっていきたいと思います」
桐光学園高からセレッソ大阪に加入した西川 潤は「自らを経営する」ことの重要性を感じたという。「個人事業主として自分を経営するという話が印象に残っています。悪戦苦闘しながら努力していくこと。積み重ねてやっていくことが大事ということを改めて理解しました」
元日本代表の岩政 大樹さんの講義も興味深い内容だった。
岩政さんが、新人選手に送ったのは「自分がどういう人生を歩みたいのか。そのビジョンを持つことが重要」というメッセージだ。そのためにまずやるべきことは「自分のセオリーを作ること」「長所から逆算する」「外への発信より、内での発信」の3つを挙げている。
「プロ生活は苦しくてしょうがなかった」と話した岩政さんが、なぜ長く現役を続けられたのか。それは「逃げずに努力を続ければ、何年かに1回進化が生まれたから」だという。
「その瞬間だけのために続けていた。その瞬間を信じてプレーできるかどうか」岩政さんから送られた熱いメッセージは、神妙に聞き入る新人選手たちの胸を打ったに違いない。
研修ではほかにも、SNSの活用法や、メディアトレーニング、クラブのビジネス、リスクマネジメントなど、多岐に渡るテーマの講義が行われた。
メディアトレーニングでは実際にカメラの前に立ってインタビューのシミュレーションを実施。研修で学んだ「表情」「発声」「動作」の3つのポイントを意識した選手たちは、次第にしっかりとした受け答えを見せていくようになっていった。
リスクマネジメントの講座では、身近に起きうるリスクを考えていった。交通事故、窃盗、暴行など。これまでのJリーグでもこうした不祥事は起こっている。他にも異性関係、儲け話、薬物、八百長、人権差別など、知名度が高まれば高まるほど、様々な誘惑も増えてくるかもしれない。その危険性を理解しなければ、自らだけでなく、クラブ、リーグ、さらには社会全体に大きなダメージを与えることにつながりかねない。プロ選手とはそれだけ影響力のある存在なのだ。
影響力の大きさは決してダメージを被るものだけではない。一方で、多くの人に勇気や元気を与えることにもつながる。サッカーを通じて社会に貢献することもまた、プロ選手にとっての重要なテーマである。
静岡学園高から鹿島アントラーズに加入した松村 優太が印象に残ったと語ったのは、「スポーツのチカラ」をテーマとした講義だった。
人々に勇気を与え、希望となり、地域を豊かにしていく。プロサッカー選手として何ができるかを考える内容だ。
「サッカーは人々を魅了するスポーツだと思います。地域に元気を与えたり、障害を持った人たちにも勇気を与えることができる。サッカーを通して、人の力になりたいと思いました」
ピッチ上でプレーし、チームに結果をもたらすだけがプロ選手ではない。社会に影響を与えられる存在だからこそ、できることはたくさんある。プロ選手であり、社会人でもある。自覚と責任をもって、プロの世界に飛び込んでいく覚悟を示していた。
研修の最後には、Jリーグのテクニカルダイレクター・コンサルタントを務めるテリー ウェストリー氏から「大きな夢を持って、これからのキャリアを進めていってもらいたい」というメッセージが送られた。
大きな夢を持ち、それを実現するために何をすればいいのか。この3日間の研修で、新人選手たちは多くを学び、感じとっていったに違いない。
ただし、知識を身に付けるだけでそれを実現することはできないだろう。理解したうえで行動に移さなければ意味がない。プロは厳しい世界である一方で、無限の可能性が広がっている。研修を終えた新人選手たちは、何を思うのか。その意識によって、彼らの未来は大きく左右されていくはずだ。