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2015/12/6(日)11:10

大舞台で示した逞しき『広島力』【広島側レポート:決勝 第2戦】

ファン・サポーターと共に優勝を喜ぶ選手たち。この日の会場には確かに森保監督が言及した「サッカー熱」があった
ファン・サポーターと共に優勝を喜ぶ選手たち。この日の会場には確かに森保監督が言及した「サッカー熱」があった

90分、森保 一監督とグッと抱擁をかわした後、水本 裕貴がピッチに入った。湧き上がる3万6000人を超える大歓声。サポーターは、11月7日のG大阪戦で左眼窩底骨折の重傷を負いながら、必死のリハビリと治療を積み重ねて再び戦いの舞台に戻ってきた背番号4の勇気の大きさを知っている。強さを知っている。賢さや頼もしさも知っている。

G大阪は放り込む。昨年、Jリーグヤマザキナビスコカップ決勝で強烈な破壊力で広島を粉砕したパトリックに向けて、ひたすらボールを集めた。強靱な肉体でゴール前に脅威を与えるG大阪の重戦車。だが、水本をはじめとして、すべての紫戦士が力強く跳ね返す。集中も途切れない。G大阪のアタッカーたちよりも速く、強く。絶対にやらせないという気迫は、明白にG大阪を上回った。

アディショナルタイムは4分。もう、G大阪は前に出るだけ。その圧力をかいくぐって、浅野 拓磨が走る。走る。走る。走る。ギリギリになってもボールを前に運ぶ浅野のスピード、推進力は、G大阪にとっての脅威であり、広島にとっての勇気。76分、柏 好文の素晴らしくも美しいクロスをヘッドで叩き込んだ21歳の若者は、チームのために愚直に走った。

90+5分、米倉 恒貴が意地のオーバーヘッドキックを放つ。だが、これまで数々のビッグセーブで広島の危機を救ってきた広島の大魔神・林 卓人の胸の中に収まる。その瞬間、西村 雄一主審の優勝を告げる笛が響く。勝ったのは、団結の紫だった。

超満員、緩衝帯を除いて立錐の余地もなく立ち見のサポーターがズラリと並んだエディオンスタジアム広島の姿は、1994年のJリーグブームの時以来。圧巻と言うしかない紫の大声援と大拍手。数では劣勢ではあるが、精鋭が集まって突き刺すような応援をピッチに送り続ける青黒のサポーター。聖火台にも火が灯り、国歌が流れる。独特な緊迫感が凝縮される。

心が引き裂かれるような空気の中、コイントスに勝利した遠藤 保仁主将は自らのサポーターに向かって攻撃することを選んだ。浦和との準決勝と同じ判断。G大阪はサポーターに向かって攻撃する時に得点確率が高いと、後に教えてもらった。意志はもちろん、「点を取る。勝つ」だろう。

その判断は当たった。G大阪の圧力は凄まじく、効果的にサイドチェンジを織り交ぜ、スペースを次々についてゴール前へと迫る。迫力、知性、技術の高さ、戦術的な確かさ。何よりも闘志。青黒のサポーターの声援に向かって彼らは走り、明確に主導権を握った。27分に今野 泰幸が叩き込んだ先制点は、確かに佐々木 翔の足に当たってはいたが、G大阪の気迫とサポーターの情熱が引き出した必然の先制点だった。

広島は相手の力強さに押され、ラインを上げることができない。アウェイチームのコンパクトな陣形の中で精密なビルドアップができず、ボールをひっかけてしまった。明治安田生命2ndステージ第3節の浦和戦前半を思い出す内容。決定機を創られながらもなんとか0-1で凌いだところも、酷暑の埼玉スタジアムを思い出した。

そしてあの時と同じように、ハーフタイムで森保 一監督は見事に修正する。
「走ること、戦うこと。我々がつかみとるぞ」

公式にリリースされたハーフタイムコメントである。だが、森保監督が「戦う、走る」をハーフタイムに語る時、それは決して静かに語ったわけではないはずだ。浦和戦の時は「優勝したくないのかっ」と厳しい口調で選手たちに激しく迫り、アドレナリンを注入した。この試合でも同様の出来事があったことは、容易に想像できる。

後半、広島の戦い振りは明確に変わった。シンプルに裏を狙いつつ、ラインをしっかりと上げた。G大阪の狙いを予測し、局面で身体を前にグッと入れる守備を取り戻した。ボールを握られている時間が長くとも、危険地帯に迫られる状況はほとんどなくなった。

連戦の疲れから「後半のG大阪のペースが落ちてくる」と青山 敏弘が予測していたとおり、広島のサポーターに向かって走るG大阪の迫力は、前半よりも落ちた。その流れの中で生まれた浅野の同点弾もまた、ある意味では必然。交代出場の若者同士が生み出した優勝へのゴールは、今季の象徴である。

「広島力で勝利した。広島にはこれだけのサッカー文化、サッカー熱があるんだと感じていただけたと思います」
4年で3回の優勝という偉大な記録を樹立した森保 一監督が言及した「広島力」。爆発力は示した。次は今季のサンフレッチェが見せたような「継続力」も見せつけたい。広島の夢は、まだまだ続く。その場所に辿り着くためには、爆発と継続の両輪が何よりも大切。その本質を証明した広島の力強い優勝だった。

[文:中野 和也]

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