「何が起こるか分からない」。サッカーではよく使われる言葉だが、この日、後半に起こった様々な出来事は、様々な感情を呼んだ。それらを適切な言葉で表現する方法を筆者は知らないが、ただひとつ言えることがあるとすれば、両チームの選手たちは、最後まで、真摯に、勝利を求めて戦っていたということだ。ともに難しい状況にあったが、彼らは最後までダービーを戦っていた。
特に、アクシデントも含めて、最後は9人で戦うことを強いられた福岡の気迫は筆舌に尽くし難い。この日の展開を考えれば、いつ集中が切れても不思議ではなかった。
だが、彼らは戦う気持ちを最後まで切らすことはなかった。監督、スタッフ、ピッチに立つ9人、ベンチでともに戦う仲間が一体となり、終わることを知らない熊本の攻撃をはね返し続けた。その姿は、スタンドに足を運んだファン、サポーター、観客の心を引き込み、その心をひとつにした。そして、そこから生まれる力が大きなうねりとなってスタジアムを包み込む。途切れないチャント。スタジアム全体から起こる手拍子。それらは大きな力となって選手たちの背中を押し、その力を借りて前に出る選手の気迫がスタンドに伝わり、さらにスタジアムの熱が上がっていく。
福岡のエンブレムを胸に付けて戦う誇り。あらゆる人たちの気持ちを背負って戦う責任。そんな彼らと同じ時間、同じ空間をともにする喜び。そして、ともに勝利を目指して戦う熱い想い。
この日、福岡は勝点3のためだけに戦っていたのではない。かけていたのは福岡のプライド。スタジアムには、かつて「博多の森の熱狂」と呼ばれた空気があった。
試合の展開を大きく動かすことになったのは、1−0のリードで迎えた55分に、西田剛が受けた2枚目のイエローカードだった。執拗に抗議する福岡の選手たち。だが、一度下された判定は覆らない。さらに、60分にパク ゴン、65分に金森健志、70分に古賀正紘にイエローカードが提示される。この時点で、フィールドプレーヤー9人のうち5人がイエローカード1枚を持つ状態に。アグレッシブにボールにアタックし、球際での激しさを守備の持ち味にする福岡にとっては、10人で戦っているだけではなく、その戦い方にまで制限がかかる。もはや福岡は両翼をもぎ取られた状態だった。
そこへ熊本が襲い掛かる。ボールを回しながら、福岡の隙を見つけて楔のボールを入れ、そこへ2列目から選手が飛び込んでゴールを脅かす。失点は時間の問題のようにも見えた。それでも耐え抜いていた福岡を、さらなるアクシデントが襲う。時間は80分のことだった。
GKを蹴ろうとした水谷雄一が突然うずくまる。駆け寄った尾亦弘友希からプレー続行不可能の合図が送られる。既に福岡は3人の交代枠を使い切っていたこともあり、水谷は怪我を押してのプレーを直訴するが、それを聞き入れるわけにはいかない。
そして7分間の中断の後、ゴール前に立ったのは、水谷のウエアを着た城後寿だった。スタンドから、この日一番の大歓声が上がる。さらに「城後!城後」の大声援が送られる。その声援に支えられて気迫のプレーを見せる福岡は、1点をリードしたまま、提示された9分間のアディショナルタイムを耐え抜いた。残されているのはアディショナルタイム内で止まった時間だけ。福岡は絶望的な状況から、勝利まであと一歩のところまで辿り着いた。だが90+11分、ファビオの右足が福岡ゴールを捉えた。福岡は勝利までワンプレーのところで力尽きた。
10人になってから25分、さらには9人での戦いを強いられてから約15分、この間、ゴールを許さなかった気迫あふれる福岡の戦いぶりは、賞賛以外に表現する言葉が見つからない。それはプライドをかけた戦いにふさわしいもの。試合終了のホイッスルの後に起こった拍手と声援が、それを物語っている。そして加えるのならば、様々な出来事が起こった試合にも拘わらず、試合の結果を自らの問題として語った選手たちの姿勢もまた、清々しいものだった。
繰り返しになるが、さらに混乱しても不思議ではなかった試合で、福岡も、熊本も、選手たちは最後まで正々堂々と九州ダービーを戦っていた。
11回目の福岡と熊本のダービーは、結果としてドロー。その決着は11月10日、第40節にうまスタで行われる試合で決着を付けることになった。ホームで戦う熊本は、プライドにかけて勝利だけを求め、福岡はホームで失った勝点2を奪い返しに行く。そのときは、互いが持てる力を真正面からぶつけ合うことが出来る試合を望みたい。
以上
2013.06.02 Reported by 中倉一志