足りないのは、お金より、ビジョン――。そう思えて仕方がありません。すでにJ2への降格が決まっている清水エスパルスのことです。昨日(19日)、今季途中から指揮を執っていた田坂 和昭監督の辞任と、原 靖強化部長の12月14日付けでの辞任が発表されました。来季は文字どおり、ゼロからの出発になるでしょうか。来月15日付けで現育成部長の伊達 倫央氏が強化育成兼強化部長に就任するそうです。いったい、エスパルスの「あした」は、どうなるのでしょうか?
現在、J1で不動の地位を築く強豪の中にも「降格」を味わっているクラブは少なくありません。サンフレッチェ広島は2002年と2007年、浦和レッズは1999年、FC東京は2010年、ガンバ大阪は2012年に、それぞれ降格しています。そして、広島と浦和は「昇格」から数年後、クラブ史上初のリーグ制覇を成し遂げ、G大阪は昇格1年目にクラブ史上初の「三冠」を達成しました。捲土重来、災い転じて福――という見本が、いくつもあるわけです。
そうかと言って、クラブの責任者が「1年でJ1にUターン」などと軽々しく口にすると、いったい、何を根拠に? と思わず突っ込みを入れたくなります。先立つもの(お金)がある、というなら話は別ですが……。いや「ある」というなら、なぜ、それを今季に向けて使わなかったのですか? という、いじわるの一つも言いたくなりますね。仮に来季、資金の調達がうまくいき、首尾よく昇格にこぎ着けたとしても、肝心のJ1復帰1年目にお金が回らなくなったら、どうしますか?
「金の切れ目が縁の切れ目」と言いますが、プロのサッカークラブが「金の切れ目が強さの切れ目」じゃあ、困りますね。そうして転落していったクラブは海外に少なくありません。ドイツ・ブンデスリーガの強豪ドルトムントも大型補強による「浪費」が続き、深刻な事態に見舞われた時期がありました。そこから見事に立て直したプロセスが、多くのJクラブにとって、来季の清水にとって、とても参考になるような気がします。冒頭で触れた『お金よりビジョン』というヤツですね。
クラブのCEO(最高経営責任者)となったヨアヒム・バツケ氏は、明快なビジョンを打ちだし、クラブの新たなブランドを確立しました。興味深いのは現場の人間たちの「理想」ではなく、クラブを支える地域の人々の「共感」を探るところから出発したことです。ルール地方に多い労働者階級の人々の気質(質実剛健)に着目し、それを哲学、理念に据えたといいます。徹頭徹尾、ハードワークを貫くドルトムントのスタイルが、その証ですね。
再建の立役者となったユルゲン・クロップ前監督は、就任会見で「フルスロットルのフットボールをお見せします」と宣言しました。クラブの哲学を「形」にするのに最適の指導者でしたね。同時に理念にそぐわぬスターやベテランを放出し、若者の「育成」と「活用」に力を注いたことも見逃せません。下部組織育ちの若者を積極的に起用すれば、ファン・サポーターの支持や共感も得やすいでしょう。こうしてクラブの哲学がスパイクを履いたようなチームが生まれたわけです。
思えば、今季の清水も大榎 克己前監督が采配をふるった期間、若手の起用が目に付きました。結果は出ませんでしたが、この苦い経験は財産でしょう。まさしく『あしたのエスパルス』を担うのは彼らですから。サッカーどころ、清水の人々がエスパルスに求めているものは何なのか――。明日とは言わず、ぜひとも今日から考えに考え抜いていただきたいものです。責任ある立場の方々に。それを次期監督に丸投げじゃあ、ダメですね。指揮官の切れ目も、強さの切れ目ですから。
新生エスパルスの哲学とは何ですか?