広島の現状は、まさに「苦境」である。
水本裕貴・塩谷司が日本代表に招集され、宮原和也と川辺駿はU-19日本代表として明日からAFC U-19選手権に臨む。丸谷拓也は左肩脱臼手術からのリハビリ中で、森崎和幸とミキッチは足の負傷。広島は、7人もの選手が重要な準決勝初戦に出場できない。
特に深刻なのは、守備陣である。実績のあるセンターバックで出場可能な選手は千葉和彦とファン・ソッコしかいない。他にビョン・ジュンボンや大谷尚輝もいるが、大きなプレッシャーがかかる準決勝の舞台に公式戦でほとんど実績のないルーキーを起用し、「個の力もあるし、連係もいい」と森保一監督が評価する柏の3トップ(レアンドロ・工藤壮人・高山薫)に対応させるのは困難だ。戦術的な能力に長け、ピッチ上でチームを統率できる森崎和がいれば「4バック」という選択肢もあるし、彼をそのまま最終ラインに起用しても機能するのだが、それも明日の試合では不可能である。
いったい誰が、ストッパーのポジションにつくのか。前日練習が広島には珍しく非公開となったこともあり、本当のところは試合が始まってみないとわからない。ただ、広島の場合はワイドの選手が守備時には最終ラインに入ってディフェンスしたり、逆サイドにボールがある時はしっかりと絞って対応していることも考えれば、ウイングバックを務める選手がストッパーに入る可能性が高い。昨日のトレーニングでは清水航平がストッパーの位置で練習していたが、他にも山岸智には高さ、柏好文にはスピードもあり、パク・ヒョンジンもセンターバックの練習は続けている。みんな攻撃が持ち味であることは言うまでもないが、チームのためには誰かがやらねばならない。
柏にしてみれば、広島の守備陣のピンチを逆手にとって、アウェイゴールを狙いたいところだ。昨年のヤマザキナビスコカップ準々決勝第1戦でもホームで勝利を狙う広島の攻勢を封じ、守備のちょっとした甘さを突いて2点をゲット。このアウェイゴールが響いて広島は敗退、柏はタイトルに向かってひた走ることとなった。
「柏との戦いは、常に戦術的な競い合いとなる」と森保監督が語ったが、まさにそのとおり。屈指の戦術家であるネルシーニョ監督が先週末(J1リーグ戦第27節)の「雨中のドロー」を経て、広島対策をどう構築してくるのか。広島の守備陣の苦しさを突いて攻撃に厚みを加えるのか、それともまずは勝点1を狙って慎重に入るのか。DFの鈴木大輔は代表に緊急招集されたが、柏の守備陣は層が厚い。リーグ戦で出場停止だった近藤直也が復帰し、渡部博文もいる。橋本和だってストッパーができる。選択肢は多く、あとは名将のさじ加減一つだ。
守備陣の現状を考えると、広島はまず先制点を取って試合の主導権を握りたい。最近5試合で3得点という実績を考えれば難しいタスクかもしれないが、チャンスの目は増えてきているのも事実だ。もちろん、中心になるのは実績組であることは言うまでもないが、 爆発を期待したいのは若手だ。高さの皆川佑介、左足シュートの野津田岳人。そして得点こそ奪えていないが、ここ2試合で目立った活躍を見せている浅野拓磨のドリブルにも大きな期待を寄せたい。
先週末の試合でも、水が浮いているピッチ状態で浅野は果敢にドリブルを仕掛けて柏守備陣を慌てさせ、PKかというシーンも創り出した。「短い時間だったけれど、いいプレーを見せてくれた」と森保監督も高く評価。浅野自身も「ドリブルや裏への飛び出しは、どんな相手でも通用する自信はある。今度こそ、ゴールを決めたい」と意欲十分。整然と論理的に戦術を構築して戦ってくる相手には、彼のような「爆発力」が何よりも有効なピース。今、最も得点の香りをまき散らす19歳のパワーが何かを生み出す可能性もある。
森崎和やミキッチの負傷の程度は重くはなく、長期離脱にはならなそうだが、それでも10/12(日)の準決勝第2戦でプレーできるという約束手形は切れない。この準決勝は広島にとって非常に苦しい戦いとはなるが、それでもまず初戦、ホームのサポーターの力を借りなぜら、森保監督は勝利を求める。
「アウェイゴールが重要なことはもちろん、(昨年やACLの経験でも)わかっています。ただ、単純に2勝すれば、決勝に進めることは間違いない。浦和との準々決勝の時も代表はいなかったし、選手が入れ替わっても勝利を収めた実績はある。総力戦で勝ち抜きたいですね」
苦境に追い詰められているはずの指揮官だが、落ち着いた表情でチームに対する自信を口にした。昨年に引き続いての、柏との180分のせめぎ合い。戦術的な意味でも、新戦力の爆発という意味でも、非常に興味深い戦いとなりそうだ。
以上
2014.10.08 Reported by 中野和也