西京極のゲームが始まる前、アウェイチームバスが、湘南サポーターの陣取るそばに止まると緑のサポーターが大合唱。キックオフ前、磐田敗戦の情報が流れ、湘南の2位以内確定のかかる大一番となった。試合は、京都がメンバーを大幅に入れ替えた。田森大己、工藤浩平、福村貴幸を先発起用し、布陣も中山博貴、工藤がインサイドハーフに入る4−3−3にした。
開始から互いに激しくぶつかり合う内容だったものの、徐々に湘南がペースを掴む。そして11分、湘南は前線の動き出しで京都守備陣をかき回すと、ウェリントンがその背後を取り、エリア内右に侵入。クロスに武富孝介がシュート、至近距離のシュートをGKオ スンフンが見事にはじき返すも、そのボールを岡田翔平が頭で押し込み、湘南が先制する。これで、湘南が一つ落ち着いたようにも見えたが、京都もボール運びにもたつき、互いに一進一退の攻防へと移る。
後半、いきなりの強烈パンチを浴びせたのは京都。後半4分、相手のクリアを湘南陣内中央で奪った工藤が、DF背後の大黒将志へ。工藤の抜群のボール配給と、抜群の飛び出しでフリーとなった大黒はGKの上を超えるシュートを放ち京都が同点に追いつく。これで勢いに乗った京都は後半8分にも速攻から中山が、大黒へとつなぎ、最後は隅を狙うシュートを放つ。同12分にもCKから湘南ゴールに迫るなど、攻め立てた。しかし、湘南もCKからウェリントンがボレーシュートを放つなど反撃を見せる。
そして後半35分、京都は、湘南陣地左スローインから工藤へつなぎ、工藤のクロスにまたも大黒が相手DFの間に入り頭で合わせる。これが湘南ゴールに吸い込まれ京都が2−1と逆転。スタジアムが一気にヒートアップする。
だが、後半39分、湘南は右サイドから中央、そして、攻撃参加してきた島村毅へとつなぎ、島村が左足を振り抜く。これが豪快に京都ゴールに突き刺さり、湘南が2−2に持ち込む。そして、タイムアップ。磐田が敗れ湘南が引き分けたため湘南の2位以内が確定した。
試合後、湘南・曹貴裁監督は、2位以内確定については選手の頑張りに敬意を払いながらも、今節の試合内容については悔しさをにじませた。ただ、最後に追いつくあたりは、理屈には出来ないチームの強さを感じさせた。今節でJ1昇格(※)を手繰り寄せた。それが全てだろう。素直に祝福の言葉を送りたい。
京都は、川勝良一監督が、この試合に向けて強調した「ここ2、3試合なかった躍動感とか、前へ裏へという徹底を90分やってくれた」と、選手の戦いぶりを称賛した。特に、ゴールシーンは見事なものだった。久しぶりに「個の力のすさまじさ」を見た感じがする。工藤のパスに大黒の決定力。島村の同点弾が「劇的」なら、京都のゴールは「芸術的」。素晴らしいものだった。ここに理屈を付けるなら、工藤がパスを出す「間」、それを作ったのが、チームのやろうとしているサッカーではないか、ということ。この「間」に、大黒だけでなく、他の選手が飛び出すとか、或いは、工藤がパスを出すのではなく、中山や田森だったりとか、「誰が」ということではなく、ゴールに向かうプレーが「一瞬、合う」。それが決定機なのではないかとは思った(一人で仕掛けて決め切ることもあるので全てがこれに当てはまる訳ではない)。
一つ目線をずらしてみる。湘南のプレスは完成度の高いものだったと思う。例えば、右サイドで、判断の遅れがあり前に出せないのでバックパスをしようとする。すると、湘南のFWはそれを狙っていた。こうした囲みこみ方、狙い方は「よく訓練された」という感じだった。だがその時、京都の逆サイドには広大なスペースがある。スタンドから見ている方としては「もっと早く動かして、逆までつなげ」という思いはあった。プレスの強いチームはそれを剥がせば広大なスペースがある。今節の京都の2点目は相手が4バックにしたというのもあるが、プレスのきつい湘南だからこそスペースが生まれマークが甘くなる、そんな要因もあった。例えば同じ場面でも北九州だったら、まずはゴール前を固めるところからだろう。中盤で横パスはつながせても、大黒へは通さない、そんな感じだ。湘南は前線、中盤のプレスを強めたが、しかしそれが――。完璧なサッカーはない。どこかが強ければ、その裏は弱点。そんな気もした。
とにかく、勝点1の獲得に止まったが、内容では一歩前進だったのではないか。闘争心については上ったが、やろうとしているサッカーは川勝監督が就任して2、3試合目くらいの「ボールを早く動かす」に戻りつつあるといった感じ。その中で2ゴール生まれたのだから自信を持っていいのではないか。大事なのは次の試合である。
※Jリーグ理事会の承認をもって最終的に確定する
以上
2014.09.24 Reported by 武田賢宗