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コラム

Jリーグ副理事長 原博実が試合解説“イイ時間帯ですね。”

2016/7/22 12:30

オフサイドか否か?【明治安田J1 2nd 第3節 川崎Fvs新潟】(♯3)

明治安田生命J1リーグは 2ndステージに突入しました。これからはステージ優勝と共に年間優勝の行方も気になる時期になってきます。今回のコラムは、2nd ステージ第3節川崎フロンターレ対アルビレックス新潟の試合についてです。この試合、川崎フロンターレの3点目となった小林 悠の決勝ゴールの判定についてJリーグにも様々なご意見をいただいています。そのゴールが次の映像ですが、今回はこのシーンについて書きたいと思います。


この得点は、2-2で迎えた後半アディショナルタイム、左サイドからの車屋 紳太郎のクロスがゴール前にこぼれたところを、右足のヒールで押し込んだもの。ゴールの形自体は素晴らしいもので、激戦に終止符を打ったという価値も加わり、この小林のゴールは同節のベストゴールにも選ばれたほどです。

ところが、このゴールはオフサイドではなかったか。試合後にそんな声が高まりました。では、本当にオフサイドだったのでしょうか。今回はスカパー!のオフサイドカメラからの映像を確認しながら、このゴールを検証したいと思います。

まず、左サイドの車屋がクロスを上げた瞬間、小林はオフサイドポジションにいました。この時、仮に車屋のクロスが直接小林に届いていれば、間違いなくオフサイドとなります。ところが、車屋のクロスは新潟DFに当たりやや内側に入り、エリア内に進入してきたエドゥアルド ネットの足元に到達しました。

エドゥアルド ネットには新潟DFが足を出してしっかりと対応しており、一瞬このボールをどちらが触ったかわからない状況となりました。

エドゥアルド ネットのパスにも見え、DFが触ったようにも見えるボールが、小林の前にこぼれます。小林はこれをヒールで押し込み決勝点を奪ったわけですが、最大の焦点はこのボールをどちらが触ったかということです。エドゥアルド ネットであればオフサイドですし、新潟のDFであればオフサイドではありません。

映像を見てもどちらの足に触れているのか微妙なところですが、おそらく触っていたのはエドゥアルド ネットでしょう。したがって個人的な見解を言わせてもらえば、このシーンはオフサイドだった。そう結論付けられます。

ただ、このようにオフサイドカメラからの映像を何回も見れば何が起こったのかがある程度分かりますが、ピッチレベルからあの一瞬で正確な判断を下すのは、たとえ経験豊富なレフェリーであっても相当難しかったと思われます。

エドゥアルド ネットと新潟DFの場所は、アシスタントレフェリーの位置からはおよそ34メートルの距離がありました。主審に関しては約20メートルの距離にいたわけですが、主審とボールとの間に多くの選手が入り込んでおり、こちらもどちらが触ったかを確認するのは困難だったでしょう。

一方でアシスタントレフェリーのポジション取りに問題があったことも否めません。エドゥアルド ネットがボールを蹴った瞬間、オフサイドラインから1メートルほど後方に位置しており、真横から見ることができていませんでした。ただ、たとえ真横にいたとしても、どちらが触ったかを確認するのは難しかったでしょう。

そして、このシーンには不運も重なりました。小林がシュートを打った瞬間、アシスタントレフェリーから見ると一番遠い位置で新潟の選手が転倒。シュートの瞬間は、その選手と小林のラインが並んでいました。だから旗を上げなかったのかもしれません。

ビデオで何度も何度も確認しても難しい判定。時間にして約1秒、その間に今言ったことがすべて起こっています。その状況下で、この微妙なシーンを2人で判断しなければいけない。戦術が進化し、スピードやフィジカル要素も高まった現代サッカーで、審判の仕事がより難しくなっていることは間違いありません。

Jリーグでは今、日本サッカー協会と協力してアディショナル・アシスタント・レフェリー(以下、AAR)の導入にむけて動いています。ゴールライン上にもう1人のレフェリーを置くことで、より正確な判定を下せるようにするためです。

AARはUEFAではすでに導入されており、今回のユーロ2016でも、レフェリー6人制によって試合がコントロールされていました。それでも誤審はありました。

Jリーグではルヴァンカップの準決勝と決勝、そしてチャンピオンシップの全試合で採用する事が決定しております。そのための準備として、今J3で試験的にAARを導入しています。

仮に川崎Fvs新潟戦でもAARの存在があったなら、どうなったでしょうか?AARがいても難しい判断になったと思います。AARは2番目のレフェリーという位置づけで、ゴールが入ったか、入っていないかを判断するだけでなく、エリア内で起きた事象に対して判断を下せる権限を持っています。

優先順位としては、まずは主審が判断し、その次にAAR、3番目がアシスタントレフェリーとなります。実際に今回のユーロでも、主審が気付かなかったエリア内のファウルをAARが指摘し、PKになったシーンもありました。

ただ、AARはより多くの目で別の角度からの判断を導ける一方で、意見をまとめるためのタイムラグが生じるという問題があります。そうすると、見ている人が遅れて鳴る笛に対して、「なぜ?」と不信感を抱く可能性もあります。そうしたすり合わせの難しさがあるため、その判断基準をより明確にしていく必要があると思っています。

またAARは、ファウルを判断できる主審の資格を持つ人材でなければ務められません。したがって、すべてのリーグ戦の試合に導入しようとも、現状では絶対数が足りていないのです。だから、そのために今求められているのは主審を育てることなのです。

Jリーグ開幕当初、Jリーグから各クラブにレフェリーを育てて欲しいという要請がありました。Jリーグの試合数が増えてレフェリーの数を増やす必要があったからです。ワールドカップでも笛を吹いた上川徹さんは、湘南ベルマーレが育てた人材です。53クラブまで増えてさらに試合の数が増える中で、こうした流れを生み出すことも重要だと考えています。

審判は本当にまじめな人が多い。もし誤審をしたらしばらく笛を吹けなくなるという厳しい立場にあるにもかかわらず、それでもサッカーが大好きで一生懸命、公平に試合をさばこうとしています。もちろん判定に異議を唱えたくなる時もあるでしょう。私も監督をしていたので、その気持ちも良く分かっています。でも、審判がいなければ、試合は成り立たないのです。同じサッカーファミリーである彼らを、我々はリスペクトしなければいけないと思っています。

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