シチュエーションはとてもよく似ている。連勝中の徳島に対し、連敗中の栃木。場所は徳島のホームで、天気も崩れ模様(11日の予報は雨)──。どう見てもこの一戦に関係する状況は昨季1度目の対戦(14節・5/28)時にそっくりだ。
ただ、両者はそれぞれ姿を大きく変化させて今季を迎えている。それだけにゲームの中身が昨季のその時と同じようになることはおそらくないだろう。いや、徳島は自分たちの力で何としてもそうしなくては。4つものゴールを奪われ完膚なきまでに叩きのめされたあの日の悪夢のような結果を繰り返すなど決して許されない。
そしてその徳島について見ると、その借りを返せるだけの成長をチームは今見せている。実際前節、守備では開幕戦で発生した課題が改善方向へ向いていることをしっかり披露していたし、攻撃においても連動性の向上をハッキリ発信。特に津田知宏とキム ジョンミンの2トップへ絡む鈴木達也、上里一将ら中盤の選手たちの動きには大いにスムーズさがアップしたと感じられた。
とは言え、高まる攻撃の連動性も2トップへ正確なくさびのボールが入って初めて生まれているもの。そのことを物語るように、キムと上里の見事なワンツーで中央を崩して挙げた前節の先制点は、エリゼウがキムへ送り込んだピンポイントフィードがあったからこそだった。となれば当然今節も望む結果を得るためにはそれが不可欠で、その視点から考えたならこの一戦における徳島は縦パスの精度が最大のポイントと思われる。2戦連続アベック弾を決め個としての好調さも感じさせる最前線の2人へ如何に正確なボールを供給できるかがチームには非常に強く問われるはずである。
そこで注目すべきプレーヤーとして、花井聖の名をここに挙げたい。本来技術とセンスを売り物にするMFであるが、今季はキャンプから右サイドバックへとポジション変更。これまで経験のない位置へと主戦場を移した。しかし、その思い切ったコンバートには小林伸二監督の明確な狙いがあり、それがまさに今節のポイントとなる正確な縦パス。事実、小林監督は以前花井のコンバートについて「精度の高いボールを供給できるから攻撃への期待をかけてあの位置へ置いている。そしてサイドならある程度フリーでボールを受けてプレーできるから、その分いいパスを出せるチャンスも増えるだろう」とコメントしていた。
いずれにしても、その指揮官の狙いが当たり背番号27のパス能力がピッチで輝けば、また他の選手たちもが前へのフィードをより精度あるものに出来れば、徳島はチームとしてきっと昨季の借りを返し、先週末に続く歓喜をスタジアムに届けられるであろう。
逆に敵地へ乗り込む栃木としてはもちろん昨季の再現を狙いたいところ。中軸をなしていた選手たちの移籍によって展開する内容こそ変わっても、その時のようなエネルギッシュな戦いで再び勝点3を強奪したいはずだ。だが、現在のチームは難しい状態にあると言わざるを得ない。それはまだ開幕2戦を消化しただけにも関わらず松田浩監督が「選手選考や戦い方のプランを練り直して再スタートしなければいけない」と口にするほどで、おそらく今節には実際何人かの先発入れ替えがあるのではないか。さらに栃木に関して書き加えると、チームには守備の再確認が必要のように思われる。なぜならそれは前節喫した1失点目に組織としてのアンバランスさが出ていたから。ゴール前で3人がセンタリングに備えていたにもかかわらず入り込んできた相手1人に決められたその場面には、約束事をまだ徹底し切れていない組織の現状がくっきり現れていたと言えるだろう。
しかし、昨季もそうであったが、栃木は低空飛行をしていても突如の上昇を見せられるだけのチーム。選手たちは「もっと危機感を持ってやらないと」と語っていた高木和正を中心に気持ちを立て直し、今節には本来の力を出してくるような予感がする。
果たして今季は鳴門の地でどのような戦いのドラマが繰り広げられるのだろうか。興味をそそられる対決から目が離せない。
以上
2012.03.16 Reported by 松下英樹