9月13日(日) 2009 J2リーグ戦 第39節
水戸 0 - 2 栃木 (19:04/笠松/3,475人)
得点者:54' 河原和寿(栃木)、74' 岡田佑樹(栃木)
スカパー!再放送 Ch183 9/14(月)15:30〜(解説:前田秀樹、実況:加藤暁、リポーター:佐藤愛美)
勝敗予想ゲーム | 皆の投稿で作るスタジアム情報
----------
☆栃木側レポートはこちら
屈辱の敗戦であった。中2日の相手に対して積極性と運動量で劣って敗れるという失態を演じてしまったのだ。70分過ぎ、両チームともに運動量が落ち始めてきた。そのとき、自らにムチを打って戦ったのは栃木であった。左サイドを入江利和が鋭い突破を図ると同時に、右サイドから岡田佑樹がすさまじい勢いでゴール前に走りこんできた。入江からのクロスはGK本間幸司がはじくものの、DFに当たり、岡田の前にこぼれる。それを岡田が落ち着いて蹴りこんで勝負を決する2点目が決まった。その後、岡田は足をつって交代を余儀なくされるが、それほどまでに魂を込めて走り抜いた栃木の気迫に、水戸は圧倒されたと言っていい。これまで積極性と運動量を武器に戦ってきたチームにとって致命的な敗戦。「選手のメンタル的なタフさ、モチベーションの高さというか、ダービーにかける気持ちが僕の予想を上回ってくれた」という栃木・松田浩監督の弁にうなずくしかなかった。
失われた積極性。予兆はあった。「最近中盤とFWが間延びしてしまっている。中盤の運動量も少ない。改善しないといけない。ここ数試合は水戸らしい攻撃的なサッカーができていない」と高崎寛之は試合後に語ったが、そうした言葉を吐くのは、この日が初めてではない。これまで何度も口にしてきた言葉であり、7月からわずか1敗という好調を維持するチームの奥底で着実に鬱積してきた課題である。前々節札幌戦、前節横浜FC戦ともにチームの生命線とも言える前線からのプレスは影を潜め、DFラインを下げてゴールを守るという消極的な戦いを演じてしまった。どちらの試合も勝点1を獲得したものの、内容では相手に圧倒され、水戸らしさは垣間見ることができず、「このままではいけない」という声が選手たちの中からあがりはじめていた。ついにそれが結果となって表れてしまったというのが、選手たちにとって率直な感想だろう。
こうした状況を招いたのは、精神的な要因が大きいと思われる。以前木山隆之監督は「勝ち続けてきたことで成長した部分といい形が続かなくなった部分がある」と語っていたが、昇格争いに加わることで結果を意識するあまり慎重に戦うメンタリティーが根を張るようになってしまっている。「どちらかというと、前みたいに戻りたくないという意識が強い」と吉原宏太が言うように、「何が何でも昇格争いを勝ち抜く」という意識よりも「ここから落ちたくない」という気持ちの方が強くなってしまったようだ。そうした意識が知らず知らずのうちに水戸らしさを奪い取ってしまっているのではないだろうか。高みにいるからこその苦悩の真ん中に水戸はいる。勝ち続けてきたことで得たものは大きいが、失ってしまったものもある。それを取り戻すことが次なるステージに進むために求められていることなのである。
序盤から忘れ物を捜すように水戸は積極的な戦いを見せた。ここ数試合とは打って変わって、前線から激しいプレスをかけ、果敢に栃木ゴールに迫った。開始直後に吉原からのスルーパスを受けた荒田智之がGKと1対1の局面を迎え、13分にはGK本間から左サイドに展開し、森村昂太からのクロスを荒田がヘディングシュート。ゴールにはならなかったが、水戸らしい攻撃的なサッカーを披露。「立ち上がり、水戸は相当な勢いで来た」と松田監督が語るように、栃木を面食らわせるには十分なスタートを切った。しかし、「(いい時間に)点を取れなかったことで焦りが生まれた」(森村)。時間とともに全体が後ろに下がり出し、ロングボール頼みの単調な攻撃が目立つようになってしまった。後半開始早々に失点を喫すと「より焦りが出てチームがバラバラになってしまった」(森村)。チーム内の規律がなくなり、1人1人の運動量も落ちていき、気迫に満ちる栃木に試合を支配され、2失点目を決められて敗戦。忘れ物は見つからなかった。
誤解を覚悟で書くが、負けてよかったと思っている。7月から9勝4分1敗という驚異的な成績をあげてきたが、試合ごとに水戸らしい積極的な戦いは失われていっていた。そうした状況を監督、選手は気づきながらも「勝っているチームはいじるな」という教訓通り、なかなかテコ入れできずに来てしまったのではないだろうか。もう一度チームを見直すためにも敗戦は必要だったように思われる。どんな強いチームでも勝ち続けることは不可能。いつかは負けるときが来る。大切なのは敗戦をどう生かすかだ。大和田真史は言う。「強いチームはすぐに修正することができる。そういうチームにならないといけない」。この敗戦を機にチームがどう変われるか。そこにチーム力が試されている。
J2参入10年目で初めて昇格争いを戦う水戸。プレッシャーゆえの苦悩を感じるのももちろん初めてのことだ。ただ、この苦悩こそ戦っている証である。この現状からどうチームは変わっていくか。言うなれば、さなぎから蝶に変わるとき。水戸は「過去」から「未来」へ生まれ変わろうとしている。その変化の瞬間を見逃してはいけない。そのさまをみんなで見届けようではないか。1つの敗戦ぐらいで下を向いている場合ではない。
以上
2009.09.14 Reported by 佐藤拓也