「最後のホーム、サポーターの方たちの前で、J2残留を決めるという大事なゲームが戦える権利を持てた」と、試合前、冨樫剛一監督は、指揮を執って9試合2勝2敗5分と引き分けが多いながらも勝点1ずつを着々と積み重ねてきたからこそ、最高の舞台が巡ってきたの結果だと、ポジティブに話していた。そして、東京Vは全員が「勝って決めなきゃいけない」と必勝を期して挑んだ一戦だった。
その思いは、開始早々に平本一樹が積極的にシュートを狙っていくなど、選手たちのプレーから大いに伝わってきた。ただ、それが逆に硬さとなったことも否定できない。まして、この試合は、金鐘必の出場停止、安在和樹の負傷欠場と、DFの主力2枚を欠かなければならなかった。そのため、今季初の3バックという思い切った策に出ており、そのセンターバックには約一年ぶりの試合復帰となる福井諒司、プロ初先発のルーキー畠中槙之輔というニューフェイスが顔を並べたのである。様々な要素で「難しい試合だった」(冨樫監督)。
チャンスがあれば積極的にシュートは放つも、中盤でなかなかボールが収まらない。指揮官が常に重要視している「良いボールの奪い方をして、攻撃につなげる」という形ができず、奪ってもすぐ相手に渡してしまうなど、思うように自分たちがボールを保持する時間を作ることができずにいた。
逆に、群馬は、残留がかかる相手の高いモチベーションを理解している中「前半からシュートも打たれていた印象ですが、そこで失点せず耐えられた」(青木孝太)ことで、自分たちに流れを手繰り寄せることに成功した。特に35分過ぎからは、押し込む時間帯を迎えていく。そして、1分だけとられた前半アディショナルタイムでのことだった。東京VのCKが続き、群馬ゴール付近での展開から、夛田凌輔がボールを奪取。平繁龍一、ダニエル ロビーニョと素早くつなぐと、「少しでもDFラインを上げたかった」背番号9が自陣深くからゴール目指して猛スピードで突破していく。止めに出てきた畠中をあっさりと交わすと、ミドルレンジから思い切って右足を一閃した。「今日は最初調子が良くなく、ゴールの前にもチャンスがあったのに決められなかった。でも、そこで切れず、徐々にコンディションを上げながらメンタルは冷静にチャンスが来るのを待っていたことが、あの得点につながった」自己修正能力の高さが生んだ、見事なスーパーゴールだった。
負けだけは絶対に許されない東京Vは、「まず守備を安定させ、自分たちのリズムでもう一回攻撃にいこう」と、前半の終盤からここまで戦いなれた形で4バックへとスライドさせた。さらに後半、1点ビハインドをうけた冨樫監督は、56分に南秀仁、65分に菅嶋弘希と、早い時間から個性の出せる攻撃選手を投入し、流れを変えていく。互いに膠着状態から、東京Vが徐々に押し込んでいくと、82分だった。左サイドで南から平本に出ると、中へ送ったボールを中後雅喜、菅嶋とつなぎ、そのマイナスのパスに二ウドがシュート。青木良太にクリアされたボールが安西幸輝へと渡り、右足を振り抜いたが、再び青木良が阻止する。だが、そのこぼれ球を受けたのが福井だった。「憶えてない。映像を見直したい」と、無心で放った右足同点弾は、チームをJ2残留を決定づける値千金弾となった。ケガによる戦線離脱により、この日が約1年ぶりの公式戦ピッチだった。試合前、「リハビリ期間で、僕も大人になりました。『自分自分』ではなく、周りに気持ちよくプレーをさせてあげたいと思えるようになった。でも、その中でも自分の個性は出したい。できれば、点に絡みたい」と、語っていたが、まさに言葉通りの結果となった。
21位の讃岐が敗れたことで、東京VはJ2残留が確定した。もちろん、「よかった」ことは間違いない。だが、南は一言「恥ずかしい」とだけ言葉を振り絞った。おそらく、チームの誰もが同じ思いだったはずである。『20位』。この順位を「悔しい」と思わない東京Vに関わるクラブ関係者、スタッフ、監督・スタッフ、選手、サポーターはいないはずである。この忸怩たる思いを、次節、そして来季の戦いにどうつなげていくのか。能力の高い若い選手が多いからこそ、大きな期待と厳しい目で、注目したい。
群馬は、次節が秋葉忠宏監督のラストゲームとなる。「秋葉監督によってプレーの幅が広がった」という小林竜樹はじめ、「自分たちがやってきたサッカーでしっかりと結果を出して、監督に恩返しをしたい」選手たちも2年間の集大成を披露することを誓う。当の秋葉監督も「よそ行きのサッカーをするつもりもありません。引いてカウンター、守って、守ってというチームは作ってきていない。我々らしく、攻守においてアグレッシブにアクションを起こし、しっかり主導権を握って多くのゴールを見せて、いい形で締めくくれるようにしたい」ラストマッチへ向け、早くも気持ちを切り替えた。
以上
2014.11.16 Reported by 上岡真里江