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コラム

城福浩のサッカー観・戦・術~Supported by スカパー!

2015/12/30 11:00

「縦に剥がす編」(#3)

みなさんこんにちは、城福浩です。

第3回目を迎えた『城福浩のサッカー観・戦・術』は、サッカーの戦術について、映像を交えながら解説するコラムです。過去2回はサッカーの一番の魅力であるゴールシーンを生み出すために必要な『相手を動かす』戦術をテーマに、その方法論である『パスとポジショニングで動かす』プレーと『選手の動きで動かす』プレーについて解説してきました。第3回目は『相手を動かす』戦術の締めくくりとして、『縦に剥がす』プレーについて解説いたします。

■「縦に剥がす」とは
試合の中の局面(ビルドアップの時)でセンターバックがボールを持っている時、目の前には相手GKを含めた11人が立ちはだかっています。ここからゴールを生む可能性を高めるには、分かりやすくするため極端に説明すると、まずフィールドプレーヤーの10人を縦パスなどを使い潜り抜け、10人から8人、8人から4人という風に対峙する人数を減らしていき、ゴールに立つGKと1対1の状況を作ることが必要となります。その潜り抜けることを私は「剥がす」と呼んでいます。

例えば相手が4バックの場合、中盤の4人を剥がすプレーができれば、あとは最終ライン4人とGKを相手にすれば良いだけという状況になります。このようにフィールドプレーヤー10人を相手にするよりも、8人を、8人を相手にするよりも4人を相手にしたほうが、当然ながらよりゴールの可能性が高まるため、相手を剥がすプレーは重要になります。縦に剥がすプレーは、必然的に最終ラインからボランチへのパスが多くなりますが、実際の映像を見ながら、『縦に剥がす』プレーについて、解説していきましょう。まずは映像をご覧ください。

■センターバックからの縦パスの重要性
一つ目の映像は2015年10月24日に行われた明治安田生命J1リーグ 2ndステージ第15節 川崎フロンターレvs横浜F・マリノスにおける前半のワンシーンです。

最終ラインの手前でボールを持った選手は、この時点でフィールド10人を相手にしている形となります。そのあと相手選手2人の間にポジションを取ったボランチへ精度の高いパスが通り、受け手の素晴らしいボールコントロールにより、一瞬で相手選手3人を剥がすことに成功しています。川崎Fは相手選手の間で(剥がすための)ボールを受けられるように、そういう精度の高いパスを出せるセンターバックやボランチを並べているチームだと言えます。

二つ目の映像は2015年10月24日に行われた明治安田生命J1リーグ 2ndステージ第15節 清水エスパルスvs柏レイソルにおける後半のシーンです。この試合からは3つのシーンを切り取る形で『相手を剥がす』プレーについて解説いたします。

まずシーン②の映像を見てみましょう。センターバックの選手がGKからパスを受けた時点では、フィールドプレーヤー10人を相手にしている形になります。そのあと最終ラインの選手でパス交換をしている間に相手のスキを見付けた丸印の選手がスペースへと走り出し、下がったボランチからの精度の高い縦パス1本を受ける形で6人を剥がすことに成功しています。この時点で相手はフィールドプレーヤー4人となりました。この状況になってしまったら相手はズルズルと守備のラインを下げるしかありません。

続いて、シーン③の映像を見てみましょう。柏の選手がボールを動かし、相手を揺さぶる中で、相手を剥がすスキを探っています。まだセンターバックの選手がボールを受けた時点ではフィールドプレーヤー10人を相手にしている形ですが、丸印の付いた選手が浮いたポジションでセンターバックからの精度の高いパスを受けることにより、一瞬にして6人を剥がすことに成功しています。空いたスペースでボールを受けた選手の目の前にはフィールドプレーヤーが4人しかいません。このシーンも『縦に剥がす』という意味では効果的なプレーでした。

最後に、シーン④の映像を見てみましょう。GKがボールを受けた時点ではまだフィールドプレーヤー10人を相手にしています。そのあと、センターバックからボランチの選手へ、精度の高いパスが入り、相手選手2人を剥がしました。そして2人を剥がされたため、清水の選手は自分のマークを捨てて、ボールホルダーにプレッシャーを掛けに行きます。しかし、柏はそのプレッシャーをものともせず、再度精度の高い縦パスを通して、結果的に6人を剥がすことに成功。そして、一つ前のプレーでフリーになった丸印の選手がパスを受けて、前線へダイレクトで精度の高いパスを通し、相手最終ライン4人を剥がしてゴールへとつなげました。

最初の縦パスを出したセンターバックがあの位置にボールを付けられることも重要ですし、きちんとパスを受けられるボランチの選手のプレーも素晴らしく、いずれの選手も相手を剥がす上で重要なプレーをしています。

センターバックからの縦パスは見ているほど簡単ではありません。相手のFWが寄せる角度が少しでも違えばパスが引っかかる可能性もありますから、高度なパスと言えるでしょう。このゴールシーンは、最後のスルーパスの場面がクローズアップされがちですが、まず2人を剥がしたセンターバックによる縦パスとそれを受けたボランチの選手が再び縦パスを通して6人を剥がしたプレーにも賞賛の声があってしかるべきです。『相手を剥がす』素晴らしいプレーがいくつも重なり合って生まれたゴールシーンだと言えるでしょう。

全3回にわたって、ゴールシーンを生み出すために必要な『相手を動かす』戦術について話を進めてきました。『相手を動かす』ためには『パスとポジショニングで動かす』、『選手の動きで動かす』、『相手を剥がす』プレーが効果的な方法論であることはお分かりいただけたかと思います。

次回からは守備側の立場に立ち、ゴールを奪われないためにはどうすればいいか。失点を回避する守備について、解説していきたいと思います。次回はまず『動かされない守備』について解説いたします。次回もよろしくお願いいたします。

(#4へ続く)

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