磐田の技術を大分の闘志が凌駕した――。そんな試合だった。
リーグ戦は残り8試合となり昇格レースの渦中にいる上位チーム同士の対戦は、序盤から緊迫した試合となった。両チームとも最終ラインと前線までの距離を狭く保った密集戦において、集中した守備でチャンスを作らせない。それは45分間途切れることなく、シュート本数が大分4に対し磐田1という数字が示していた。拮抗した試合になれば、選手の個々の技量のある磐田が優勢に試合を運ぶかに思われたが、大分の気持ちが上回った。
磐田の個に対し、大分が組織で対抗する図式で試合が進んでいたように思えたが、そうではなかった。日本代表経験者がズラリと名を連ねるチームに対し、「敢えてマッチアップして真っ向勝負したいと思った。なぜなら我々の選手の個の能力も上がってきたから。磐田に対して十分な距離間を保てば戦えると自信があった」(田坂和昭監督)。結果的にこの采配が勝利への布石となる。
「お前らの力は磐田に劣っていない」とピッチ送り出されれば、選手がその気にならないはずがない。「サッカーなんて意地の張り合い」とは為田大貴の言葉だが、技術云々より目の前の相手との勝負を制することに集中した大分の選手がピッチに立った瞬間に、身体から発散するエネルギーは肉眼でも捉えられそうもないくらい凄かった。
後半に入ってもスコアレスの展開が続くなか、大分の田坂監督が先に動いた。「流れは悪くはなかったが、こっちから流れを変えたかった」と一枚目のカードを切る。それが早くもジョーカーであった。「今日のような試合になると最初から球際の勝負になるので、ダイちゃん(伊藤大介)のような個の技術がある選手が途中から出た方がアクセントになるというプランがあった」と試合後に明かした田坂監督。今季一度しか先発を外れたことのない伊藤に、試合前にしっかりとプランを説明し、ベンチで来るべき時に備えてくれと話したそうだ。68分の交代には、そんなドラマがあった。スコアの動かない展開で最初のカードが自分だったことに奮起した伊藤にとって、指揮官からの「頼むぞ」のひと言で十分だった。ピッチに入った2分後には、為田、若狭大志とつないだボールを左足で振り抜き、ゴールネットを揺らした。ゴール後は真っ先に田坂監督のもとに走ったシーンは、監督と選手の深い絆の現れだったと言える。
田坂監督は「交代直後に仕事をしてくれたのはダイちゃんの能力」と称えたが、もっとも手応えを感じたのは先制してからの展開だろう。後がなくなった磐田の猛攻に我慢の時間帯が続いたが、気持ちを切らさなかった。辛抱強く守り、84分の追加点に結び付けたのだ。「選手が良く戦ってくれた。内容も結果もほぼ完ぺき、狙い通りの形を選手が作ってくれた」と言葉の節々に充実感が表れていた。格上と称される相手を、自らの強みでねじ伏せた堂々の勝利だった。
一方、磐田は大分の出足の早い守備に苦しむ時間帯が長かった。ショートパスをつなぎ、最終ラインの背後や、両サイドの深い位置を狙ったが、大分守備陣の的確なカバーリングと、末吉隼也や木村祐志、土岐田洸平や為田らの高い守備意識の前に起点を作れなかった。先制された後は主導権を握り返すものの、選手間の距離が少しずつ遠くなり、思うように崩すことができなかった。名波浩監督が「大分の方が運動量が多く、セカンドの反応が早かった。前節の長崎戦で見せなかったプレーが多く、我々への対策が上手くハマったんだと思う」と振り返ったように、相手の出来が予想以上だったと認めるしかなかった。ただ、2位の松本が勝利した以上、自動昇格戦線で遅れをとったのも確かなことだ。
「フィニッシュのエリアで精度を高め、シンプルさと緻密なトリッキーさのバランスが必要」(名波監督)だが、チャンスの質は確実に上がっている。ポジティブな要素を拠り所に、自らのスタイルを生かす試合運びができるかが、昇格へのカギとなる。
以上
2014.10.05 Reported by 柚野真也