J1王者との力の差は歴然としていたが、それは戦う前から承知していたこと。リーグ戦から続けてきたスタイルをぶつけながら臆せず戦い、G大阪の個の部分を組織力でどこまで抑え込めるかが勝敗のカギだった。山形は初めて立った天皇杯決勝のピッチで、いつもどおりのハイプレスで好スタートを切る。しかし最大限の警戒をしていてもなお、自陣ゴールネットは3冠への意欲が高いG大阪に揺らされていた。
最初の失点は4分。GK東口順昭が蹴るフリーキックにパトリックが競り、落としたボールを宇佐美貴史がシュートに持ち込んだ。形としては非常にシンプル。宇佐美のシュートはGK山岸範宏に弾かれているが、ゴールを決めた2本目のシュートへのリアクションが早かった。1本目の対応に入った状態で後ろ向きのまま宇佐美に抜け出された當間建文は「最初の失点は、切り返すという思いもちょっとあって、前には寄せたんですけれども、シュートのこぼれの反応というのは相手のほうが上でした」と振り返る。22分に喫した2失点目もシンプルな形から。山形のコーナーキックの跳ね返りは、カウンター対応で残っていた山田拓巳がいち早くボールに寄せた。しかし宇佐美に競られてバランスを崩し、さらわれたボールはパトリックのフィニッシュへとつながっている。「ポジティブに言えばけっして崩されてはいない。でもその2点が勝負を分ける2点になってしまっている」と山岸。J1を席巻した強力2トップの圧力をまともに受けることになった。
失点シーンにとどまらない。17分、最後は宇佐美のシュートがわずかに枠をそれた決定機は、中盤で宮阪政樹がプレッシャーを受けて囲まれ、ロストしている。山形はその5分ほど前から宮阪を中心にボールを細かく動かし始めたが、G大阪はむしろ相手を泳がせながら潰す頃合いを計っていたようにも見えた。さらに組織で崩された場面もあった。30分、裏へのボールをことごとく収めていたパトリックは、ここでは右サイドに膨らんでから中へ入り込んだ。付いていたのは左ウィングバックの伊東俊。ミスマッチのまま付いていくと、今度は空いたスペースに倉田秋にフリーで入り込まれ、そのままシュートを狙われた。前半終了間際にはボランチの松岡亮輔が下げられたボールをそのままキーパーまで追っていったが、そのプレスをかわされてギャップができた中盤で簡単に起点をつくられた。さらに、J2では攻守の切り換えを「売り」にしていた山形だが、「J2ではある程度カウンターをかけられても遅らせられるんですが、個のスピードでやられてしまう」(石崎信弘監督)といったシーンが目立ち、まずパスをミスしない、やりきって終わるという大前提の大事さも痛感させられた。
ただし、噴出した課題は「J1で優勝したガンバに対して自分たちは勇気を持って戦ったと思います」(石崎監督)と真っ向勝負を挑んだからこそ。その姿勢が、後半、スタジアムの空気を変える。
後半、伊東に代えて左ウィングバックに起用された舩津徹也はボールの供給源として攻撃の起点となっていた。ビハインドを追い前がかりでリスクを冒しているため、時折裏へボールを入れられたが、粘り強く対応して3失点目を許さなかったことで流れが少しずつ引き寄せられる。ビッグチャンスが訪れたのは、60分に山崎雅人から林陵平へスイッチした直後。舩津からのクロスに林がニアで引きつけ、中央でディエゴがシュート。ここは決めきれなかったが、その直後にもオーバーラップした石川竜也に舩津からのパスがつながった。石川はマイナスに折り返す。ニアで松岡が触ったことが絶妙なアシストとなり、中央でロメロ フランクが反応して枠内に蹴り込んだ。1点差に詰め寄りさらに勢いを増す山形は、ディエゴがロメロ フランクとのワンツーからのシュートや、やはりロメロ フランクからのパスから右足でシュートを放つなど、同点ゴールの予感がスタジアムを包むまでにG大阪を追い込んだ。
しかし、足が限界に近づいたロメロ フランクに代わり中島裕希を最後のカードとして投入した直後、右ウィングバックの山田が足をつる。担架でピッチ外へ運び出されたあと、10人になった山形は、いったん宮阪が右サイドに出てカバーしたあと、4バックに変えたシステムで山田の回復までしのぐ選択をするが、その落ち着かない時間をG大阪には見逃してもらえなかった。宇佐美のミドルシュートには石井秀典と當間が前後でブロックを試みたが、當間の足に当たったボールがそのまま枠をとらえ、3点目を失った。
その直後、急遽つくられた円陣のなかで山岸は「絶対に気持ちを落とすな、弱気になるな」と声を掛けている。最後は山田も不十分な状態で戻り再び11人となったピッチで、今シーズン最後のホイッスルを聞いた。最後まであきらめずに戦い続けた自負は、全力を尽くしても届かなかったという現実に押し潰されそうになっていた。天皇杯準決勝以降の2試合とJ1昇格プレーオフ2試合、注目を集めてきた山形のチャレンジは、敗戦という形で幕を下ろした。
「決勝に出たからいいかという空気は僕は絶対嫌なんですよ。やっぱりファイナルまで行ったら、勝たなきゃ『いいシーズンだった、いい大会だった』とは言えないので。当然、これからクラブの新たな歴史をつくるうえで、『今日準優勝したからよかったね』では絶対終わらせたくないと思います。今後、J1の頂点なのか、天皇杯の頂点なのか、ヤマザキナビスコカップの頂点なのか、チームだけでは獲れないですから、クラブ、スタッフ全員がそういう意識をもってこれから取り組んでいくことが絶対大事だと思います」(山岸)。
時間ではない。それを経験したという事実でもない。この試合で感じた悔しさを消すことができるのは、現実を受け入れ、一つずつ克服していくことのみ。そして将来、山形が初タイトルを獲る日が来るとすれば、それを積み重ねた先にしかない。
以上
2014.12.14 Reported by 佐藤円