「冨樫さんに初勝利を!」との東京Vの選手たちの気合いは大いに伝わってきたが、残念ながらその思いを果たすことはできなかった。
監督交代後の初陣、加えてJ2残留をかけた22位・富山との直接対決という二重の「負けられない一戦」の重圧は、平均年齢23歳弱の若いチームには想像以上に大きなものだったのかもしれない。特に前半は、緊張からか「ベンチから見てても、“らしく”ないなぁと思った」(平本一樹)と硬さが目立った。“冨樫色”として、視野広く、受け手の欲しいところに的確にボールを出せるボランチ中後雅喜、背後への動き出しを得意とするFW菅嶋弘希が久しぶりの先発起用となり、これまでとの変化に期待がかかったが、「前の選手は前に行きたくて、後ろの選手はなかなか前に出ないという感じでそれぞれの距離感が遠く、ボールに多くの選手がかかわることができなかった」(鈴木惇)。
その中で、なんとかリズムを生み出そうとするが、12分、ロングボールからの一発で、あっさりと先制を許してしまう。その後、引き気味になった相手に攻撃を仕掛け、ミドルも含め積極的にシュートを狙っていったものの、決定的と言える場面を作ることはできなかった。
後半、頭から菅嶋に代えて平本が投入されると、早速流れは変わった。開始50秒、GKからのロングフィードを頭に当て、常盤聡が受けて落としたところに走りこんで、そのままど真ん中を一気にドリブルで突破しフィニッシュまで持っていくと、49分には鈴木からの縦のクロスにダイレクトボレーを狙うなど、ビッグチャンスが生まれ始めた。また、ボールが収まる平本で時間が作れるため、周りの選手も前線に上がれるようになった。「よりサイドバックを高い位置に押し出せるような形でサッカーを進めたい」との冨樫剛一監督の意図は、表れていた。その後、南秀仁を入れ、さらにボールが回るようになると、両サイドバックに加え杉本竜士、澤井直人ら、何人もが絡んでの連携からの崩しが増え、好機を作った。だが、前半同様“決定的シュート”がほとんどなく、最後の最後までゴールをこじ開けることができなかった。
富山は、守勢にまわる時間帯も少なくなかったが、それでも「守りを固めることを選択し、それに対して優先順位を考えながら、冷静に心熱く、選手は最後までやってくれた」(安間貴義監督)と持ち前の対応力で対応し、貴重な勝点3をもぎとった。
安間監督は、両サイドが高い位置をとる東京VのDFラインにできるスペースを有効利用するため、苔口卓也と宮吉拓実の2トップを選択。「裏に抜けて、相手が嫌がるところを狙ったろう」と語った苔口の狙いは的中した。12分の得点シーンでは、左のパク テホンからの対角線のロングクロスに苔口が抜け出し、胸トラップでDFを交わすと、「あのトラップで決まったと言ってもいいぐらい。テホンからのボールも、これ以上ないというぐらい理想的なボールだったので、本当にただ流し込むだけでした」と右足を一閃した。「この試合は1点先にとれば勝てると思っていました」。
終わってみれば、すべて苔口の思惑通りの結果となったと言っても過言ではないだろう。ただ、一方で、先に1点を獲った後、守りに入ってしまうのが「うちの悪い癖」だとも苔口は語る。「2点目、3点目を獲りに行かないと、勝っていくのは難しい」チームの大きな課題、『得点力』向上を目指す。21位の讃岐が引き分け、これで自動降格脱出まで「9」差。「でも、まだ9もある。讃岐のことを意識するより、自分たちの次の1試合に全力を尽くして、勝点3ずつ積み上げていけるようにすることが大事」と大西容平は一戦必勝を誓った。
東京Vにとっても、残留争いの直接対決での敗戦は非常に痛恨と言わざるを得ない。だが、試合前から冨樫監督は「もし仮に、富山戦で結果が出なくても、終わりではない」と、語り、試合後の会見でも「自分の中では今週の3試合をトータルとして考えている」と話した。「そんなに簡単に勝てるようになるぐらいなら、今の順位にはいないはず」。“結果”を託されて就任したが、当然、「全勝で勝点を計算していない」。つまり、この結果も想定の範囲内だったに違いない。「大事なのは、目先の結果に一喜一憂しないこと」と、新指揮官。目指しているのは、42節が終わった時にどこにいるか。『帳尻合わせ』という言葉があるが、想定している数字を達成するために、今回失った勝点をどこかで埋め合わせれば結果オーライというものだろう。変えられない過去を悔やむよりも、自分たちの手で変えられる未来のために、一丸となって進んでいくしかない。
以上
2014.09.21 Reported by 上岡真里江