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コラム

北條 聡の一字休戦

2015/5/19 12:25

「おいしいミス」は手前よりも『奥』がいい(♯12)

どうやら「おいしいミス」というものがあるようですね――サッカーには。ただの失敗かと思ったら、なぜか「おいしい話」が一つ、二つと絡み付いている不思議。それも繰り返しやることで効果が上がるとなれば、ますます意味不明ということになるでしょうか。先日、ヨーロッパのUEFAチャンピオンズリーグ準決勝第2レグをテレビで観ていたら、なに食わぬ顔でこの「おいしいミス」を連発している御仁がおりました。ユベントス(イタリア)の司令塔アンドレア・ピルロです。

手前よりも奥がいい――とはピルロの「主張」です(いや、言ってませんが)。とにかく、奥ばっかり突くのです。縦パスで。しかも、なかなか味方に通りません。パスミスの連続。さすがのマエストロも寄る年波には勝てぬということかと納得しかけたところで、ちょっと待てよと。もしかしてだけど……もしかしてだけど……どいつも、こいつも、意図的なんじゃないの? そんな問いかけに「そういうことだろ、ジャン!」と返してくれそうな人を思い出したのです。ジーコさんを。

ジーコ元日本代表監督もDFラインの「奥」を突く戦術を用いていた。
ジーコ元日本代表監督もDFラインの「奥」を突く戦術を用いていた。

あれは2003年4月のことでした。当時、日本代表を率いていたジーコ監督からソウルで開催される韓国戦に向けて、こんな話を聞かされたのです。監督いわく「韓国は立ち上がりからガンガン、前から圧力をかけてくるはずだ。そこで無理をしてパスをつなごうとしたら、相手の思うツボ。だから序盤は意図的に最終ラインの裏へボールを蹴って背走させること。それを繰り返せば、相手は背後を警戒してラインを下げてくる。すると、前と後ろの間隔が開いてきて中盤にスペースが生まれる。それから、じっくりパスをつなげばいい」と。整理すると、以下のとおりでしょうか。

1・とにかく、最終ラインの裏(奥)へボールを蹴る。
2・味方に通れば儲けもの。通らなくても相手は背後を警戒し、ラインを上げにくくなる。
3・相手のラインが下がれば、中盤にスペースが生まれて、パスが回りやすくなる。

上記の「1→2→3」の順で、こちらに有利な戦況へと傾くというわけですね。パスが通らなくても、ちゃんと利得が見込める仕組みになっていると。ピルロは攻めの手を強めるレアルに対し、何とか敵陣へ押し返す手立てとして、この「おいしいミス」を繰り返していたのです。自陣で守る時間帯が長かった印象がある割に、ユベントスのポゼッション率は48%でした。1試合の半分はレアルからボールを取り上げて、失点のリスクを小さくしていたわけです。

青山とホットラインを形成する佐藤(写真)はその道のエキスパートだ。
青山とホットラインを形成する佐藤(写真)はその道のエキスパートだ。

実のところ、この「おいしいミス」を秘かに期待しているのです。ACL(アジアチャンピオンズリーグ)の決勝トーナメント1回戦に臨むガンバ大阪と柏レイソルに。G大阪の相手はFCソウル、柏の相手は水原三星。いずれも韓国(Kリーグ)勢ですね。やはりホーム戦では前からガンガン来るんでしょうか。仮に前半は失点のリスクを嫌って手堅く守っても、後半は積極的に圧力をかけてくるような気がします。ちなみに水原三星は浦和レッズを迎えたグループステージのホーム戦で、この手を使っていましたね。FCソウルも後半勝負が狙いでしょうか。

ともかく押し込まれる展開になれば「おいしいミス」の出番かと。なお使用上の注意が必要です。ただ奥を突けばいいというわけじゃありません。縦パスが相手GKへ一直線では、苦し紛れのクリアと同じでしょう。相手DFに足を使わせ、処理を誤れば命取りという危機感を植えつける「脅し」のテクが問われます。オフサイドラインをかいくぐる「裏抜け」の愛好家と、その鼻先へピンポイントのパスを落とす技術者がいれば、申し分ありませんね。

G大阪のエース宇佐美にはACLでの活躍も期待される。
G大阪のエース宇佐美にはACLでの活躍も期待される。

サンフレッチェ広島の『佐藤 寿人&青山 敏弘』の両選手はこの道のエキスパートでしょう。もちろん、G大阪も柏も名人ぞろい。前者は宇佐美 貴史&遠藤 保仁、後者は工藤 壮人&茨田 陽生の両選手がやってくれそうです。近年はパスの受け手に「足元派」も少なくないですが、宇佐美、工藤の両選手は「手前でポスト」「奥へラン」のどちらでもイケますからね。あとはマエストロ(遠藤、茨田)次第です。計略的な『奥の細道』(おいしいミス)をたどった先に、アジアの8強が待っている――いつもの妄想癖が、一向に止まりません。

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