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コラム

青山 知雄の悠々J適

2015/10/8 16:35

“U-22日本代表”戦完勝の舞台裏 そこにあった町田と李の意地とプライド(♯25)


絶対に負けられない戦い。いや、絶対に勝たなければならない試合だった。そこにFC町田ゼルビアと李 漢宰の意地を見た。

リーグ戦が終盤を迎え、明治安田生命J1リーグでは2ndステージ優勝やチャンピオンシップ出場権争い、残留争いが盛り上がり、同J2リーグではJ1自動昇格やプレーオフ出場権争いが佳境を迎えている。

そんななか、同J3リーグも白熱の様相を呈している。2位に着ける町田は9月23日の第30節でJリーグ・アンダー22選抜(J-22)と対戦。その前節に首位レノファ山口との直接対決に敗れて勝点差を9に広げられた町田だったが、試合前にライバル敗戦の報が届いており、是が非でも勝点3が欲しい状況でキックオフを迎えた。

絶対勝たなくてはいけない一戦で町田と李の意地を見た
絶対勝たなくてはいけない一戦で町田と李の意地を見た

まず大前提を確認しておこう。J3リーグの1位は、J2の22位に代わってJ2へ自動昇格し、2位がJ2の21位と「J2・J3入れ替え戦」に臨む(Jリーグのクラブライセンス制度でJ2ライセンスを持っていることが前提条件)。2013シーズンに初参戦したJ2で最下位に終わり、JFL降格を味わっていた町田にとっては、2年目のJ3を勝ち抜いてJ2へ復帰することが今シーズンの大目標。まずは自動昇格を目指して首位山口を射程圏内に入れるために勝利が不可欠だった。

そこで迎え撃った相手がJ-22。しかもこの日のJ-22は来年1月のリオデジャネイロ オリンピック アジア最終予選に向けたテストマッチとして、J1クラブからU-22世代の主力選手を多数招集。ほぼ「U-22日本代表」として町田に乗り込んできた。また同代表の手倉森 誠監督がコーチとしてベンチに入りし、実質的な監督として指揮を執ることにもなっていた。

町田市立陸上競技場には6000人近い観衆が集まり、サッカーメディアも多数訪問。日本サッカー協会の霜田 正浩技術委員長も会場へ足を運ぶなど、J-22への注目度は高まっていた。正直に言えば、私自身もJ-22を軸に試合を見に行っていた。

何としても勝利が必要な町田にとっては、想定外のタイミングで“難敵”を迎え入れることになってしまったわけで、戦前には町田の劣勢が予想されていた。

ところが、その予想はいい意味で裏切られた。取材ノートにこんなメモがある。
「~5分 町田は球際の強さ、こぼれ球への反応良。テストには素晴らしい相手」

序盤から激しいプレスを仕掛け、最終ラインから前線までをコンパクトに整えて相手に自由を作らせない。セカンドボールへの反応も良く、素早い攻守の切り替えにも目を見張るものがあった。スコアレスのまま前半を折り返すと、試合を終始優勢に進めた町田は72分、鈴木 崇文の左CKから身長191センチの戸島 章が打点の高いヘディングを叩き込んで先制。その後も集中を切らさず、自分たちの持ち味を存分に発揮して“U-22日本代表”から完封勝利を収めた。

試合の流れを簡単にまとめれば、200文字程度のマッチレポートになる。

では、なぜ町田は“U-22日本代表”に完勝できたのか。試合後、中盤で獅子奮迅の活躍を見せたMF李 漢宰を直撃した。その裏側にはJ-22戦に向けた周到な用意と確固たる決意があった。

「90分を通してどっちの想いが強かったのか。それが試合に影響したんじゃないかと思います。練習試合として挑んだJ-22と、J2に昇格しなければいけない強い気持ちで戦った自分たちとの差。勝ったから言えるのかもしれないですけど、サッカーは技術だけでやるものじゃないですし、ピッチに立てばJ1でもJ2でも変わらない。いろいろなものが噛み合って初めて試合に勝てると思っています」

浅野の飛び出すスペースをケアするなど戦術面なアプローチも勝因に
浅野の飛び出すスペースをケアするなど戦術面なアプローチも勝因に

J2昇格を懸けて戦う町田の選手にとっては、文字どおりサッカー人生を左右する一戦になった可能性があった。結果に対するこだわりが強く出るのは当然だろう。J1でプレーする選手ばかりで構成され、先を見越したテストの意味合いが強かったJ-22に対して、試合への意識に違いが生じていた。

