ストーリーstory
試合前、
たくさんの人であふれるピッチ
2018年12月1日(土)優勝が決まった後のホーム最終戦。新丸子駅から歩く道のりで目に入るのは掲げられたブルーのフラッグ。試合開始は14時。今は朝の8時台だというのにユニフォームを着た人達とすれ違う。この風景を17年前に誰が想像できただろうか。会場に着くと、ボランティア全体ミーティング。なんと、ボランティアユニフォームにもスポンサーがついている。応募数に対して、約半分ぐらいの方が当日の活動に参加出来るらしい。ピッチに目をやると、小学生ぐらいの子供たちが、思いっきりミニゲームをしている。試合前のピッチには誰もいない風景を良く見るが、ここまでたくさんの人が入り乱れているピッチは珍しいのではないだろうか。
ほんの少しの背伸びが
取り組みを支える
ボランティアミーティングに挨拶に来た藁科社長が話してくれた。「職員たちに常日頃伝えているのは、自分たちが動かしているなんて思ってはいけないということ。たくさんの人の力を借りなければ、自分たちだけでは何も出来ないんだから。これだけの人に支えられているという感謝の気持ちを絶対に忘れて欲しくない」
ミーティング後は、それぞれの持ち場に分かれて役割を果たす。障害者の就労体験の場に移動すると、参加者は、もう慣れた手つきで、どんどん椅子・机を拭いていく。この取組みを支えるNPOやボランティアも長年の付き合いになっていて、試行錯誤を繰り返して今の形になったのだという。「我々もだけれども、作業所の付き添いの方もそうだし、川崎市が事務局機能を担ってくださっていて、それぞれがほんの少し背伸びをしながらこの取組みが成り立っている」のだとピープルデザインの田中さんが教えてくれた。
素敵なユーモアがチームの強化に
さて、フロンパークに移動しよう。移動途中に目に入ったのはコレだ。『カブを食べてカブ組織を応援してください』ん?カブ?何でカブ?どうした?と思ったら、「JAセレサ川崎」さんとのコラボ企画。ご協力をいただきながら、U-13の選手たちが、種まきから収穫までを一緒に実施し、今日がその収穫・販売日なのだそう。1株100円…安すぎないか?なんて気持ちはさておき。
練習着のU-13の選手たちが、必死にカブを運んで、並べて、声を出して販売していく。「これが強化費につながるんです!」と言いながら。この日は約8万円の売上だったそう。「1回ぐらい近郊の遠征にいけるね」ってスタッフは笑う。そっか。こういうことをアカデミーの頃から理解していくことが重要なのだ。お金を稼ぐことの大変さ、自分たちがサッカーに取り組めるのはどういうことか、肌身で体感する。ユーモアもあって、なんだか素敵な取り組み。
支援から“自立の伴走”へ
さて。寄り道しながら、次はフロンパークに足を踏み入れる。今日は陸前高田ランドの開催日。これもフロンターレが長年、取り組んでいる東日本大震災復興支援の活動の一つだ。選手が陸前高田を訪れ、活動もするし、陸前高田から川崎にもたくさん人が来て、交流と絆の深さが感じられる。最近は支援から自立の伴走へと少しずつ舵をきっているのだそう。看板にはこう書かれている。「支援はブームじゃない。」そんな難しい顔をしないでも、ファン・サポーターは食べて、結果的に東北に貢献していたりする。
餅まきイベントで、チェアマンが餅を、スーパーGKだったオリバー・カーンさんが“み・カーン”をまいているだけに見えるけど、東北の伝統に触れる機会だったり、復興支援の募金活動もセットなのだ。ハロウィーンの日のイベントだって、思いっきり楽しんでる後ろに、思いっきり泣ける活動があったりする。
後編は長年、川崎フロンターレのGMを務めてきた庄子さん、中村憲剛選手の取材をお届けします。
Jリーグ理事 米田惠美
公益社団法人日本プロサッカーリーグ理事
米田惠美
1984年生まれ。2004年に新日本監査法人に入社。公民様々な業種の監査や経営アドバイザリーを担当し、2006年に慶應義塾大学経済学部卒業。2013年に独立と共に組織開発パートナーである(株)知惠屋を共同設立。米田公認会計事務所所長であるとともに、保育士資格を持ち在宅診療所の立ち上げにも従事。2017年にはJリーグ フェローを経て、2018年4月よりJリーグ理事として、社会連携や組織開発の分野を担う。