この試合のプレビューで、“形”について書かせていただいた。
要は、鳥栖が前線からプレスをかけて横浜FMの自由を奪う形を出せるのかということと、横浜FMはそれをかわしながら鳥栖を崩してゴールに迫れるのか、ということだった。
どちらかが、自分たちの形にはめてしまえば、もう片方が苦戦を強いられる。どちらが、その“形”に持ち込めるのかを楽しんで頂きたいという内容だった。
そして、結論から言うと、鳥栖が“形”を出し切り、横浜FMがはめられてしまった試合となった。
20秒間のドラマの前にいくつか背景をあげておかねば公平なレポートにはならないと考え、そのいくつかを前述させていただく。
鳥栖は、8試合連続失点中で「ちょっとした隙を突かれて」(吉田恵監督/鳥栖)失点し、ここ数試合はふがいない試合が続いていた。その間、8得点14失点と堅守の鳥栖と言われた姿は完全に失せていた。エース豊田陽平に至っては、PKを含む2得点と本来の強さを出せずにいた。
対する横浜FMもケガ人が多くベストなメンバー編成ができずに苦戦する試合が続いていた。
今節までの過去4試合では、わずかに1得点と陣容から見ると寂しい内容である。今節も、過去の鳥栖戦で辛酸を嘗めさせたMF中村俊輔の姿はなかった。
そして、今節のベストアメニティスタジアムは、大型の台風18号の影響で北から南に向かっての強風であった。わかりやすく言うと、メインスタンドから見て左から右に、キックオフ時点では鳥栖側から横浜FM側に吹いていた。コイントスで鳥栖が風上を選択し、前半を戦えたことも鳥栖に風は吹いたと言える。
本題に戻す。
その20秒間のドラマは、36分46秒から始まった。
横浜FMがロングフィードしMF兵藤慎剛のシュートまで持っていった。このシュートが試合開始から36分46秒のことだった。これをGK林彰洋が飛び出して防ぐとボールはMF佐藤優平に渡る。佐藤はGK林が飛び出しているのを見て、枠を狙ってループ気味のシュートを放った。ボールは確実にゴール内に向かっていたが、ゴールライン上にはDF丹羽竜平がいた。これをヘディングで跳ね返した。
ここまで兵藤のシュートから2秒のこと。このわずかな間に、鳥栖の身体を張った守備が機能した。
クリアされたボールはDF安田理大に渡り、オーバーヘッドで大きく前線にクリアした。このボールを受けたのがFW池田圭。ボールを受けてドリブルを開始した。ここまで、兵藤のシュートから11秒、横浜FM決定的チャンスから鳥栖がカウンターのスイッチを入れた瞬間であった。
池田の左サイドには、前線のスペースに向かって走り出したMF金民友と横浜FMのDF裏を狙って動き出したFW豊田陽平がいた。(この時点では、MF水沼宏太は自陣ペナルティエリア前にいた)
池田はハーフライン手前から横浜FM陣内の15mまでドリブルを仕掛けた。この時間を利用して、水沼がハーフウェイライン直前まで駆け上がり、両手を広げ池田に自分の存在を示した。ここまで兵藤のシュートから14秒、池田の判断はそこから10mのドリブルだった。
結果的にこの池田の10mのドリブルが、両者の明暗を分けたことになる。時間にしてわずかに2秒だが、水沼がハーフラインを越え横浜FM陣内奥深くに入る時間となった。水沼のスピードはさらに加速していた。
横浜FMのDF陣は、池田のドリブルと金民友、豊田のマークにと引き寄せられる時間でもあった。
右サイドでは完全フリーとなった水沼がさらに大きな声とジェスチャーで池田に存在をアピールしていた。この時点で池田から水沼へとボールが出させるので、横浜FMのDF陣の対応は遅れることになる。
「あとは正確にクロスをあげるだけ」(水沼宏太/鳥栖)の状態での折り返し。池田から水沼に展開された時には、金民友は左サイドから中央へ、豊田は中央からファーサイドへ流れる動きで、完全に横浜FMのDF陣のマークを外した。
水沼のクロスに、豊田がヘディングで合わせたのは、兵藤のシュートから20秒後のことだった。
横浜FMは、66分にFW藤田祥史、82分にFW矢島卓郎を入れて前線を活性化する戦術を採った。中盤からの崩しで鳥栖を翻弄することができないと見て、DFからのロングフィードを前線に集めていた。しかし、アジアカップから中2日の強行出場したCBキムミンヒョクとCB菊地直哉が冷静に対応されて、前節に続いて無得点に終わってしまった。パスで崩し、相手を翻弄する緩急の組み立てをこの試合では最後まで見せることができなかったわけである。司令塔の不在が影響したのか、鳥栖のプレスが厳しかったのか、横浜FMの“形”は最後まで見せることはできなかった。
90分間中で様々なシーンを切り取ると、色々なドラマを見ることができる。しかし、この試合においては36分46秒から20秒間(公式記録では38分)のドラマを外すわけにはいかない。それは、鳥栖が連敗を止め、鳥栖らしい守備と攻撃を見せた20秒なのだから。横浜FMには「結果をしっかり受け止めて、この悔しい気持ちを次のゲームに向けて準備する材料にしなければ・・・」(樋口靖洋監督/横浜FM)いけないドラマとなってしまった。
“ハメる”のか、“ハマる”のか・・・駆け引きの中で、仕掛けた側と仕掛けられた側では受け取り方が変わるものだが、サッカーの世界では攻め手が優位になることが多い。『相手より得点を多く取る』ことも、『相手より失点を少なくする』ことも、同じ勝利の条件なのだが、どうしても『相手より多く得点を取った』方の印象が大きい。それが、“ゴールはサッカーの華”と言われる所以である。しかし、その陰に『相手よりも少ない失点に抑えた守備』があることを忘れてはならない。サッカーは、攻守が激しく入れ替わるスポーツ。攻守(好守)を語らずしてサッカーは語れない。
以上
2014.10.06 Reported by サカクラゲン