立ち上がりからG大阪を圧倒した川崎Fの致命傷となったのは、前半終了間際に畳み掛けられた2本のゴールだった。試合をコントロールしていただけに、なんとも悔やまれる失点だった。
3-1で第1戦を落とした川崎Fにとって、勝ち上がるために必要なスコアの1つが「2-0」というものだった。例えば大久保嘉人は試合前「(第1戦の)最後の1得点は大きい。第2戦を2−0だったら、ホームだし、やれるスコアだと思う」と話し、十分な手応えを口にしている。その大久保をはじめとし、チーム内には2-0というスコアへの期待にあふれていた。
「点なら取れる」との自信の表れがコメントとして出ていた川崎Fに対し、1失点まではOKという状態のG大阪は、どうやら受け身で試合を始めていたようである。例えば大島僚太は、「あまり(G大阪は前から守備に)来ない、というのはありました」と述べている。基本的に深追いはせず、川崎Fにボールを持たせて攻めさせる。ゴール前では密度を高めて守備に入るが、ゴールから遠いエリアではそれほど厳しいプレスには行かない。ただし、サイドにボールが出た場合は2人で囲い込み、奪いに行く。つまり川崎Fがサイドにボールを運んだ場合、そこを奪いどころとして狙いつつ、最終的にゴール正面はがっちり締めて失点に備えていたのである。
そんなG大阪の守りを、前半9分の大久保嘉人の先制点が打ち崩す。自陣からつないだパスは20本あまり。G大阪のゴール前で、引っかかりそうな場面も見られたが、右サイドから中央、そして左サイドへと展開して、最後は大久保がヘディングシュートをねじ込んだ。次の1点が2戦合計での逆転ゴールになる川崎Fは攻勢を強め、G大阪は守勢に回った。大久保が前半だけで放ったシュートは4本に上るが、これはG大阪の前半のシュート数と同数だった。
森島康仁が2本の惜しいヘディングシュートを放ち、27分には田中裕介がG大阪のペナルティエリア内にドフリーで走り込む。ゴールの予感はあった。「あと1点」の意味を理解した等々力は、両チームのサポーターが気持ちをぶつけ合う独特の雰囲気となっており、得点のニオイはプンプンと漂っていた。そんな展開の中、G大阪が反撃を開始する。前半を通して抑え込まれていたG大阪の初シュートは、40分に倉田秋が放ったもの。
川崎Fが攻め疲れていたのかはわからないが、試合の流れはG大阪側に傾いていた。42分にはゴール前中央を縦に切り裂かれ、最後は阿部浩之が技ありのゴールで同点に。さらにその3分後にも宇佐美貴史からのパスを受けた阿部が2点目を奪った。
川崎Fは前半終了間際に連続失点を喫した。これは試合運びの稚拙さが出てしまったと見ていい。たとえば大久保嘉人は「(相手ボールの時に)みんなが取ろう、取ろうとしている。前に立つだけでいいんですけどね」と話し、ボールを奪おうと焦る気持ちが裏目に出ている可能性に言及している。
スタジアムの誰もがそうであったように、1-0になった時点で川崎Fの選手たちには「あと1点」との考えが浮かんでいた。その1点が取れそうな雰囲気を漂わせていただけに、アウェイゴールを1点与えただけで気持ちが落ちてしまったのだろう。川崎Fもアウェイゴールを1点持っていたのだから、イーブンになったと心を落ち着かせられればよかったのだろうが、「あと1点で勝ち抜け」の状況が、「もう2点で同点」に大きく後退したのだから気持ちが落ち込んで仕方ない。
そういう意味で、この試合の問題の全ては1失点目からわずか3分後に阿部にこの日の2点目のゴールを与えたことであろう。タイトルを手にするには、このひ弱さを克服するしかない。
試合自体は、G大阪のアウェイゴール2点によって事実上終わったかに思われたが、そこで食い下がったのが川崎Fのすごさだった。前半終了直前にジェシが同点ゴールを奪うと、後半開始早々の51分には森谷賢太郎が逆転ゴールを手にする。試合開始時と同じ「決勝まで2点」という状況に戻した川崎Fは、63分に山本真希に代えて中村憲剛を投入し、勝負をかけた。ホームの声援を受けた川崎Fに点が決まりそうな予感はあったが、G大阪はそう簡単な相手ではなかった。
試合は最終的に3-2で川崎Fが勝利。ただし、2戦合計で4-5となり、G大阪の決勝進出が決まった。
中村不在の中、川崎Fは3点を奪ったのだから胸を張っていいはず。ただ、確実に勝ち上がるための試合運びや、結果的に決勝進出のためのスコアに出来なかったことを考えれば、まだまだ進化すべき点は多い。
一方、試合運びを自在に変化させ、我慢を強いられる展開であろうとも、ワンチャンスをゴールに結びつけたG大阪は強かった。J1への復帰初年度で3大タイトルのすべてに可能性を残す唯一のチームだということを含めて、試合巧者ぶりを感じさせる戦いだった。
以上
2014.10.13 Reported by 江藤高志