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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2016/5/11 11:59

豪雨の鳥栖、募金活動、そして「希望」となるために(♯36)

5月11日、『MS&ADカップ2016 ~ 九州 熊本震災復興支援チャリティーマッチ がんばるばい熊本 ~』が佐賀県鳥栖市のベストアメニティスタジアムにて開催される。元々はU-23日本代表とガーナA代表による国際親善試合という位置づけだったのだが、震災復興支援を目指すチャリティーマッチとして開催されることになった。

試合前日の10日には、試合会場にて選手・監督による募金活動も実施された。練習前に時間を作っての対応。豪雨と強風が鳥栖市を襲う最中だっただけに、「果たして、どれだけの人が来てくれるのか……」と日本サッカー協会のスタッフを不安がらせたが、実際は100人以上の人がスタジアムまで来訪し、即席の握手会を通じてわずか30分足らずで11万4,182円もの寄付金が集まることとなった。

ガーナ戦前日の募金活動で最後まで対応を続けた橋本、手倉森監督、植田の3人
ガーナ戦前日の募金活動で最後まで対応を続けた橋本、手倉森監督、植田の3人

なにせ練習前の大事な時間である。ファンの列が途切れ始めると、3人を残して選手たちは練習の準備に向かった。1人は当然、手倉森 誠監督。残る2人は鹿島アントラーズのDF植田 直通とFC東京のMF橋本 拳人。この3人はファンの姿が完全にいなくなるまで対応を続けた。

植田は今回の震災で被害を受けた熊本県宇土市の出身。押し潰れたかのように崩れた市庁舎の映像や写真を目にした方も多いかもしれない。植田は「どんな勝負でも必ず勝て」という薫陶を家族から受けてきただけに、常に剛毅であろうとする選手である。ただ、今回の震災に際しては自分の「弱さ」に対して率直だった。震災後の最初のオフにはチームへ直訴して現地入り。避難所を訪問するなど、現地の様子を目の当たりにした。本人は「無力さを感じた」と言うものの、筆者が少しSNSを巡っただけでも「直通くんが来てくれた!」などと喜ぶ人の声を次々に拾うことができた。本人が言うほど「無力」だったわけではないだろう。何より、その心意気こそ尊いものだった。

地元の被災を目の当たりにし無力さを感じたという植田。しかし、その心意気は尊いものだった
地元の被災を目の当たりにし無力さを感じたという植田。しかし、その心意気は尊いものだった

「僕が(元気を)与えなきゃいけない立場なのに、みんな僕のことを逆に心配してくれましたし、『頑張って』とたくさんの人に声をかけてもらった」と言う植田は、「今こうやって(サッカーが)できているのは幸せなこと。明日はそういう(サッカーを)できている幸せを感じながらプレーしたい」と言う。もちろん、プロサッカー選手としての使命も意識する。「明日の試合は家族も、友だちも、知り合いも、たくさんの方が観に来てくれるので、頑張りたい」。木訥な言葉の中に、誠意がのぞいた。

もう1人残っていた橋本にとっても、熊本は特別な場所だ。2013年シーズン途中から2014年いっぱいまで、FC東京からの期限付き移籍という形で、ロアッソ熊本の選手として奮闘した。それまでカップ戦を含めて1試合も公式戦出場のなかった選手を熊本は温かく迎え入れ、主軸として信頼もしてくれた。

2013年から2シーズン熊本でプレーした橋本。「自分の原点」という地に対して恩返しの思いは強い
2013年から2シーズン熊本でプレーした橋本。「自分の原点」という地に対して恩返しの思いは強い

「プロとしてデビューしたのも熊本だし、初めてコンスタントに試合に使ってもらったのも熊本。あそこでの日々が東京でも生きている。本当にたくさんお世話になった人が熊本にいて、今回の震災があった。プレーで勇気や元気を与えられるようにしていきたい。一緒にプレーしていた選手も来てくれるし、気持ちの部分や戦うというところをこだわっていきたい」(橋本)

橋本は熊本での記憶と経験を「自分の原点」と言う。熊本があって、いまの自分がいるという確信があるだけに、「恩返し」の思いは強い。「プレーを通じて勇気や元気を与えられたら」と静かな言葉に力を込めた。

そして東日本大震災で被災者となった記憶と、その後の苦闘を知る手倉森監督にとっても、「震災」は重い言葉だ。この一戦を「ただの強化試合ではない」と語るのも当然。「被災地の希望となる」という決意の言葉は、決してこの1試合に止まるものではなく、五輪本大会まで継続していく思いとなる。まずは「人と人の繋がりで熊本を元気にできればというプロジェクト」である今回のチャリティーマッチで、U-23日本代表チームはその「可能性」を示すこととなる。

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