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2015/12/3(木)18:25

マエストロの誤算と成算 チャンピオンシップに大激流を呼ぶ【川端 暁彦】

 「勝ちに行った」という森﨑和の果敢なジャッジは、チームとしても共有されていた 
「勝ちに行った」という森﨑和の果敢なジャッジは、チームとしても共有されていた

マエストロの信じがたいミスから、試合は激流に飲み込まれていった。12月2日、万博記念競技場での明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ 決勝第1戦は、確かに途中まではそれほどスコアの動く予感のしないゲームだった。「1点勝負」。「0-0で第2戦に行くのも、まあ悪くはない」。お互いの意思はそういう形で一致しているようにも見えた。

最初の得点が生まれたのは60分のこと。広島のDF佐々木 翔の強めのバックパスに込めたメッセージを「誤読」してしまったMF森﨑 和幸がスルーすると、そこに待っていたのはG大阪のFW長沢 駿。思わぬ形で生まれた先制点は、まさしくミスの産物だった。「シーズン中はあんなミスはほとんどしていなかったと思う」と森﨑 和が表情を曇らせて振り返ったように、むしろあそこでボールを失わないことが広島のストロングポイントですらあった。よりによって、ミスの稀少さから絶対的信頼を置かれるベテランMFの考えられないようなプレーが生まれてしまうのも、チャンピオンシップの舞台の妙と言うべきなのか。

先行逃げ切りを得意とする広島にとっては何とも嫌な展開だったはずだ。攻めに出ざるを得ない流れの中で、80分に一度は追い付きながら、81分にFKの流れから痛恨の失点。再度の勝ち越しを許す流れの中で、森﨑 和は「『ミスの起きるスポーツだから』と自分に言い聞かせていた」。自身も「いい出来ではなかった」と認めるとおり、決してハイパフォーマンスを見せた試合ではなかったのだが、気持ちを落ち着かせながらベテランらしく戦況をうかがい続けていた。

86分にG大阪が退場者を出したことで、また流れが少し変わっていく。まずはFKの流れから佐々木が決めて追い付くと、このあとの時間帯が大きなポイントとなった。「相手はパトリックだけを前に残して、『2-2で終わるのがベスト』という感じになっていた。だから『僕とアオ(青山 敏弘)が後ろに残っていてもしょうがない』という判断をして、前に出た」と森﨑 和は言う。アウェイゴールをふたつ奪ってのドローならば広島にとっても悪い結果ではないのだが、「あそこは勝ちに行った」。

広島の誇るマエストロの果敢なジャッジは、チームとしても共有するところだった。「特に話したわけではないけれど、みんな同じ考えになった」と森﨑 和が言うように、一人で動いたわけではなく、自然と連動した。2-2で終わるのではなく、3点目を奪いに行く。必然、「前から奪いに行く形になった」。

そして90+6分。G大阪の今野 泰幸、これまたJリーグを代表する名手の一瞬の判断ミスを、今度は森﨑 和が見逃さなかった。自陣でのスローインを素早く投じた今野の判断は完璧に読まれていた。「パトリックに投げてくると思っていた」と会心のインターセプトからの攻撃参加。その流れの攻撃は、MF柏 好文の決勝点という形で結実することとなった。

「『取り返してやろう』という気持ちはありましたよ」。クールなMFは、静かな闘志に裏打ちされた冷静さで、試合を決める一仕事をやってみせた。自身の思わぬミスから試合に激流を呼び込んでしまったが、最後の最後で鮮やかに流れを反転させてみせるあたり、さすが広島のマエストロと呼ぶべきか。

川端 暁彦(かわばた・あきひこ)
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』 元編集長で、2013年よりフリーランスに。育成年代からJリーグまで幅広く取材し、古巣を始めとして『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカーダイジェスト』『ゲキサカ』など各種媒体に寄稿している。近著に『Jの新人』(東邦出版)。

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