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コラム

北條 聡の一字休戦

2016/7/27 14:51

『ポケモンGO』より熱い!? 川崎Fのパス・アンド・ゴー!(♯34)

この夏、猫も杓子も『ポケモンGO』らしい。何でも、その経済効果は10兆円規模だとか。早くも『ポケモノミクス』なる造語も生まれ、ワイドショーでも連日、大騒ぎといった感じ。景気の悪い話ばかりが続いていたので、喜ばしいことです――って、正直、どうでもいいですが。サッカー信者にとっては、ポケモンGOより『パス・アンド・ゴー』ですから。目下、J1の年間順位でトップを突っ走る川崎フロンターレが、この楽しい遊びのマスター(達人)でしょうか。

出して、動く――。川崎Fを率いる風間 八宏監督が就任以来、一貫して説いてきたフレーズです。要するに「パス・アンド・ゴー」のこと。もう風間フロンターレのキャッチコピーと言ってもいいでしょう。前半終了後、報道陣に配られるハーフタイム・コメントの風間監督の覧に、この文言が載らない試合はないというくらい。出して、動く。後半も繰り返して行こう――と。言葉自体は単純ですが、思いのほか、奥の深いものだったりするわけです。

出して、動く。風間監督が就任以来、一貫して説いてきたフレーズだ
出して、動く。風間監督が就任以来、一貫して説いてきたフレーズだ

出したら、止まる――。この「出しっ放し」が結構、あるんですね。ジュビロ磐田の名波 浩監督が就任初日に「サンダルの出しっ放し」を禁じましたが、あらゆる分野で「やりっ放し」が少なくないわけです。まるで野球の強打者がスタンドへ届く打球の行方を満足そうに眺めるような調子で、ゆっくり、のんびり、てくてくと……。日本代表監督時代のジーコが「パスを出したら動かない」と主力選手の「癖」をよく嘆いていたのを思い出します。なぜ、こうなるのでしょうか?

「次に何をやりたいか。その企画がないから、出して終わりになってしまう」
風間監督がそう話したのは、明治安田生命J1リーグ 1stステージ第10節のベガルタ仙台戦のあとでした。それぞれの企画が連続していくから面白いサッカーになる――というのが風間監督の持論。別の言い方をすれば、出して終わるのは「やりたいことがない」ということですね。それじゃあ、勝てない――と言わないところが風間監督の面白さ。それじゃあ、楽しくないだろうと。だから、風間監督は怒ったりしないわけです。その代わりに「もったいない」と。

風間監督が独自のサッカー観は、着実にチームに浸透している
風間監督が独自のサッカー観は、着実にチームに浸透している

失敗してもいいから、自分のやりたいことをやる。
ピッチに立つというのは、楽しむ権利を得たということ。
決して「やらされる場」なんかではない。

風間監督が独自のサッカー観を口にしたのも、同じ仙台戦のあとでした。新しいアイディアが生まれたり、イノベーションが起こったりする環境というのは、こういう上司(責任者)がいるところなんでしょうか。いくらアイディアがあっても、それを実行に移せるだけの技術がないと空論に終わるわけですが、そこは練習で磨いていこう――と。この仙台戦を境にして、川崎Fの「パス・アンド・ゴー」の質がワンランク上がったように感じるのは、気のせいでしょうか。

自分に期待し、自信を持ってやること。風間監督の信頼に、選手はしっかりと応えている
自分に期待し、自信を持ってやること。風間監督の信頼に、選手はしっかりと応えている

出したら、すかさず動く選手(受け手)が増えると、出し手は楽ですね。はて? どこに出したらいいものか――などと迷わずに済みますから。いまでは各選手が失敗を恐れず、どんどん敵の守備ブロックの隙間に潜り込み、仲間のパスを呼び込むようになりました。重鎮の中村 憲剛選手が「みんな(ミスを)怖がって隠れちゃう」とボヤいていたのも今は昔。それぞれの「企画」を載せたパスワークが、いよいよ止まらなくなってきたように感じます。

もっと自分に期待し、自信をもって、やればいい。選手たちの力はよくわかっていますから――。風間監督はメディアだけではなく、選手たちにもそう話しているでしょう。これだけ信頼されたら、企画も意欲も湧いてきますね。ピッチに立つ選手たちの、何と楽しそうなことか。それがスタンドにも伝染し、あの刺激的な『等々力劇場』の幕が上がるのでしょう。楽しくなければ、サッカーじゃない――。この夏、風間フロンターレの「パス・アンド・ゴー」も、お楽しみあれ!

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