「この勝点3は非常に大切で、2つの素晴らしいゴールが我々にもたらしてくれた」とは、試合を終えてのマリヤン・プシュニク監督の言葉。その言葉に、福岡にとって、この試合が、いかに大切なものであったかが滲み出る。J2は相変わらずの混戦模様。それでも、少しずつ、少しずつ、上位陣と、それ以外のチームとの差が現れ始めた中で迎えた愛媛との試合は、結果によっては自分たちの立ち位置が大きく変わってしまう試合。誰もが、前半戦の山場として捉えていた。その試合で手に入れた勝点3。福岡は第16節岐阜戦以来、4試合ぶりの勝利を挙げて、上位進出を狙う好位置をキープした。
試合は、収獲もあれば、課題もあった試合だった。その収穫が凝縮されていたのは前半。試合開始直後こそピンチに見舞われたが、時間の経過とともに落ち着きを取り戻して主導権を奪回。愛媛を自陣内に閉じ込めて一方的に攻め込んだ。高い位置からのアグレッシブなプレス。奪ってから縦に早い攻撃。盛んにポジションチェンジを繰り返す攻撃陣。福岡が求めるサッカーを余すことなく表現するチームを「前半は、いろいろといい動きが見受けられた」とプシュニク監督は振り返る。
先制点は9分。左サイドから尾亦弘友希が送ったアーリークロスに、坂田大輔がピンポイントで合わせた。そして追加点は17分。起点は、やはり尾亦のアーリークロス。愛媛DFのクリアボールがファーサイドに流れたところを、城後寿が落ち着いて蹴り込んだ。効果的に追加点を奪えないという課題をクリアしたことはもちろんだが、何よりも、ここのところ、自分たちのサッカーを思うように表現出来なかった福岡にとっては、自分たちの原点である高い位置からのアグレッシブなサッカーを展開できたことが、何よりも大きい。
しかし、後半の立ち上がりに得たPKのチャンスを逃すと、チームはトーンダウン。前への意識が消えた。その結果、生命線である高い位置からのプレスを失ったチームは、守備が機能せず、全体のバランスも崩れ、自陣内に押し込められたままに時間を過ごす。後半は明らかに愛媛のゲーム。福岡は自分たちが放った3本を大きく上回る10本のシュートを浴び、しかも、決定機を何度も作られた。「後半は、至るところで去年のアビスパ福岡の戦いが見られた。それは(いまの)アビスパの戦いではない」とプシュニク監督は手厳しい。後半に入ると消極的になるのは開幕以来の課題。上位を狙うチームから、上位チームへと変わるためには解決しなければならない課題だ。
一方、敗れた愛媛にとっては前半の内容がすべてだった。立ち上がりが悪かったわけではない。開始直後の4分には、黒木恭平がGKと1対1になるビッグチャンスを演出。積極的にボールにアプローチし、ピッチを広く使いながらリズミカルなサッカーを展開していた。しかし、ビッグチャンスを逃した直後に坂田に決定的なシーンを作られると、そのプレーを境に積極性が消えた。「前半は、自分たちのゲームが全く出来なかったなという印象。相手が立ち上がりからプレッシャーをかけてくることは分かっていたが、それ以上に選手がプレッシャーを感じたのか、勇気のないプレーが、前半はかなり目立った」と石丸清隆監督(愛媛)は振り返る。
後半に作った数あるチャンスを決めていればとの想いも残るが、サッカーは90分間の勝負。そのうちの半分を無為に過ごしてしまっては、勝利の女神が微笑むことはない。「前半、自分たちの思い切りの無さが響いたというのは見て取れたと思う。前半と後半のサッカーの質がすごく違ったし、後半のような試合が最初から出来ないと勝てない。また、もったいない試合をしてしまった」とは秋元陽太の言葉。石丸監督も「0−0の中で、自分たちがどういうことが出来るのかということを、もう一度見つめ直す必要があると思う」と話した。
さて、42試合を戦う長丁場のJ2も、次節で日程の半分を終える。まだまだ山はいくつもあるが、それでも6位以内を目指す8位の福岡にとっては、しっかりと上位陣との差を詰めて前半を折り返したいところだ。対戦相手は、今シーズンJ2に入会し、ここまで快進撃を続ける3位の長崎。上位陣に対して1勝2分3敗と勝てない試合を続ける福岡にとっては勝点3を奪って上位進出の足掛かりにしなければいけない試合だ。「次はアウェイだが、絶対に勝点3を取って帰ってこれるように、いい準備を積んで挑みたい」と話すのは、この日、初めて先発フル出場を果たした三島勇太。結果にこだわり、長崎との試合を今シーズンのターニングポイントとすべく、次節に向かう。
以上
2013.06.23 Reported by 中倉一志