「うまい選手がそろっているけれど、(試合には)緩く入ってくるだろう」と考えた李は、そこを逆手に取った。

「相手のモチベーションを考えると、『怪我をしたくない』という感覚で来ると思っていたし、ファーストインパクトで多少強く当たれば嫌がるだろうなと。それで最初は意識的に相手のボランチに厳しく行きました。後半にもフリーでボールを持って前を向かせなくないと考えていた中島 翔哉選手(FC東京)に対しても激しく寄せましたし、相手が嫌がるようなプレーをすることでチームの重心を後ろへ引かせようとしたんです。戦術の部分だけじゃなく、メンタル面についても試合前からチームメートと話をしていましたし、プランどおりに相手をイライラさせることができた。狙いどおりの展開になったんじゃないかと思いますね」

J1やJ2のクラブで紅白戦を行う際、いわゆる“サブ組”が勝利するケースは決して珍しくない。それどころか、あるチームではシーズンを通じて大半の紅白戦でレギュラー組が負けていたという話を聞いたこともある。ポジション奪取を狙うサブ組にとっては、紅白戦でレギュラー組相手に結果を残さなければならないと必死になるわけだ。そう考えれば、J2昇格を目指して一戦必勝で臨んだ町田と、テストの意味合いが強かったJ-22の間に大きな差が生まれたのは必然だったのかもしれない。

北朝鮮代表としてワールドカップ予選に出場した経験を持つ李だけでなく、町田にはJ1を経験した選手が少なくない。その一方で、J3から上を目指していこうとする選手も多い。李が「そんな簡単には負けないよという気持ちもあった」と振り返るように、彼らが胸に秘めたプライドとハングリーさを前面に押し出しての勝利だった。

もちろん快勝の理由はメンタル面だけではない。相手の持ち味を消すサッカーもハマった。山口戦からの連戦による疲労も考慮し、相馬 直樹監督は最終ラインを普段よりも低い位置に設定。引いた中から効果的なカウンターを仕掛けるだけでなく、同時に浅野 拓磨(サンフレッチェ広島)のスピードと裏への飛び出しをケアし、ボランチに厳しく当たることで逃げるような横パスを増やさせた。これでパスの配給元を断ち切り、J-22に良さを発揮させないことに成功。ピンチらしいピンチは前半終了間際に一度左サイドをえぐられた程度だった。選手たちは試合後、口々に「(J-22に)怖さはなかった」と語っていたが、J3最少失点を誇る堅守は、“U-22日本代表”相手にも十分に機能した。メンタル面だけでなく、戦術的にもしっかりと練られた上での勝利だったことを加えておきたい。

J-22戦での勝利をどう生かすのか。今後の町田に注目だ
J-22戦での勝利をどう生かすのか。今後の町田に注目だ

李は続ける。
「僕らにとっては、ここでJ-22と対戦できたことがプラスに働いたと思います。試合前には『何でここで当ててくるんだ』という想いもありましたよ。今後の日本サッカー界を背負って立つような選手たちばかりですから。ただ燃えるものをチーム全体で出せたし、こちらとしては勢いが出る試合になった。逆にJ-22の選手たちに感謝しなくてはいけないかもしれないですね。あとはこの勝利をどう生かしていくか。うちは昨シーズンもそうですけど、大事な試合で勝った後にチョンボすることが多い。今日の勝利は次に勝って初めて意味が出る。僕たちは一喜一憂できる状況ではないので、次を見据えていい準備をしっかりしていきたい」

J-22戦の完勝から4日後の9月27日、第31節にアウェイで藤枝MYFCと対戦した町田は、序盤に先制を許す難しい展開から2-1で逆転勝利を収めた。まずはひとつ目のハードルを越えた形だ。第32節はクラブ数の関係で試合がなく、10月5日時点で首位山口との勝点差は9。山口よりも消化試合数が1試合少ない町田のリーグ戦は残り7試合となった。

連戦を終えてしっかりと休養を取り、トレーニングに励んだチームは、10月11日のカターレ富山戦から再びJ2を目指した戦いをスタートさせる。逆転での自動昇格を視野に入れながら、目の前のゲームで勝点を積み上げていくだけ――。チームにとっては想像以上に大きな勝利になったことだろう。先のJ-22戦で得た気持ち、それは勝負に対する原点だったのだと思う。勝つためにできることはすべてやる。着実に、そして一歩ずつ。そんな町田の今後に注目している。

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