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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2016/6/10 18:24

九州の友が贈った心意気、熊本が示した意志と道(♯37)

「試合前からいつもと雰囲気が違っていた」。熊本の選手複数から聞かれた言葉だった。6月8日のベストアメニティスタジアム。本来サガン鳥栖の本拠地であるこの場所で、ロアッソ熊本とツエーゲン金沢による明治安田生命J2リーグ 第17節が開催された。震災後初めて九州での「ホームゲーム」である。熊本DF黒木 晃平は「九州開催」について「やっぱりまるで違うんです。『ホームだな』という感じがしました」と笑って振り返った。

かつて鳥栖でプレーした黒木 晃平は、爆発的オーバーラップからヘディングシュートを突き刺した
かつて鳥栖でプレーした黒木 晃平は、爆発的オーバーラップからヘディングシュートを突き刺した

熊本と鳥栖は九州の中でも距離的に近く、何かと縁のあるクラブでもある。黒木自身がかつて鳥栖でプレーしていた選手であり、スターティングメンバー発表の時点から大きな声援を受けていたのは何とも印象的だった。鳥栖のサポーターから熊本のサポーターへ向けては、こんな横断幕を掲出されていた。

「友よようこそベアスタへ。いつでも力になるばい。何事にも屈することない誇り高き火の国魂を見せてやれ!」

鳥栖のマスコットのウィントス(右)も訪れるなど、ベアスタは友好ムードに包まれた
鳥栖のマスコットのウィントス(右)も訪れるなど、ベアスタは友好ムードに包まれた

もう一つ印象的だったのは、佐賀県の山口 祥義知事の挨拶だった。「われわれは忘れていません」と言って触れたのは、5年前のエピソードである。J1昇格を果たした鳥栖に向けて、熊本サポーターはこんな横断幕を掲げて激励の言葉を贈ったのだ。

「サガン鳥栖を愛する全ての人へ。堅忍不抜の努力に敬意を表します。追い付き追い越すまでJ1にいてね」

この故事に触れた山口知事は「ロアッソとサガンの待ち合わせ場所はJ1です!!」と叫ぶように激励し、熊本サポーターから万雷の拍手とコールを返された。試合前からスタジアムを包んでいたのは、ひたすら温かい空気。MF嶋田 慎太郎は「今日はリラックスしてできていた」というが、その理由の一つとして「九州の友」が作り出した空気感を挙げることは、決して的外れではないだろう。対する金沢はとてもやりにくかったかもしれないが、それはまさに、この日のベアスタが確かに「ホームゲーム」だった証である。


プレーオフ圏内の6位との勝ち点差は『14』。しかし諦めるにはまだ早すぎる
プレーオフ圏内の6位との勝ち点差は『14』。しかし諦めるにはまだ早すぎる

試合は立ち上がりから全開で攻め入った熊本の圧勝だった。1分に平繁 龍一の先制点、9分には元鳥栖の清武 功暉が追加点、31分には再び平繁が決めて、36分にはコーナーキックからキム テヨン。「夢中だったので」とキムが照れ笑いを浮かべたように、選手全員がゾーンに入っているような、ゴール前での異様な集中力があった。44分、疲れているはずの時間帯で、カウンターでの爆発的オーバーラップから黒木がヘディングシュートを突き刺すと、スタジアムのボルテージは極限まで高まった。前半、熊本が記録したシュートはわずか5本。決定率100%という数字は、彼らのメンタルが最高の状態にあったことをよく表している。これまでは気負いが先行した印象もあった熊本だが、この日は明らかに違っていた。

後半は金沢が意地を見せてMF山藤 健太のスペシャルなミドルシュートなどで2点を返したが、さすがに5点差を跳ね返すには至らず。5-2で熊本が震災後初めての白星を記録することとなった。MF岡本 賢明は「ホントに今まですごくキツい思いをさせてしまった。久々にサポーターの笑顔を見られて良かった」と安堵の声を漏らした上で、「ここから」と次を見据えた。

熊本は長いトンネルを抜けたが、これでリーグ戦が終わりというわけではない。シーズン前にチームが掲げていた目標はJ1昇格であり、誰もあきらめてはいないだろう。幸いにもJ2はまれに見る大混戦。プレーオフ圏内の6位との勝ち点差は『14』と一見大きいが、他クラブより消化試合が4~5も少ないことを思えば、絶望するには早すぎる。少なくとも、そこを目指して戦っていく価値はあり、「熊本県民に勇気を」という願いをかなえる道である以上、熊本の選手たちはシーズンの最後まで九州の友と定めた「待ち合わせ場所」を目指して戦い抜くに違いない。

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