3年目のJ1昇格プレーオフは、J2リーグ5位がJ1ライセンスのない北九州ということで3チームがJ1昇格の残り1枠を争うイレギュラーなものとなった。1試合のみ行われた11月30日の準決勝では、後半アディショナルタイムにGK山岸範宏がCKからヘディングシュートを決め、山形が2−1で磐田に競り勝つという劇的な幕切れ。山形は11月26日の天皇杯準決勝で、J2リーグ3位で先にJ1昇格プレーオフ決勝進出が決まっていた千葉に3−2と競り勝った。勝たなければ決勝に進めない一発勝負で2試合連続の接戦を制し、山形は勢いに乗っている。だが、前述の山岸の得点はそのシチュエーションを想定して練習していたそうで、勢いだけでなく周到に準備をしていたからこその賜物だ。
千葉は11月23日のJ2最終節で森本貴幸が讃岐の選手との接触プレーで脳震盪を起こし、天皇杯準決勝の前日にはケンペスにコンディション不良が発生。準決勝を免除される立場で救われ、森本とケンペスは順調に回復中だ。また、山形に敗れた天皇杯準決勝はJ2最終節からスタメンを6人入れ替えたこともあり、天皇杯準決勝の敗戦による大きなダメージや山形への苦手意識はなく、3バック採用後の山形との初対戦で得られたものは少なくない。千葉は天皇杯準決勝では後手を踏んだサイドの攻防で、特に中村太亮と谷澤達也が縦に並ぶ左サイドを制して、中盤でボールを奪われて山形のカウンター攻撃を受けないように攻めきりたい。サイドチェンジを交えたパスワークで山形のプレスをかわして攻撃の形を作ること、山形に簡単にロングボールを蹴らせないようにする守備が必要だ。
千葉は負けなければJ1昇格の権利を得られるが、山形は勝たなければJ1昇格の権利を得られない。山形は立ち上がりから激しくプレスをかけ、ボールを奪ったらスピーディーに攻めるスタイルを前面に出してくるだろう。千葉は山形の勢いある攻撃に対して受け身になってしまうと苦戦は免れない。『必勝』の思いで攻守ともに『前へ』のアグレッシブな姿勢を貫くことが必要だが、「引き分けでもOK」ということを忘れ、むやみに前がかりになって山形に付け入る隙を与えることは禁物だ。2012年のJ1昇格プレーオフ決勝で、千葉は直近の大分との対戦で敗れていたため「大分に勝ってJ1に昇格する」気持ちが強かった。だが、0−0の状況下の86分に米倉恒貴から荒田智之という攻撃的な交代カードを切った直後、オフサイドぎりぎりでディフェンスラインの裏に飛び出した大分の林丈統にゴールを奪われて0−1の敗戦。「引き分けでもOK」という条件を生かすも殺すも自分たち次第で、千葉は関塚隆監督の采配に加え、選手が戦況の理解とやるべきプレーを意思統一できるかがポイントだ。
山形はJ1昇格プレーオフ準決勝でディエゴが右太もも裏側を負傷して交代。攻撃面だけでなく前線からの守備でも貢献するディエゴの状態が懸念される。だが、ターゲットになれるテクニシャンの林陵平、相手の背後に飛び出すスピードが持ち味の中島裕希というディエゴに代わるスタメン候補は、大一番での起用に奮起するし、通常とは違うバリエーションの攻撃もできる。山形の攻撃はサイドの攻め上がりからクロスという形に目が行きがちだが、中央でのコンビネーションや単独のドリブル突破などの崩しもうまい。また、石川竜也と宮阪政樹の精度の高いキックによる得意のセットプレーも有効に生かしたい。
J1昇格プレーオフでは京都がスコアレスドローで決勝に進出した2013年の準決勝以外は、先制したチームが準決勝で決勝進出を決め、決勝でJ1昇格の権利を勝ち取った。この一戦も先制点が結果に大きく左右しそうだ。千葉はJ1昇格プレーオフの怖さも知っている経験を生かせるか。山形は今の勢いに乗った状態を維持できるか。冷静な判断を失わずにJ1に上がりたい熱い気持ちをプレーで体現できたチームがJ1への扉を開ける。
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2014.12.06 Reported by 赤沼圭子