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コラム

城福浩のサッカー観・戦・術~Supported by スカパー!

2015/11/26 14:00

「パスとポジショニングで動かす編」(#1)

みなさんこんにちは、城福浩です。

スカパー!のJリーグ中継で解説をさせてもらっていますが、その中でスタッフや関係者のみなさんからプレー、特にサッカーの戦術についてさまざまな質問をされることが最近多くなってきました。

サッカー観戦においての醍醐味は、何と言ってもスター選手の個人技やゴールだと思います。しかし、サッカーを戦術という観点で見てみると、個人技やゴール以外にも実は見どころがたくさんあることが分かります。

このコラムでは、そんなサッカーの戦術について、映像を交えて書いていきたいと思っております。

サッカーをより深く見ることで、サッカー観戦の楽しさ、サッカーの奥深さを知り、これまで以上にサッカーを好きになってほしいと思っています。

このコラムはJリーグのファン・サポーターだけではなく、年齢を問わずサッカーを実際にプレーしている選手やサッカーを教えている多くの方々にも読んでほしいと思っております。もっと多くの方々がサッカー(Jリーグ)を少しでも好きになるきっかけになれば幸いです。よろしくお願いいたします。


■相手を動かす
まずこのコラムのスタートとなる第1回目のテーマは、サッカーの一番の魅力であるゴールシーンを生み出すために必要な『相手を動かす』戦術について話を進めていきたいと思います。

現代サッカーは、セットプレーでの得点がゴールシーンの約3割を占めると言われています。それだけ流れの中で点を取ることが難しくなっていることの証しですが、その一つの要因は相手が自由にプレーできるスペースを消す、もしくはスペースを作らせない守備戦術を採用するチームが増えていることにあります。逆に言えば、サッカーではゴールを奪うためにスペースを作り、そのスペースを活用することが重要なのです。では、そんな現代サッカーにおいて、どうすればそのスペースを作ることができるのでしょうか? その答えが『相手を動かすこと』なのです。

例えば、相手選手を右サイドに動かす事ができれば、逆の左サイドにスペースができます。その逆も然り、左サイドに動かせれば、右サイドが空きます。もしくは、左右両方に動かせたらセンターにスペースができます。また、相手選手を手前に引き出せたら、その後ろにスペースができます。後に映像を見ながら具体的に書きますが、分かりやすく説明すると「動かす」とはこういう事です。

そして、相手を動かす際にポイントとなるのが、相手の最終ラインに影響を及ぼしているか? 相手の最終ラインを動かしているか? ということです。いくら相手の前線(フォワード)の選手や中盤(ミッドフィールダー)の選手を動かしたところで、最終ラインが動かないことにはゴールを奪う可能性は高まりません。逆に言えば、攻撃時に相手の最終ラインに影響を与えて、最終ラインを動かすことができれば決定的チャンスを生む可能性が高まります。

それでは、相手を動かすには何が必要なのでしょうか。それは「効果的なパス」、「効果的なポジショニング」、そして「効果的な動き」です。

今回から3回に分けて、「相手を動かす」ということを『パスとポジショニングで動かす』、『選手の動きで動かす』、『相手を剥がす』という3つの観点で、実際の印象的なシーンの映像を交えて解説していきたいと思います。今回のコラムではまず『パスとポジショニングで動かす』プレーについて解説いたします。


■パスとポジショニングで動かす
「パスとポジショニングで動かす」とは、ボールを受ける選手が、ボールを受けた瞬間に相手を動かせる「効果的なポジショニング」を取っているということと、ボール保持者がその「効果的なポジショニング」を取っている選手へ速く正確なパスを出すことで動かすということです。

これからいくつか映像を見ながら説明していきますが、今回ピックアップする全ての映像に共通しているポイントは、「相手のサイドバックを引き出す(ボールに対応させる)ことで、相手の最終ラインを動かしている」ということです。サイドバックに対応させると、センターバックとの距離を広げることになり、最終ラインが動かされ、スペースができるのです。


■浦和レッズ左右の揺さぶり
一つ目の映像は2015年10月24日に行われた明治安田生命J1リーグ 2ndステージ 第15節 FC東京vs浦和レッズにおける後半のワンシーンです。

