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コラム

北條 聡の一字休戦

2015/3/31 13:28

「空気」が教えるジュビロ、復活の序曲(♯5)

空気が、一変しておりました。

ジュビロ磐田のことです。先週、ヤマハの練習場を訪れた際、ちょっとした変化に気づきました。練習中の空気が実にポジティブなものに変わっていたのです。名波浩監督に率直な感想をぶつけてみたところ「わかる?」との返答が。開幕からの戦績は3勝1敗。好調だから空気がいいのか、空気がいいから好調なのか――。二つの見解は「原因と結果」が正反対ですが、今季の磐田はどうやら後者のようです。クラブ内の良好な空気が好調につながっているんじゃないかと。

大分との接戦を制し喜び合う磐田の選手たち
大分との接戦を制し喜び合う磐田の選手たち

先にお断りしておくと――和気あいあい、じゃありません。ミニゲームなんかにおける球際の争いは、とても激しいものです。険悪な空気が流れるチームの場合、激しさよりも荒々しさが前面に出てしまい「削りあい」になっちゃいますが。タフとラフを取り違えてはいけませんね。選手たちのタフな争いを眺めながら、ふと昔の光景を思い出していました。黄金時代の磐田の練習を。

とにかく「厳しい」の一言でしょう。味方に対する要求が。一切の妥協がありません。グラウンドに先輩たちの怒号が飛び交い、年長だった中山雅史さんへの注文にも容赦がありません。ミスを叱責される若手が気の毒に感じるほどでした。まるで実戦さながらの緊迫感。たかがミニゲーム、されどミニゲームといった趣で……。今季、磐田の下部組織(U-18)のコーチに就任した川口信男さんは「公式戦の方がよっぽど楽でしたね」と当時を振り返っています。見ているこちらが怖くなるほどのタフさ、厳しさが、常勝ジュビロの「日常」に深く根を下ろしていました。

現在の磐田に当時の「激しさ」がよみがえりつつあります。そして練習中、一人の選手に目が留まりました。昨季のオフ、ベガルタ仙台の契約更新の申し出に断りを入れ、古巣にカムバックした太田吉彰選手です。思えば、磐田の黄金時代において、日々のトレーニングに懸命に食らいついていった若手の一人ですね。紅白戦で先輩たちの罵声を浴びながらも、臆せず、腐らず、Aチーム(主力組)に遠慮のないファイトを仕掛ける姿が印象深い選手でした。

磐田の黄金時代を知る太田吉彰が古巣へ復帰
磐田の黄金時代を知る太田吉彰が古巣へ復帰

常勝磐田のDNA(遺伝子)が脈打つ男――そう思わずにはいられません。黄金期のジュビロには華麗、典雅なイメージが絡みついていますが、名波監督は現役時代、ことあるごとにジュビロの強みをこう話していました。ドゥンガ魂、中山魂――。現役セレソン(ブラジル代表)のキャプテンだったドゥンガと中山雅史選手の「魂」こそ、磐田の誇りであると。ボールに、ゴールに、勝利にどこまでも執着する激しさ、泥臭さ。近年の磐田が失っていたのは「そこ」でしょうか。

太田選手に期待するものは何か――。名波監督は数ある理由のうちの一つに「感染力」を挙げています。疲労のピークにあってもなお、歯を食いしばって球を追う姿を目にして、味方が奮い立たないわけがないと。第2節の京都戦における「がむしゃラン」なんか凄かったですね。猪突猛進。相手にまっすぐ向かっていく分、あっさりかわされてしまうケースも多いのですが……そこから急旋回して再び追いかけるタフネスはどこから来るんでしょうか。背番号は栄光の9。実力、知名度、スケールの大きさは違っても、先代(中山さん)に迫るガッツがひと際、輝いて見えます。

常勝磐田の再建を託された名波浩監督
常勝磐田の再建を託された名波浩監督

先週末、磐田はホームで大分トリニータに競り勝ちました。1-1で迎えたゲーム終盤の勝負所で小林祐希選手が値千金の決勝FKをねじ込んでいます。敗れたとはいえ、体を張った大分のファイトも素晴らしいものでした。勝負を分けたのは何だったのか。名波監督は「我々の方が『勝ちたいという気持ち』で上回っていた」と。科学的な説明ではなく、あえて文学的な言い回しで勝因を語ったのも手ごたえの証でしょう。少しずつ、だが確実に黄金期のDNAが脈打ちはじめていると。練習場で感じた「懐かしい空気」は、吉兆と言っていいかもしれませんね。最後に誰よりもポジティブな空気をかもし出す指揮官のうれしい悲鳴を。

毎日、楽しいね。やりたいことが山ほどある。1日24時間じゃ足りないよ――。

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