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【J1:第31節 名古屋 vs F東京】レポート:観客を熱狂させた打ち合いの裏に、両チームの課題が浮き彫りに。名古屋は聖地・瑞穂最終戦も、勝利で飾ることはできなかった。(14.11.03)

観客からすれば2−2というスコア以上の打ち合いはエキサイティングなものだったに違いない。娯楽としての側面からすれば、今節の名古屋とF東京の試合は非常に面白いものではあった。しかしオープンな展開というのはピッチ上の選手からすれば常にピンチと背中合わせの状態であり、何よりチームが安定した試合をできていない何よりの証拠でもある。だからこそ、両チームのベテランは声を揃えてチームに警告を発した。

「仙台戦から数えてみてよ、何回チャンスがあったと思う?相手は後半に2回のチャンスで1点。オレらは何回のチャンスが必要なんだ!仙台、今日、(天皇杯の)清水も、そういうチャンスを決めていれば、どれだけ上に行けているか」(田中マルクス闘莉王)
「ここ何試合かよりは落ち着いて試合に入れて、ボールを動かせたところはありましたが、結局先に得点したのは名古屋。そこで仕留められなければ意味はないし、苦しくなったのは自分たちの方。これを良しとしていくんだったら成長はない」(羽生直剛)

ともにJ1 300試合を超える出場記録を持ち、日本代表経験もある実力者の言葉は重い。だからこの一戦を単純に、「引き分けに終わったが、両チーム打ち合いエキサイティングなゲームになった」としてはいけない。

ともに前節からスタメンを変更して臨んだ一戦だった。名古屋は田口泰士とダニルソンのレギュラーボランチ2名が揃って出場停止となり、代役には磯村亮太と矢田旭の育成生え抜きコンビが選ばれていた。右サイドハーフには前節でプロ初ゴールを挙げた田鍋陵太が勢いを買われて2戦連続のスタメン選出。対するF東京も負傷のGK権田修一に代わって塩田仁史が、河野広貴と三田啓貴、カニーニに代わって羽生、エドゥー、吉本一謙が入り、フォーメーションも中盤を逆三角形に配置する4−3−3を敷いてきた。

持ち前の速い攻撃から先手をとったのはF東京。だが先制点を奪ったのは名古屋だった。やや劣勢の序盤を我慢強く切り抜くと、右サイドバックの矢野貴章が果敢に仕掛け、中央の松田力を目がけて放ったアーリークロスがDF森重真人のクリアミスを誘ってオウンゴールにつながる。入った瞬間の矢野の大きなガッツポーズが、それまでの劣勢を物語っていた。右サイドバックとして、武藤嘉紀など活きのいいアタッカーたちとの対戦を「そういう相手に対し、何ができるか」と楽しみにしていた男のファインプレー。前回対戦でもセットプレーから決勝点を奪った男が、またもF東京相手に結果を出した。

しかし、これがノーガードの打ち合いが始まる合図だった。失点後すぐさま攻めたて奪ったCKは跳ね返されたF東京だが、セカンドボールを拾うともう一度キッカーの太田宏介へ。仕切り直して放った美しいクロスは中央で待っていたエドゥーの頭にピタリと合い、わずか2分でF東京が追いついた。

一度動き出した試合は止まらない。同点後は再びF東京が主導権を握ったかに見えたが、29分、左サイドで得たFKを矢田がファーサイドに送ると、エドゥー同様に完璧なタイミングで飛び込んだ闘莉王がお手本のようなヘディングシュートを逆サイドに叩きこみ、名古屋がまたもリードを奪った。

前半の45分は動きのある展開のままあっという間にハーフタイムに突入。ここで両指揮官の指示を見ると、ともに粗っぽさの目立ったチームを落ち着かせようとした指示が見られた。シュート数自体は5対4と多くはないが、とにかく攻撃面で良くも悪くも速いサッカーが展開されていたのだから無理もない。西野朗監督は「ゴールへ急ぎすぎるな」と言い、フィッカデンティ監督は「落ち着いてしっかりボールを回して、焦れずに攻めること」と、興奮状態にあるかのようなチームを諌めた。

それでも、試合の勢いは止まってはくれなかった。同点にしたいF東京は「間延びしているところを狙われている」という指揮官の指示がありながら、「そこにあるチャンスをみんなが獲りに行った」(羽生)と、序盤から勝負に出た。だがエドゥー、渡邉千真、武藤の3トップは3人だけでシュートまで持っていく力がある一方で、後方支援が追いつけず、羽生曰く「行って来い」の状況がほとんど。これではシュートで終わった時はまだしも、途中でボールを奪われた場合に、味方が前進している瞬間に相手の攻撃が始まる悪循環を生んだ。その流れで名古屋は体を張った守りからの速攻で決定機を連発。55分には田鍋が、57分には松田が決定的な場面を迎えるなど逆に攻勢を強めた。

悔やまれるのは名古屋がここで試合を決定づける3点目を奪えなかったことだ。後半開始15分ほどの劣勢を受け、フィッカデンティ監督は松田陸、三田と次々に選手を投入し、エドゥーと渡邉のツートップに変えて戦況の挽回を目論んだ。そして名古屋はこの点差を守りつつ追加点を狙う、F東京は何とか1点をもぎ取るという態勢に入った残り15分。日本代表の新星が魅せた。

76分、中央でボールを奪った武藤が一人をかわし、名古屋のDFライン前方を左サイドに向かって滑るようにドリブルで突進。「右足では思うようにシュートが打てなかったので、最終的に左足に持ち込む」(武藤)ように自分の間合いで持ち込むと、倒れ込みながら左足を体ごと強振した。放たれた低い弾道のシュートはゴール右のサイドネットに突き刺さり、名古屋の守護神・楢崎正剛も茫然。武藤を褒めるしかないスーパーゴールではあったが、名古屋の守備陣にとっては痛恨としか言えない二度目の同点被弾だった。

試合終了直後、闘莉王は不機嫌だった。いや、激怒していた。F東京の殊勲、武藤が冷静に「本音を言えば勝ちたかったので、攻撃陣で点が取れなくて申し訳ない」と語ったのとは対照的だ。冒頭の言葉はシャワーを浴び、少し落ち着いてから記者の前で語ったもの。だがサポーターへの挨拶を済ませた後、チームメイトたちを「男じゃない!」と激しく叱責した。前回ホームゲームの仙台戦も数々の決定機を決められず、スコアレスに終えた。今回は2得点したものの、決定機に見合う数字かと言えばそうではない。いずれにせよ、この2試合では勝点1しか奪えていないことに、名古屋のキャプテンは憤りを隠せないでいた。

怒りの矛先の一つである、永井(謙佑)も、川又(堅碁)も、「決めきれなかった」と責任を背負い込んだが、結果がまず優先されるのがこの世界のしきたりである。両者ともに4試合、松田にいたっては今季いまだ1得点である。決定機は一度や二度ではないにもかかわらずだ。川又は言う。「他の選手が得点を取ってくれて、FWの選手が決めれば勝てる試合なのに、という部分が多い。これからの3週間でFWはみんなでそれを課題にしていかなければいけないし、課題にするだけでなく、実戦でゴールを決めないといけないので、突き詰めたい。もっと前での形を増やしたい」。闘莉王の檄に、そして守備陣の踏ん張りに応えるためにも、名古屋の前線にはなお一層の奮起が求められるところだ。

観客やサポーターが熱狂する試合で、勝つ。そのために必要なことは両チームともはっきりしている。次節までの3週間の後に、その答えがピッチ上で見られることを期待したい。

以上

2014.11.03 Reported by 今井雄一朗
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