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コラム

北條 聡の一字休戦

2015/10/7 16:52

とにかく明るい中村の「安心してください。空いていますよ!」(♯25)

空いていないように見えて、空いている――。対戦相手の先発リストを見て、すぐにピンと来たそうです。お宝(スペース)の在り処が手に取るように読めたと。とにかく(戦術に)明るい安村――いや、中村らしいエピソードでしょうか。先週末の、秋晴れの等々力陸上競技場 。王者のガンバ大阪を5-3というハイスコアで破った川崎フロンターレの勝利のシナリオは、ほぼ中村 憲剛選手の読みどおりでした。もっとも、3失点まで「織り込み済み」だったかどうかは別にして……。

改めて状況を整理すると、こうなります。川崎Fの布陣は3-4-3、一方のG大阪は中盤の並びを「ひし形」にした4-4-2。そこから生じる配置のギャップから、狙い目が一点に絞り込めたと言います。いわく「うちの両アウトサイドが必ず空く。そこをどう生かすか」だと。図版を使えると分かりやすいのですが、活字ということで少々、回りくどい説明になることをご了承ください。ともかく、なぜ、アウトサイドが「空く」ことになるんでしょうか、理由はこうです。

G大阪を打ち破った川崎Fの勝利のシナリオは、ほとんど中村の読みどおりだった
G大阪を打ち破った川崎Fの勝利のシナリオは、ほとんど中村の読みどおりだった

G大阪は前から圧力(プレス)をかけて川崎Fのパスワークを寸断する狙いでした。遠藤 保仁選手がトップ下にポジションを上げ、阿部 浩之、大森 晃太郎の両選手がインサイドへ。まず『2トップ+遠藤』が3バックを捕まえ、さらに『阿部+大森』が2人のボランチを追い回す5対5の図式になれば、中央のゾーンで川崎Fの選手が余ることはありません。その代わりに、タッチライン沿いに大きく張り出す2人のアウトサイド(中野 嘉大、エウシーニョの両選手)がフリーでした。

安心してください。空いていますよ!

というわけで(?)この日、左アウトサイドに入った若い中野選手にボールが集まりました。パスをもらって楽に前を向き、自分のリズムで仕掛ける余裕が生まれた一因でしょう。いったい、G大阪のサイドバックは何をしていたのでしょうか。サボってなんかいませんよ。原則、川崎Fの3トップを担う小林 悠選手と杉本 健勇選手の両翼を見張っていました。だから、川崎Fの両アウトサイドが常に「空いていた」のです。試合前、中村選手はこの状況を一瞬で読み切ったわけですね。

フリーでボールを受けられた中野は余裕を持った仕掛け見せた
フリーでボールを受けられた中野は余裕を持った仕掛け見せた

じゃあ、G大阪の選手はどこで「余っていた」のでしょうか。まず、最終ラインの4人が川崎Fの3トップに対応し、危険なゴール前で4対3の数的優位を確保するところまでは定石どおり。ただ、4人のバックスの手前にもう1人、アンカーの今野 泰幸選手がいました。これで5対3。仮に川崎Fが中央のゾーンにおけるパス交換に固執していたら、G大阪の術中にはまっていたかもしれません。しかし、素直にアウトサイドを活用したことで、常に攻撃の局面で先手を取れたわけです。

G大阪に事態を好転させる手もありました。例えば、アンカーの今野選手と2人のセンターバックで川崎Fの3トップに対応し、両サイドバックが厄介なアウトサイドをマークする。後ろを3対3の同数で守れば、カバーリングが効かないリスクはありますが、川崎Fにフリーの選手を作らせません。結局、同数で守るリスクを避けた代わりに、2人のアウトサイドを自由にしてしまう別のリスクに直面した格好でしょうか。言わば「リスク回避のリスク」ですね。

鮮烈なミドルで奪った2点目は、中村の深い洞察力の成せる業だった
鮮烈なミドルで奪った2点目は、中村の深い洞察力の成せる業だった

ちなみに、昨年のブラジル・ワールドカップ初戦で日本代表がコートジボワールに屈したパターンもコレでした。機に臨み、変に応ずる難しさでしょうか。その点、中村選手は鮮烈なミドルを放った2点目を「いつもならパス。ただ同点に追いつかれて嫌なムードだったから迷わず打った」と話しています。深い洞察力の成せる業。やはり、見えないところ(頭の中)がポイントなんですね。今月31日に35歳。それでも、安心してください。まだまだ、やりますよ!

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