前節と同じメンバーの山形に対し、日程面のハンディキャップを負う甲府は3人を入れ替えて臨んだが、さらに前半、ドウグラスが空中での接触プレーにより早々とピッチを去る。左サイドバックで先発させていた津田琢磨をセンターバックに移し、左サイドバックには松橋優を投入。わずか開始10分で貴重なカードを1枚使うことになった。
山形は序盤からロングボールでライン裏を狙い、ラインが押し下がればサイドのスペースで起点をつくるなど、切り替えの早さで先手を取っていた。しかし、縦横に甲府陣内を走る山形の3トップに「試合の入りは少しバタバタした」と話す山本英臣も、「逆にその3枚をパスで1回外してしまえば、それほどボールが収まったりというような脅威は、後半に点を取られる時間帯まではそんなになかったです」と振り返り、ペンチから戦況を見つめていた城福浩監督も「前半の15分か20分ぐらいまでは戸惑ったと思いますけれども、それ以降はしっかり対応ができた」と、しばらくは大きなピンチを招くことはなく、徐々にボールポゼッション率を上げていった。そのなかで、右サイドで高崎寛之のくさびから片桐淳至が逆サイドへ展開し、柏好文のドリブルからオーバーラップした松橋のクロスという、26分の一連のプレーも生まれた。
一方の山形も、守備への切り換えでは7枚で甲府の攻撃を迎えるケースが増えたが、ボランチでプレーする宮阪政樹は「まずは遅らせることを考えていたので、そういう面では相手の30番(保坂一成)と10番(井澤惇)のところで、そんなに前のボールは出させてないんじゃないかなと思います。サイドでパックもできましたし、うまく守備ができた」とこちらも対応には一定の手ごたえを感じていた。それは対戦相手の片桐が「同サイドでパスミスからカウンターを食らうというシーンが前半もあった。後半に入って点を取りだしてから少し落ち着きを取り戻して、ゆっくりというよりかそういうサッカーをやりたいなと思ったんですけど、詰まったときに変えられない」とサイドからの展開にフラストレーションを感じながらプレーしていたことと符号する。
41分には、オーバーラップした福田健介が高崎のスルーパスでペナルティーエリアにフリーで進入。決定的なクロスを送り、ゴール前で待つダヴィの手前で小林亮が危うくゴールラインに逃れる場面もあったが、前田和哉と西河翔吾の2センターバックがダヴィと高崎に厳しく対応できたことと併せて、山形も多くの決定機を与えることなく前半を折り返した。
両ゴール前の攻防が少なかった試合は、後半に入っていきなり動きを見せる。立ち上がりから左サイドにこだわりこじ開けようとしていた甲府は松橋が前線にフィードすると、これを山形の西河が目測を誤り後逸。入れ替わりフリーでゴール前が開けた柏がGK清水健太の動きも把握しながら冷静に枠内を打ち抜いた。甲府が先制。
しかし、この1点ビハインドの状況が、今度は山形の攻撃性を引き出した。中盤でボールへの圧力をさらに強め、小林亮が積極果敢なオーバーラップで前傾姿勢を取り戻すと、59分、スローインから山崎雅人が泥臭くつないだボールを秋葉勝がクロス。縦に走り込んだ中島裕希がヘッドで合わせて同点とした。前節で先制のPKにつながるファウルをもぎ取った「秋葉−中島」のホットラインが、この試合でも開通。試合を振り出しに戻した。
同点で勢いがついた山形は、小林のクロスに萬代宏樹のシュートや、山崎のクロスがゴール前を通過するなど、右サイドを起点に決定機をつくり出す。押し込まれた甲府も75分のコーナーキックではファウルを取られたもののダヴィがヘディングでゴールネットを揺らすシーンをつくり、直後にもダヴィの裏へのボールに高崎が飛び込みシュート。清水のファインセーブに阻まれなければ勝ち越しというビッグチャンスだった。
一進一退の攻防が崩れたのは84分、山形の直接フリーキック。ほぼ中央、20m強というポイントから、「まずは壁を越すことを頭に入れて蹴りました」という宮阪の軌道は、ペナルティーエリア内に設置された壁の上を優に越えつつも、斜めに落ちながら内側からサイドネットを揺らすエクセレントなゴール。これで得たリードを最後まで守りきった山形が、甲府の開幕からの連勝を3でストップするとともに、自らの連勝を3に伸ばした。
日程的なハンディキャップをバネに城福浩監督はこの試合に臨んだが、山形はその執念も今季初の逆転勝利ではね除けた。試合後、個人的な出来に不満げな表情を浮かべた船山祐二も、チームの成長は実感するところ。「自分が鹿島に入った1年目もそうなんですけど、ヒーローが毎日変わるというのはチームにとってノッてる証拠でもあるし、それが年間を通していけばみんなの成長にもつながるし、経験にもなる。チームとしてもいいことなので、自分も早くヒーローになれるように頑張ります」。そして、奥野僚右監督も「今日の勝利は自分たちにとって、貴重な、思い出になる勝利になった」と特別な思いを込めた。「試合が終わって円陣を組んだときに、メンバーに入らなかった選手たちも本当にみんなでよろこぶことができ、また自分たちが日々向上しようということの姿勢がフィールドに出ている11人に伝わって、それが勝利につながったのではないかなという思いをしています」。この思いを忘れない限り、山形の成長と快進撃は続いていく。
以上
2012.03.21 Reported by 佐藤円