秋晴れの下でのデーゲーム。横浜FMは、連敗した直近2試合とは明らかに、攻めに対する意識が違った。連敗脱出を誓ったこの日は、前傾姿勢の攻撃を貫く。
それが最初に伝わってきたのが、開始3分のプレー。小椋祥平が広島ディフェンスの裏を突く、ライナー性のミドルパスを送る。そこへ猪突猛進のごとく奈良輪雄太が走り込むも、勢い余ってトラップが大きくなり、自滅した。しかしながら、「リスクを負ってでも縦パスとか、そういう勝負球を入れていくことを狙う」(小椋)姿勢が好機をもたらしたのは確かだ。その後も、三門雄大らが多少厳しい位置でも果敢にミドルシュートを狙うなど、前節・鹿島戦で味わった「シュート総数1本」の屈辱を晴らすプレーが散見された。
とはいえ、「横浜FMと広島、どちらの攻撃により得点の匂いを感じたか?」と中立の第三者に問えば、後者を選ぶ人が多かったのではないだろうか。横浜FMの攻撃は勢いこそあるものの、戦術的な下地の薄い単発的なものが多かったように思う。
一方、広島の攻撃は、青山敏弘の正確なパスさばきを起点に両サイドに展開し、そこに石原直樹、高萩洋次郎の2シャドーが絡みダレクトプレーを交え、一気に加速しゴールを急襲。そんな意図のある攻撃の形が、くっきりスムーズに、ピッチに描かれていた。
事実、決定機の数では広島のほうが上。27分には右のミキッチの横パスを石原がダイレクトではたき、中へ詰めた柏好文が正面でフィニッシュ。これはGK榎本哲也の好セーブに阻まれる。51分には、青山がターゲットの皆川佑介にボールを付けてから、そのまま前線へ上がり、最後は柏の横パスを受けてゴール右隅へ“置きにいく”シュートを打つ。だが、右ポストを叩く不運に遭う。
「テンポが速い中、自陣でしっかりプレッシャーを回避できればゴール前まで行けていた。チャンスはつくれて、ゴールまで行けていた。シュートからゴールまで、全体的によくなっているだけに(結果が)厳しい…」。淡々と表情を変えずに振り返る高萩の言葉は、的を射ていた。
その無情な結果に陥れた横浜FMは、コンディション不良だった中村俊輔が、前半だけで退く。司令塔の代役としてファーストチョイスされたのは、同じレフティの藤本淳吾ではなく、リーグ戦は4月26日のF東京戦(第9節)以来の出場だった佐藤優平。結果的に樋口靖洋監督のこの選択は正しかった。
本人は「久しぶりの試合で、ゲーム勘も体力も鈍っていた」そうだが、「相手の嫌なところ(スペース)に入ろうとした」動き出しは、効力を発揮。左サイドを主戦場とし、オフェンスを滑らかにする潤滑油として機能した。
87分には決定的な仕事をこなす。小椋のパスを受けようとした瞬間、敵の青山が迫って来たが、華奢な体で踏ん張り競り勝ち、すぐさま柔らかい縦パスを供給。それに反応した伊藤がペナルティエリア内で倒され、PKを沈めて勝利を手繰り寄せた。佐藤優平がリーグ後半戦で、長髪をなびかせ、フレッシュな風を吹き込む予感がする。
以上
2014.09.24 Reported by 小林智明(インサイド)