岡山のホーム最終戦。試合後のセレモニーの中で、株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブ代表・木村正明氏は、「『何か』が足りませんでした。クラブとして、その『何か』に正面から取り組んでいきたい」と話した。このゲームで89分に同点弾を許し、約4分間のアディショナルタイムを戦った選手たちは、終了のホイッスルを聞いた後、「足りなかった。足りなかった」と自分たちを責めるような表情を見せた。今年の岡山は開幕からJ1昇格を目標に掲げ、勝てなかった3月を経て、4月半ばからは18戦負けなしで進んだ。そして9月中旬から8戦勝利のなかった1ヶ月半、4連敗の後の前節の勝利。時に追い風を味方に無邪気に戦うこともあった。そして向かい風に自分たちの弱さをさらけ出しながら、ここまで自分たちとも戦ってきた。
熊本の小野剛監督が話したとおり、ゲームは全体にわたって熊本がコントロールした印象だ。先発メンバーは、岡山は前節から変更なし。熊本は前節途中出場で2得点のアンデルソンがトップに入り、2列目に仲間隼斗、CBに出場停止明けの篠原弘次郎、GKに金井大樹が戻った。立ち上がりのボールが落ち着かない状態から、岡山は上田康太がカットして清水慎太郎に送るシーンや、熊本はアンデルソンの落としから齊藤和樹がシュートを放つなど、ともに狙いとする形を見せ始める。
岡山は熊本DFラインの裏を狙うロングボールを主体にした。岡山から期限付き移籍中のCB篠原は、「ラインが下がりすぎないよう注意していた」と話す。そんな状況で、岡山は右サイド・澤口雅彦を起点に、上田、千明聖典の両ボランチとシャドーの妹尾隆佑が絡んで何度かチャンスを作り出す。前線からプレッシャーをかけてボールを奪う意識は両チームともに高く、その後は熊本が連続してシュートシーンを作ったが、あと少しの精度不足で0−0のまま前半を折り返した。
岡山にとっては攻め立てられながら何とかこらえ、しのぎ、我慢を続ける時間が長かった。後半に入ってもセットプレーの守備が続き、ゲームを立て直すきっかけが掴めないまま時間が過ぎて行く。そんな中で岡山に先制点が生まれた。後半から投入された片山瑛一のロングスローが、ゴール前の密集地帯にハマると、そこから近藤徹志が搔き出して、右後ろに控えていた押谷祐樹にパス。これを押谷が冷静に決めて68分、岡山が先制する。押谷にとってはキャリア初の二桁得点となった。それまで攻勢だった熊本ではなく、岡山が先制したことで、熊本はさらに攻めの姿勢を全面に出した。前半のうちに投入された澤田崇は、FKのこぼれ球からゴールを狙い、またひとりでかわしてシュートに持ち込むなどキレのある動きを見せていたが、その成果が出たのが89分。中山雄登のFKをヘディングで決め、ゲーム終了間近に同点に追いついた。澤田はこう振り返った。「雄登からナイスボールが来たので当てるだけでした。失点した時は、まだ20分あるから全然いけるなと思っていました」。
岡山は前々節の京都戦、その前の大分戦に続いて、ゲーム終了間際の失点で勝点3を掴めなかった。「リードした後に安全すぎるというか、クリアが多すぎるというか、自分たちの時間が作れない。必然的にセットプレーでやられちゃうのかなって思います。今日勝てば、という可能性だけを信じてやっていたので、あの失点以外はいいゲームが出来たんじゃないかと思います」と後藤圭太。
攻撃のバリエーションを増やして伸び伸びと、最初から最後までポジティブに戦った熊本に対し、岡山はリーグ戦残り1試合になってもまだ修正しきれなかった課題をつきつけられる。しかし同点に追いつかれてもスタジアムの応援の声がさらに大きくなったように、選手たちは「もっと」という思いで、今週また自分たちの弱さと対峙するのだろう。今シーズンの岡山は、自分たちの弱さを知ったから面白い。岡山の次節は富山戦。同期昇格した富山のホームで行われるシーズン最後のゲームをしっかりと見届けたい。
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2014.11.16 Reported by 尾原千明