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2020Jリーグシャレン!アウォーズ・Jリーグチェアマン特別賞『発達障がい児向けサッカー×ユニバーサルツーリズム/川崎フロンターレ』活動レポート
■チェアマン特別賞 ゴールへ向かってパスを繋ぐ 川崎らしい物語
発達障がい児向け サッカー×ユニバーサルツーリズムの活動はこちらから。
ドキュメンタリー映像はこちらから。
「感覚過敏の疑似体験」VR映像はこちらから。
受賞は、①企業・行政・協力団体に加えて、サポーターとの協働も含まれていた点 ②発達障がいという一見見えにくい困難さを抱えている子どもたちがいることに目を向けたこと ③試合日やスタジアムの活用、企業・行政との関係性、ホーム&アウェイ方式の特質など、Jリーグ・Jクラブが持つ強みを十分に活用したことが評価された。
私がこの取り組みを横で見ていて、「川崎らしいな。」と感じたことはいくつかある。真っ先にあげたいのは選手たちが非常に前向きに関わっていること。活動の意図や背景を事前に学び、理解したうえで、発達障がい児の目線でつくられたVR動画に出演し、ブログでもこの取り組みの発信をする中村憲剛選手。当日の控え選手たちはセンサリールームで交流し、試合翌日は主力選手たちが練習後に子どもたちのサッカー教室に参加する。
もちろん、毎回この対応が出来るわけではないので、クラブは事前に確約はしていないというが、時間とコンディションが許せば、「自分たちが出来る事は何でもするよ」というスタンスがこのアクションに繋がっているのだろう。
次は、「川崎のまちを笑顔に、幸せにする。」というゴールをクラブと共有するサポーターの存在。この活動にも深く関わっている。子どもたちに向けたメッセージの書かれた横断幕づくり。チャント(応援歌)のカードづくり、スタジアムビジョンのひらがな表記の提案。バスを降りるところの出迎えから、センサリールームでの応援、他のサポーターたちへのこの取り組みの告知など、ここまでやるのかとびっくりした。
この企画が実現するためには、多数の協働者はもちろん、クラブ内でもホームタウン、運営、広報、強化、事業、それぞれの担当が連携しないと難しい。関わったスタッフたちに聞くと、連携上の不具合・ストレスはそれなりにあったのだというが、それすらもカバーしあえる阿吽(あうん)の呼吸、根底にあるクラブ哲学には目を見張る。
そして最後。試合日の観戦体験にフォーカスがされがちの取り組みだが、2日目のサッカー体験を担っていたスクールコーチたちの存在を忘れてはいけない。球技が決して得意ではない、どちらかというと苦手という子どもたちも少なくないと聞いていた。その子どもたちがボールを蹴って「すげぇ、できた!」という満面の笑みを繰り出し、それを見ている親御さんが「こんな姿、初めて見ました」と泣き笑いするのを見たとき、この場にいられて心から幸せだと思えた。
少し、保護者からの感想を紹介したい。
前日に夢の舞台である試合を見て、サッカーやってみようかな・・・という気持ちが芽生え、やってみたら出来た!という感覚を持たせてくれたコーチたちに、どんな魔法の言葉があるのか、いつか聞いてみたいと思う。
さて。2日間にわたる壮大な企画に関わった方々はどのような気持ちで取り組んでいたのだろうか。川崎市の成沢重幸さん、JTBの関裕之さん、ANAの堯天麻衣子さん、富士通の田中雄輝さん、発達障がいのお子さんを持ちながら様々な活動をされている橋口亜希子さん、川崎及び大分のサポーターのみなさん、クラブからは三浦拓真さん、そして当時はクラブの主体者であり今はJリーグ社会連携本部の鈴木順さんに話を伺った。少し長くなるがどうかお付き合いいただければと思う。
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連携したからこその受賞
―受賞にあたっての感想をお聞かせください
(JTB:関)弊社が2017年に開催した発達障がいをテーマにした「心のバリアフリー」シンポジウムがきっかけとなり、多様なメンバーの皆様と連携して、それぞれの強み活かしながら、発達障がいのある子ども達やそのご家族の夢の実現のお手伝いができたこと、そして、その取り組みが評価され、「チェアマン特別賞」を受賞できたことは本当に嬉しく思う。
(川崎市:成沢)本市の誇るクラブチーム「川崎フロンターレ」のポテンシャルを活用させていただくことで、見た目にはわかりにくい発達障がいのことについて多くの方に知っていただく機会となった。また参加された方々も笑顔で楽しんでいただけ、なかには今後の行動変革につながった方もいるとお聞きし、大変意義深いものであったと考えている。この受賞は、プロジェクトの内容と協業体制の両方が評価されたものと理解しており、プロジェクトメンバーの一員の本市としても大変嬉しく思う。