浦和は左右の揺さぶりで最終ラインに影響を与えるプレーを最も得意としているチームです。では映像を見てみましょう。浦和は右サイドのスローインの展開から、中の森脇 良太を経由し、左サイドにボールを動かします。左ウイングバックの宇賀神 友弥がワイドに張り出すことでFC東京の右サイドバック徳永 悠平を外へ引き出し、徳永と右センターバック森重 真人との距離を広げ、最終ラインを動かすことに成功しています。このシーンは左右の揺さぶりで最終ラインに影響を与えたプレーとして、印象的な場面です。

二つ目は2015年9月26日に行われた明治安田生命J1リーグ 2ndステージ 第12節 鹿島アントラーズvs浦和レッズにおけるワンシーンです。こちらも同様に浦和のサイドチェンジによって相手最終ラインを動かした例です。

■鹿島アントラーズの攻撃
次は、2015年10月31日に行われたJリーグヤマザキナビスコカップ決勝 鹿島アントラーズvsガンバ大阪の映像です。

シーン(1)は、まず高い位置を取った右サイドハーフの遠藤 康に対して、右サイドバック西 大伍が縦パスを通しています。遠藤のポジショニングが効果的なので、G大阪の左サイドハーフ宇佐美 貴史が遠藤に対してアプローチできずに、サイドバックの藤春 廣輝が遠藤に対応せざるを得ない状況を作り出しました。この時点で鹿島はG大阪がピッチの横幅68メートルを最終ライン3枚で守らないといけない状況を、同時に作り出すことに成功しています。

シーン(3)は、鹿島がG大阪の右サイドバック米倉 恒貴を外に引き出し、両センターバックを右にスライドさせてボールサイドにG大阪の最終ラインをおびき寄せています。そこから反対サイドの右サイドハーフは局面を打開するサイドチェンジのパスを引き出すためにワイドにポジショニングを取っています。そして鹿島は左サイドから右サイドへ、大胆なサイドチェンジのパスを通し、左サイドの藤春にその対応をさせることで、センターバックとの距離を広げてゴール前中央という一番危険なスペースに誰もいないという状況を作り出しています。この鹿島の左右への揺さぶりは見事でした。

■川崎F対G大阪、大久保 嘉人のゴール

最後にピックアップしたのは2015年10月4日に行われた明治安田生命J1リーグ 2ndステージ 第13節 川崎フロンターレvsガンバ大阪。大久保 嘉人による先制点の場面です。このゴールシーンはまさに、『パスとポジショニングで動かす』お手本のようなプレーと言えるでしょう。

川崎Fの杉本 健勇がG大阪の右サイドバック米倉を前に引き出し、米倉のポジショニングを狂わせ、そのあと左サイドで高い位置を取った中野 嘉大に、エウシーニョがアウトサイドの縦パスを通します。このパスが緩いとG大阪の右サイドハーフにパスをカットされてしまいますが、パスの質が高いことと中野のボールを受けるポジションが良かったことで、サイドハーフを一瞬にして置き去りにできました。そしてエリア内に侵入した中野が米倉を突破できたのも、先ほど言及しました杉本の米倉を引き出す動きが結果的に米倉の中野への対応を遅らせたことが遠因となっています。中野のドリブル突破を右サイドバックの米倉に対応させることでセンターバックとの距離を広げて、G大阪の最終ラインを動かし、大久保の先制点へとつなげました。

“効果的なポジショニング”“、効果的(速くて正確)なパス”、そして“効果的な動き”。それら3つの要素が一度に絡み合ったことで生まれた素晴らしいゴールでした。

サッカーの醍醐味であるゴールを奪うためには、『相手を動かし、最終ラインを動かす』ことが必要で、『パスとポジショニングで最終ラインを動かすプレー』が効果的な方法論の一つであることは分かっていただけたかと思います。

「サイドバックが対応している」という状況は、すなわち必ずセンターか逆のサイドにスペースが生まれることに繋がります。逆に言えば、サイドから攻撃をしていても相手サイドハーフが対応し、サイドバックが対応していない場合は、最終ラインを動かしている状況ではないでしょう。

今後、スタジアムやテレビ中継問わず、相手(特に最終ライン)を動かしているか? 揺さぶっているか? という視点でJリーグを観戦してみると、また今までとは違った世界が見えるかもしれません。

次回は『選手の動きで動かす』プレーについて解説いたします。次回もよろしくお願いいたします。

(#2へ続く)

スカパー!では、リーグ戦全試合のハイライトを試合当日夜に放送する「Jリーグマッチデーハイライト」やチームの戦術論や個の技術論など、様々な角度からJリーグの試合を分析する「Jリーグラボ」を放送! 詳しくはスカパー!公式サイトにてご確認いただけます。

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