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コラム

北條 聡の一字休戦

2015/4/29 18:00

ジェフ対ジュビロ 風車を回した共犯者(♯9)

敵と味方でありながら、実は紛うことなき共犯者――。

好勝負が成立する条件でしょうか。対立関係であると同時に共犯関係でもある二重構造がゲームの転がる先を面白くするのかもしれません。ここで言う共犯関係とは、どこか『風車の理論』に通じるような。風が強くなればなるほど風車はよく回る――転じて、相手の力を十全に引き出し、その上をゆく力をもって相手をねじ伏せれば、自分ばかりか相手も輝かせることができるという、アントニオ猪木さんのプロレス論ですが。

互いのストロングポイントをがっちり受け止めての真っ向勝負。
互いのストロングポイントをがっちり受け止めての真っ向勝負。

真剣勝負では絵空事? いやいや、先週末のフクアリ(フクダ電子アリーナ)では「風車」がよく回っておりました。ジェフ千葉とジュビロ磐田の一戦です。互いのストロングポイントをがっちり受け止めての真っ向勝負。乗るか反るか、やるかやられるか――。双方の熱気と殺気がピッチ上で激しく交錯する90分は、あっという間でした。スコアは2-0、勝者は磐田でしたが、敗者の千葉も十分に輝いていたところに、この試合の値打ちがあるんじゃないかと思ったわけです。

「今日はボールに対する考え方、行き切るとか決断するということが非常に強く出たと思います。それは千葉という強い相手だから、というのもちょっとおかしな言い方ですが、(自分たちの力を)引き出してくれたのではないかと思います」

試合後、磐田の名波浩監督がそう語っておりました。風車がよく回ったのも、互いの力を引き出し合う共犯関係があったからこそ、というわけですね。自分たちのやりたいことをやり、相手にやりたいことをさせないのが勝負事の理想なら、磐田も千葉も、その両面に全力を注いでおりました。球を持ったら渡さない、球を失ったら持たせない――。攻と守の転換がめまぐるしく、球際の争いも実に激しいものでした。息つく暇がないので、時間が過ぎるのも早かったわけですね。

千葉と磐田の熱気と殺気がピッチ上で激しく交錯する90分。
千葉と磐田の熱気と殺気がピッチ上で激しく交錯する90分。

先に失点し、追う展開となった千葉にすれば、前半は失点回避を優先し、用心深くラインを下げ、カウンターアタックから勝機を探る慎重策も選択できたかもしれません。そうなれば、磐田も千葉の逆襲を警戒し、リスクを避ける消極的なパスワークに終始した可能性もあります。互いが「負けないため」「勝つためだけ」の戦いをよしとすれば、そうしたシナリオ(筋書き)もあったでしょう。しかし、磐田も千葉も必要な「何か」のために、そうしなかったと言えるのかも知れません。

必要な何かとは、自分たちの現在地と今後の進路を指し示す「羅針盤」でしょうか。互いの武器を正面からぶつけ合うことで初めて、何が足りていて、何が足りていないのか、そこがクリア(鮮明)になるわけです。一例を挙げれば、磐田のパスワークと千葉のプレッシングでしょうか。パスワークの性能を向上させる最良の方法は敵の苛烈なプレッシングを浴びることであり、逆にプレッシングの質を高めるには相手の卓越したパスワークにさらされるのが一番の近道ですからね。

磐田は発展途上のパスワークを磨き、千葉は生命線のプレッシングを極める。
磐田は発展途上のパスワークを磨き、千葉は生命線のプレッシングを極める。

この先、磐田は発展途上のパスワークを磨き、千葉は生命線のプレッシングを極める上で、互いの存在が格好の試金石になる――。そうした思惑が共犯関係の根っこにあったのかもしれません。いずれにしても、戦力面で拮抗する2チームが確信犯的に風車を回した結果、勝敗とは別に極めて確度の高い「収穫と課題」を手にしたわけです。恐れることなく真剣を交えた経験は昇格争いをする上で、大きな意味を持つことになるんじゃないでしょうか。

風車がよく回ったのも、互いの力を引き出し合う共犯関係があったからこそ。
風車がよく回ったのも、互いの力を引き出し合う共犯関係があったからこそ。

もっとも、戦力格差の大きい強者と弱者の争いなら、真っ向勝負が弱者に利得をもたらす道理はないですね。むしろ、強者の風に抗わず、受け流し、前のめりになったところを逆手に取って、逆襲に転じる方がジャイアントキリングの予感は高まるでしょう。例の『風車の理論』の真意とは本来、こちらにあったりするわけですが。こちらの風車も、あちらの風車も、くるくる回る――。連戦が続くGW(ゴールデン・ウィーク)に、吹けよ風、呼べよ嵐!

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