【3つのフェアプレーの推進】
今年1月のチェアマン就任に際し、Jリーグを世界に誇れるオープンかつフェアなリーグにしたいと抱負を述べました。「ピッチ上のフェアプレー」、クラブ経営の透明性を高めて安定した土壌の上にリーグの発展を目指す「ファイナンシャル・フェアプレー」、誰もが安心してスタジアムの非日常空間を楽しみ、オープンでクリーンなリーグであり続けるための「ソーシャル・フェアプレー」という「3つのフェアプレー宣言」を行い、2014シーズンを迎えました。 全ての試合を終えて振り返ると、異議・遅延行為が減少し、フェアプレー賞受賞がJ1・J2で前年の8クラブから史上最多の14クラブに増えました。選手やチームがピッチ上のフェアプレーに意欲的に取り組んだ証しであるといえます。
ファイナンシャル・フェアプレーにおいては、クラブライセンス制度の判定猶予期間である3年目で、J1、J2とも債務超過クラブ、3年連続赤字クラブが初めてゼロとなる見込みです。各クラブの事業規模も広告料や入場料といった営業収入が伸び、チーム人件費など営業費用も増加しました。全体的に緩やかながら拡大均衡型の経営となりつつあります。経営の健全化とともに、事業規模が徐々に拡大してきたといえます。
また、クラブライセンス導入以降、スタジアムの改修や新設の機運が高まり、長野や大阪、京都、北九州、沖縄などで新しいスタジアムが誕生します。今後計画されるスタジアムは、単にサッカー観戦の環境整備にとどまらず、商業施設、防災機能などを有した複合施設が理想です。そのため「スタジアムで街づくりを」というコンセプトのもと、用地面積や場所に見合った街づくりのプラン、資金調達法やスタジアムの事業収支計画なども含めて提案を行っております。
一方、3月8日の浦和レッズ対サガン鳥栖における差別的横断幕の掲出や、横浜F・マリノスサポーターの人種差別的な行為が大きな社会問題となりました。スタジアム観戦のあるべき姿が問われ、日本サッカー界全体がソーシャル・フェアプレーの重要さを再認識する年でもありました。浦和、横浜FMの両クラブはファン・サポーターと共に、もう一度、フェアで愛されるクラブをつくるという強い覚悟を表明し、問題へ真摯に向き合い、再生に尽力しました。その結果、浦和は無観客試合という試練を乗り越え、第32節のガンバ大阪戦では今シーズン最多となるファン・サポーターがスタジアムに駆け付けるなど、リーグ戦2位の成績を残しました。横浜FMも幾度となくサポーターとミーティングを重ね、クラブ・選手・サポーターが一丸となって問題と向き合い「FAIR PLAY, FAIR SUPPORT」のメッセージを社会へ発信し続けています。
【+Qualityプロジェクト】
開幕前には、お客さまに本当に見ていただきたいサッカーを実現するために、+Quality(プラスクオリティー)プロジェクトの重点実施項目として、選手、監督、レフェリーを含めた全ての関係者と、試合の魅力をそぐ行為の減少を目的に「笛が鳴るまで全力でプレーする」「リスタートを早くする」「時間稼ぎや見苦しい交代をやめる」という「3つの約束」を交わしました。お客さまがサッカーを楽しむ時間を90分のうちわずかでも奪っていないか、足元を見つめ直すために、全試合の所要時間を計測、数値化し、検証を行いました。結果的には異議・遅延行為は確実に減少し、多くのクラブでリスタートや交代に要した時間も短縮しました。一方、世界基準で見た場合、コーナーキックを蹴るまでの時間はFIFAワールドカップブラジル大会よりも平均して約4秒遅いことがわかりました。短ければ良いとは一概に言えないものの、考える速さや展開のスピードなど世界との4秒の差にどのような意味があるのかを考えていかなければなりません。
【リーグ戦、リーグカップ戦などを振り返って】
G大阪がJリーグヤマザキナビスコカップ、J1リーグ戦、そして天皇杯全日本サッカー選手権大会と3つのタイトルを獲得し、2000シーズンの鹿島アントラーズ以来2クラブ目となる国内三冠の偉業を達成しました。遠藤保仁選手が最優秀選手賞を受賞するなど、G大阪が復活を遂げた1年でもありました。また、来シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権は、G大阪、浦和、鹿島、柏レイソルの4クラブが獲得しました(柏はプレーオフから出場)。
J2は「縦への美学」を貫き圧倒的な攻撃サッカーで優勝した湘南ベルマーレ、着実に力をつけ入会3年目で初のJ1昇格となった松本山雅FC、J1昇格プレーオフでのGK山岸範宏選手の見事なゴールが記憶に新しいモンテディオ山形の3クラブが、来シーズンはJ1で戦います。地域クラブが力をつけ、確実に実績を上げ始めています。リーグ戦自体もJ1を経験したクラブが増えて年々レベルアップしており、これまで以上に優勝、昇格争いがし烈なものになると予想されます。
