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【J2:第2節 熊本 vs 鳥取】レポート:鮮やかな逆転で鳥取をくだした熊本がホームで今季初勝利。決勝点の藤本主税がKKウイングで初の阿波踊りを披露した。(12.03.12)

まだ満点はつけられまい。それでも、高木琢也監督が述べているように「勝つことが全てだった」(特別な)ホーム開幕戦において勝点3を、しかも鮮やかな逆転勝ちで得たことに限って言えば、十分満点をつけていい出来。会見場を出てミックスゾーンに向かう途中ですれ違った高木監督は、苦笑いしながら「まだまだダメだよ」とこぼしたが、終止強い風が吹き肌寒さが和らがなかったスタジアムにあって、ピッチの上では確かに新しい芽が顔を出し始めていることを感じさせた。

ポイントを挙げれば、修正力という部分に尽きよう。悪すぎた前半から一転、熊本は後半立ち上がりから鳥取の出ばなをくじく。まずは46分、リスタートの流れから養父雄仁がドリブルで運び、DFの間を斜めに走り込んだ武富孝介へ絶妙のスルーパス。外に流れながらの難しい体勢だったが、これを受けた武富は角度のないところから左足で落ち着いてシュートを放ち、逆のサイドネットへ突き刺した。
鳥取からすれば「1−1になっただけで負けていたわけではなかった」(小針清允)ため、落ち着いて対応すればまだアジャストする余地はあった。しかしDFラインでの横パスから生まれたミスが明暗を分ける。非常にいい時間に同点に追いついたことでがらりと変わったスタジアムの空気を後押しに、熊本に勢いが生じたのも一因だったろう。
52分、戸川健太からの横パスを受けた柳楽智和に対する武富のプレスがミスを誘う。身体を張ってボールを奪って粘った武富が右に顔を出した崔へつなぐと、鳥取の選手はたまらず寄せるのだが、ここで崔は冷静に浮き球のパスを中央へ。スペースに走り込んだ藤本主税は全くのフリー。右足でうまくコントロールしてシュート体勢に入ると、飛び出して来たGK小針の動きを見て、実に冷静に、まさにお手本のようなきれいな左足のインサイドキックで流し込む。これまでに見てきたJ2の試合だと、あそこで慌ててGKに当てたり力みすぎて枠を外したりという場面が少なくなかったものだが、落ち着いて脇を抜く技術はやはりJ1級。KKウイングで初めて、藤本の阿波踊りが披露されることになったシーンである。
記者席に配られたハーフタイムコメントによると、高木監督の指示は3つあった。そのひとつが「相手陣地でプレーすることを心がけよう」というもので、具体的には「ロングボールで相手を下げること、前からプレスをかけること」の2点。これが結実した6分間の逆転劇以降も、きっちりと修正を施した熊本は、積極的に前へ出る動きや細かいつなぎなど今シーズン取り組んでいるコンビネーションを駆使して鳥取ゴールに迫る形を作っている。3点目こそ生まれなかったものの、終盤の時間帯には深い位置でキープするなど、昨シーズンまでなかなか見られなかった勝ちきるための試合運びを見せて凌いだ点は、チームとしての成長の一端と捉えられよう。
この試合、熊本は開幕戦のスタート時に採った1アンカーの4-3-3から3バックへシステムを変えて臨んだ。福岡戦で3バックに変更して流れを引き寄せたことを踏まえ、吉澤英生監督が「ある程度予想していた」と語った通り、鳥取は立ち上がりから熊本のやろうとするサッカーを抑えるために前からプレッシャーをかけてきた。これに対して熊本は、片山奨典と今季初先発となった田中俊一の両ワイドが押し込まれたことに加え、3枚のストッパーとの距離感を含めて守備時の対応がまだ定まっておらず、「幅を取ることでバイタルを開けよう」という鳥取の狙いにはまっている。鳥取とすれば前節同様に先制を守れなかった形で悔やまれるが、相手の背後を積極的に狙うというはっきりしたスタイルは統一感をもって表現されていた。ケニー・クニンガムも日本でのデビューを果たし、次節ホームでの開幕戦を迎えるにあたって明るい材料となる。

勝った熊本だが、試合への入りをはじめ、状況に応じた判断で長いボールを織り交ぜること、つないで作っていく際のミスを潰していくことなど、修正が求められる点はまだ多い。10分の小井手翔太の先制点は左の鶴見聡貴からの大きなサイドチェンジを起点に生まれているが、ボールサイドに寄せられて逆サイドのケアができていなかった17分の場面や、フリーキックで横に流したボールをそのままカットされてカウンターでシュートまで持ち込まれた51分の場面など、追加点を許してもおかしくないシーンはあった。
それでも、光は見えている。「自分たちの時間になれば、J1のチームが相手だろうがある程度やれるという手応えは皆感じていると思う」と、初アシストを記録した養父は言う。例えば新しく芽を出した植物の成長は、人の時間感覚で見ればコマ切れの段階的な変化に映るが、実際には連続した時間の中で僅かずつでも進んでいるもの。さらに養父はこうも話した。「今日、逆転できた要因のひとつは、間違いなくサポーターの力」。愛おしいチームの成長過程を余さず見届けるには、5,817人という観客ではまだまだ足りない。京都、町田とアウェイの連戦を終えてチームが帰ってくる2週間後のホームゲームでは、さらに多くのサポーターでスタンドを赤く染めたい。

以上

2012.03.12 Reported by 井芹貴志
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