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【J2:第42節 横浜FC vs 北九州】レポート:山口素弘がクラブの将来に捧ぐ歴史的一戦を勝利で締めくくる。北九州は悔しい敗戦も、Jの歴史に大きな爪痕を残す(14.11.24)

2014年シーズン最終戦。最終戦という舞台は、演じている者、観ている者双方が特別な感情を否が応でも持たされる場だ。その場で、横浜FC、北九州ともに現場のチームが磨いてきたサッカーを出し切った好ゲームは、両クラブの歴史に刻まれるべき試合だった。

前半は、特に北九州の今シーズンの好調の理由をピッチ上に表現する展開となった。見事に統率された2ラインのブロックをベースとした4-4-2の布陣で、横浜FCのDFラインに積極的にプレスを掛けていき、逆に横浜FCの前線が北九州のDFラインにプレスを掛ければ、DFラインが縦の深みを作ってそのプレスをかいくぐりながらボランチを経由して前に攻撃を仕掛ける。選手間ではっきりと意思統一されたサッカーで主導権を握っていく。柱谷幸一監督は「数多くあったチャンスを決めきれないと勝つゲームはできない」と振り返ったが、前半決定機を多くつかんだものの、それをゴールには繋げることができなかった。
対して横浜FCも山口素弘監督のラストゲームに捧げるかのように、北九州のプレッシャーに対しても恐れずにかいくぐりながら繋いでいくスタイルを貫く。前半30分以降は、4-1-4-1気味の布陣にすることで、逆に左右の幅を使いながらゴール前に迫るシーンを演出。ともに、磨いてきたサッカーをベースに、パスを繋ぎながら攻める面白い試合となっていく。

試合が動いたのは57分。横浜FCはハーフタイムに佐藤謙介を投入、すると積極的にボールに絡む佐藤を中心にパスワークのギアが上がり、ピッチをワイドに使いながら中央のエリアで縦パスを織り交ぜていく。このギアチェンジで横浜FCが先手を奪っていくと、56分に佐藤、寺田紳一、野崎陽介、小池純輝と絡みワイドな展開でCKを得た。内田智也が蹴ったボールをニアで黒津勝が逸らすと、ファーサイドで佐藤が押し込む。交代も含めて狙いの的中した先制ゴールだった。
北九州も終盤にはパワープレー気味に押し込むも、この1点が重くのしかかり、横浜FCの体を張った守備を崩せずに試合は終了。横浜FCが最終戦を勝利で締めくくった。

北九州は、最後は3連敗という形になったが、J1ライセンスが発給されないという条件の中で、勝点65、5位で締めくくることができたことは、クラブの将来にとって大きな自信になるとともに、向くべき方向を合わせることで、予算規模が必ずしも大きくないクラブでもJ1昇格プレーオフに出場することが可能な順位に入れることを身をもって示したと言える。この試合でも、指揮官が「90分を通して自分たちのやりたい内容はできていました」と振り返ったように、北九州が磨き上げてきたスタイルは貫くことができた。スタジアムの問題で、J1ライセンスの取得まではまだ時間がかかるが、「その時」のための大きなベースと経験を得た1年となった。

そして、山口監督が退任となる横浜FCもまた、山口素弘スタイルを披露しての堂々の勝利だった。J2通算51勝という成績は、過去の横浜FCの歴史でもダントツ。この日のニッパツ三ツ沢球技場では、試合前の選手監督の紹介に、「横浜フリューゲルス・山口素弘選手」の時代から使われていたチャントが4回歌われ、試合中そして試合後もこのチャントは鳴り響き続けた。いかに、山口素弘が横浜で愛されていたかを象徴するシーンだった。
一方で、山口監督はシーズン終了セレモニー、そして試合後の記者会見で、横浜FCのクラブ、サポーターに「愛のある苦言」を、言葉を選んで、しかし心に届くように語りかけた。僭越ながらも筆者にも書かせていただけるのであれば、セレモニーでの言葉とその後横浜FCのフラッグをはためかせた山口監督の姿は、16年前の11月7日に三ツ沢球技場において横浜フリューゲルスのゲルト・エンゲルス監督が「助けてくれ」と叫び、山口素弘選手がセンターサークルの中央に横浜フリューゲルスの旗を立てかけたことと相似している気がしてならない。特に今年は、横浜FCのクラブ、選手、サポーターの一体感が問われたシーズンだった。横浜FCに関わった人、関わっている人は「失ってから気づくのでは遅い」ということを16年前に学んだはず。幸いにしてあの時と違うことは、横浜FCには将来があるということ。山口監督は「正直に言えば(16年前と)変わっていない。このクラブができた経緯を考えれば、そこ(クラブを支える一体感)を抜きにして語るのはちょっとお門違いだと思う」と語った。横浜のサッカーを愛し、横浜のサッカーのレジェンドとして活躍し、そして横浜のサッカーの歴史に翻弄された山口素弘が最後に残した宿題は、横浜FCに関わる人すべてが必ず解かなければいけない。それが横浜FCの原点であり、存在価値なのではないだろうか。16年前の11月7日と同じく、リーグ戦の最終戦が終わった後、三ツ沢の空は夕焼けに覆われた。横浜FCを将来発展させ、「普通に愛されるクラブ」(山口監督)になれるか。山口素弘を失ってしまった横浜FCのクラブ全体にとって、その出発点となる試合だ。

今年もJリーグは好ゲームが多かった。松本の見事なJ1昇格、北九州の躍進は、Jリーグが掲げてきた理念が着実に根付いてきている象徴だろう。来年以降もさらなる発展を期待したい。

以上

2014.11.24 Reported by 松尾真一郎
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