Jリーグは、1993年スタート時の10クラブから来年には38クラブにまで拡大し、今後40クラブまでその数を増やそうとしている。Jリーグが設立された1991年から19年の時を経て、全国のJクラブやリーグ、クラブにかかわるすべての方々の努力により、有形無形の価値が創出され、世界でも有数のプロサッカーリーグとして成長してきた。
一方で、クラブの経営問題、選手の育成、スタジアム整備など様々な課題が表面化しつつあるのも事実である。このような問題は、それぞれが突発的な事象として起こったわけではなく、Jリーグを取り巻く外的環境の急速な変化に対して、制度改善のスピードがやや遅れたことにある。
本年7月に第4代チェアマンに就任した私の最大のミッションは、現在Jリーグに存在する全ての課題を洗い出し、それを体系化し、大胆かつスピード感を持ってその解決にあたることに他ならないと考えている。
【リーグ戦、リーグカップ戦】
J1リーグ戦では、名古屋グランパスがリーグ戦初優勝を成し遂げた。ストイコビッチ監督のもと、豊富なタレントに加え、厳しい試合も勝ち抜く勝者のメンタリティを兼ね備えることができたのは、クラブがリーグ戦タイトルを奪取するという一つの目標に向かって一丸となった成果だと考える。
1ステージ制になって初めて最終節を待たずに優勝を果たしたことは、今シーズンのグランパスが他クラブに比べひとつ抜き出た存在であったことを証明している。
また、今シーズンJ1に復帰したセレッソ大阪が、攻撃的な布陣で勝利を重ね、最終節でAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内の3位に入ったことは、J2の戦いの中でも攻撃的な姿勢でチームづくりをしてきた成果であり、称賛に値する。
ギラヴァンツ北九州を加え、19クラブで行われたJ2リーグ戦では、柏レイソルが昨シーズンのJ2降格から見事1シーズンでチームを立て直し、他を圧倒する戦いぶりでJ2を制した。アカデミー組織出身選手が数多くトップチームに所属し、彼らがチームの中心となって昇格の立役者になったことはクラブの方向性が正しかったことを示している。
Jリーグヤマザキナビスコカップでは、ジュビロ磐田が12年ぶりの栄冠に輝いた。リーグ戦史上初の2年連続得点王である前田遼一選手を中心に、スピード感あふれる攻撃が際立っていた。延長戦にわたるサンフレッチェ広島との激闘は、ヤマザキナビスコカップ史上に残る名勝負というにふさわしい一戦であった。
【2010FIFAワールドカップ南アフリカ】
2010FIFAワールドカップ南アフリカにおいて、日本代表はベスト16という好成績を残した。
代表選手の全員がJリーグ所属または出身者であり、彼らの活躍が日本のファン・サポーターに感動を与えてくれたと同時に、Jクラブに所属するすべての選手たちにも、より世界を意識するきっかけを与えてくれたことに感謝したい。
そして、日本代表がさらなる高みを目指していくためには、Jリーグのレベルアップが不可欠であることは言うまでもない。漠然とではなく、名実ともに「世界に伍する」リーグになるために、よりハイレベルなリーグ戦を作り上げていきたい。
【ACL】
出場した4クラブがアジアのクラブタイトル奪還を目指し奮闘したものの、残念ながら鹿島アントラーズ、ガンバ大阪がラウンド16に進出したにとどまり、日本のクラブがACLで勝ち抜くための課題とアジアのクラブの競技レベルがここ数年で急速に上がっている現実を痛感させられるシーズンとなった。来シーズンは、必ず日本にタイトルを取り戻すことができるよう、リーグとしてもバックアップしていきたい。
【イレブンミリオンプロジェクト】
2007シーズンから4年間にわたり「イレブンミリオン」プロジェクトを実施した。昨シーズンまで3年連続で過去最多となる年間総入場者数を記録したが、最終年となる今シーズンは864万5762人に終わり、残念ながら目標としてきた年間1,100万人を達成することはできなかった。いくつかの外的要因はあるものの、目標達成ができなかったことは我々の努力が足りなかったと反省すべきである。
一方、数値目標としての「イレブンミリオン」は未達成となったが、全クラブ共通の目標を持つことにより、試合日を中心とした魅力あるスタジアムづくり、お客様を迎えるホスピタリティの向上、そして各クラブが取り組むホームタウン活動の充実などは、4年間の「イレブンミリオン」プロジェクトが残した成果と言えるであろう。
プロジェクトは今シーズンをもって終了したが、一人でも多くのお客様を迎えるべく「魅力あるスタジアム」、「ホームタウンで愛されるクラブ」の実現に向け、来シーズンも38クラブとともに努力していきたい。
【相手を讃える】
Jリーグヤマザキナビスコカップ決勝前日のインタビューでサンフレッチェ広島のペトロヴィッチ監督は、「たとえ決勝で敗れたとしても、準優勝したことを祝いたい」と話した。決勝当日、惜しくも延長の末敗れた後も、サンフレッチェの選手たちは表彰式において勝者・ジュビロ磐田をたたえる姿勢を崩さなかった。
J1リーグ戦、名古屋グランパスが優勝を決めたゲームで、試合終了後相手チームの湘南ベルマーレのファン・サポーターはグランパスの優勝をたたえ、惜しみない称賛の拍手を送った。それに対してグランパスの監督・選手たちは感謝の意を示し、ベルマーレ側のゴール裏に挨拶に出向くという感動的なシーンがあった。
選手もファン・サポーターも対戦相手への敬意を持って試合に臨み、ひとたび試合が終われば相手の戦いぶりに称賛を惜しまない。まさにスポーツマンシップの原点を見る場面に数多く出会えたことに、チェアマンとして心から喜びを感じている。
【理念を見つめ直す】
今シーズン、クラブ経営や公式入場者数の発表などJリーグの根幹にかかわる問題が様々な場面で表面化した。これは、「なぜJリーグは地域に密着した活動を原点としているか」、「なぜJリーグは公式入場者数を実数で公表しているのか」など、Jリーグの理念に対する意識が欠如していために起きたことだと言わざるをえない。
われわれは今一度原点に立ち返り、先人たちが築き上げ、実践してきたJリーグの理念に基づいたリーグ・クラブ運営に取り組むことが不可欠である。再度襟を正し、「Jリーグ百年構想」を堂々と語れる組織運営に取り組んでいきたい。
社団法人日本プロサッカーリーグ
チェアマン 大東 和美