今シーズン、11クラブで開幕した明治安田生命J3リーグによって、36都道府県にJクラブが広がり裾野が拡大しました。初代チャンピオンにはツエーゲン金沢が輝きました。2015シーズンからは新たにレノファ山口FCがJ3に入会し、Jクラブは37都道府県に広がります。J3は集客面に課題を残すものの、クラブがホームタウンに住む人々や企業、自治体などに少しずつ認知され、徐々に地域に根付いている様子がうかがえます。例えば土地の方言による場内アナウンス、地元ラジオ局のスタジアムDJなど地域の特色を生かし、人々の地道な活動が実ってサッカースタジアムも誕生します。また新しい育成の試みとして、J1・J2の22歳以下の選抜選手で構成されたJリーグ・アンダー22選抜が参戦しました。将来の日本サッカーを背負う若手選手の試合出場機会を増やすことを目的に、99人の選手が出場し、10位でシーズンを終えました。コンディション維持や競技のフェアネスの確保が今後の課題となります。
育成に関連して、次世代を担う選手たちによる第22回Jリーグユース選手権大会は、10年ぶりに鹿島ユースが優勝しました。
【世界に勝つために足りないもの】
タイトル奪還を目指したACLには、川崎F、横浜FM、セレッソ大阪、サンフレッチェ広島の4クラブが出場しました。それぞれ全力を尽くしたものの、ベスト16までに敗退と大変残念な結果となりました。またFIFA ワールドカップブラジル大会ではSAMURAI BLUE(日本代表)がグループステージ敗退。さらにU−16、U−19といったアンダーカテゴリーの日本代表も、各年代別ワールドカップのアジア最終予選で敗退が続くという残念な結果に終わり、こうした状況には強い危機感を抱いております。
一方、明るい話題としては、7月にU−14Jリーグ選抜がこの年代の最大規模の国際ユース大会「Gothia Cup 2014」決勝でドイツのチームを破り優勝しました。無邪気で幼い面を残す選手たちが、気後れすることなく堂々と世界の舞台で戦い勝ち抜いた功績をたたえたいと思います。
8年後の2022 FIFAワールドカップカタール大会を見据え、世界で戦える強い選手を育てるために、Jリーグは日本サッカー協会(JFA)と共に育成改革に着手します。まず、Jクラブの育成組織を評価するシステムの来シーズンからの導入を検討しています。これまで数字で表すことが難しかった育成の評価を、施設や人材、育成組織の持続性など多方面から格付けを行い、数値化することで世界との差を可視化します。さらに少年期から国際大会への出場機会を増やすため、大会誘致や海外遠征の機会を増やし、指導者も国際経験を積む機会を創出するなど、短・中長期の両面から育成への投資を検討しています。
日本代表の強化に向け、またアジアにおけるJリーグのプレゼンス向上のため、JクラブのACL優勝は至上命題です。来シーズンはJFAの協力を仰ぎ、天皇杯でACL出場クラブをシードするなど、レギュレーションの改定を含むカレンダー面を改良することが決定しています。引き続き金銭面や人的サポートも継続し、08年のG大阪以来となるタイトル奪還を目指します。
【2015シーズンに向けて】
Jリーグ開幕以降の20年余りで、関心のある層や入場者数が徐々に減少する現状を踏まえ、あらためてJリーグが取り組むべきことは何かをクラブと話し合った結果、「魅力的なサッカー」を「多くの人に伝える」ことを主眼に置いていくべきだと決意を新たにしました。2015シーズンのJ1大会方式を、従来の1ステージ制から2ステージ+チャンピオンシップ制へ変更するのは、その一環です。新しい大会方式は、年間チャンピオンに加えて各ステージの優勝、短期決戦のチャンピオンシップにより見どころが豊富となり、Jリーグを初めて見る方にもシーズンのどこを切り取っても楽しんでいただけるものとなっています。大会方式の改革に伴って一つ一つの試合への注目度が高まる中、フットボールの魅力の追求がますます重要なものになっていきます。
魅力的なフットボールの実現に向けて、中長期的には先に述べた育成改革を進めるほか、来シーズンはデジタルトラッキングシステムを本格的に導入し、全ての出場選手のパススピード、走力、走行距離などを計測、データ化して徹底的な可視化を図り、正しい現状の分析に生かしてまいります。さらに、臨場感ある環境で試合をお楽しみいただくために、スタジアム開発の推進や、デジタル技術を駆使した多彩なサッカーの楽しみ方も同時に提供してまいります。変革に向けた転換期となる2015シーズンより、J3リーグ戦をご支援いただいていた明治安田生命保険相互会社さまにJリーグタイトルパートナーとしてご支援いただくことになりました。リーグの財政面のみならず、全国の支店からJクラブおよびJリーグを目指すクラブを応援していただきます。大きな後押しを受け、Jリーグは力強く前進してまいります。
公益社団法人 日本プロサッカーリーグ
チェアマン 村井 満
以上