(橋口)ふたつの立場から、お礼をいいたい。ひとつは活動者として。受賞が、発達障がいについて発信する・味方が増える機会になると思っている。発達障がいが様々な制度や障がい福祉サービスの対象となったのが約10年前と社会の認知はまだまだ進んでいない。市民権を得たのも1~2年ぐらい。だから、こういう世界が現実のものになるのは夢みたい。
もうひとつは親として。発達障がいの子をお持ちのお母さんたちが、日常生活の中で作り笑いしていることが多いのを知っているから、心から笑顔になっている姿をみられて本当に嬉しかった。色んな人に受け入れられた、居場所ができたと感じられる機会を作ってくださり本当に感謝している。
(ANA:堯天)航空運送の会社の範疇だけではいただけない賞。裏を返せば、Jリーグ・クラブ・サポーター・他社・自治体がみんなで取り組んできたからいただけたものだと思っている。
(富士通:田中)クラブだけではなく、リーグも関心をもって関わってクラブ間の橋渡しなどしてくれていた。チェアマンも当日別の試合に移動しなきゃいけない中でこちらにも足を運んでくれた。感謝の想いでいっぱい。フロンターレが地域に対して取り組んでいる沢山の活動の中で、これをエントリーしてくれたことも。
(フ:三浦)確かに、おフロんた~れ、ブルーサンタ、読書、障がい者の就労体験など候補はいっぱいあったのだけど、2019年ということでは、協働者が多数だったのもあって、まずこれだろうとなった。順さんが主担当で、自分は当日この活動を横から見ていたというか、ハーフタイムにYMCAを踊りながらマスコットをセンサリールームにつれていくようなことをしていただけだけど(笑)。この活動を選んでよかった。
自分は去年からサッカー界にきて。入社2日目にリーグ主催のシャレン!会議に出た。そのときの自分に「この活動がシャレン!のモデルケースだよ。」と言いたい。0→1をつくるのが一番大変。自分は1を大きくしようとしている立場。しっかりやっていきたいし、評価が得られたという意味では、これから加速できると思っている。
(橋口)大企業が入ったから出来るんでしょ、と言われるがそうではないと思っている。今回も、もちろん企業のお力あってのことなんだけど、見えないところで色々動いてくださった方が沢山いる。サポーターもそう。横断幕もすごく悩みながら作ってくださった。
中村選手の存在はすごい。彼が言うだけであっという間に広がる。そういうご自身の立場・存在を認識して発信されてる。選手全員も楽しんでやってくれた。富士通さんの映像制作のスタッフの存在もあった。映像撮る仕事でありながら、子どもたちを守るための動きもしてくれていた。感謝だらけ。
喜怒哀楽を共に
―感動したことをお聞かせください
(橋口)サポーターの存在に感動。当日横断幕づくりの現場にいたけれども、当時の話を海外ですると、ライバルのサポーター同士がとなりでスプレー貸しあって作るなんて、世界でも稀だよとびっくりされる。
(J:鈴木順)サポーターは、やるならここまでやらなきゃだめっていう意見をぶつけてくれる存在。見ている視点が同じというか、むしろ彼らの方が先をみてくれていることも多くて、いつも感謝している。
(ANA:堯天)私はいっぱいある。子どもたち、家族の笑顔が見られたこと。沢山のボランティアを会社から派遣した。社員がどういう風にすれば喜んでいただけるか、自ら考え、行動に変えてくれた。そういう中で社員たちは逆にパワーをもらったと話していた。選手から社員が学ぶ機会をつくれたこと。サポーターが横断幕つくってくれて、そこに飛行機イラストまで描いてくださったのも嬉しい。横断幕が出たその瞬間は見られなかったのだけど、ざわざわしていた空気感が後日見た映像に映っていて感動した。
(富士通:田中)中村憲剛選手が大分戦のあとにブログで長文を書いていたのを見て、あれは泣きそうになった。
(J:鈴木順)初日は運営でいっぱいいっぱいで感情がなかなか出てこなかった。2日目のサッカー教室が、すべての苦労を流してくれた。子どもたちがあれだけ感情を発露できたのは嬉しかった。選手もこの活動の理解をして、取り組んでいたし。お母さんたちも選手を前に興奮が止まらなくなっていたのは微笑ましかった。普段は我慢していることも多いと聞いていたから。
連携プレーに至るまで
―苦労が絶えなかったと聞きました
(富士通:田中)誰がということではなく、大所帯の中で進めるから、各社・各人の思いや風習も違うのもあって、意見が分かれることは当然出てくる。毎週土日が潰れる程大変だった。
(ANA:堯天)関係者が多いと、どうしてもひとつ決めるのに時間がかかる。0のものを1にすることの大変さは非常に感じた。例えば、うちで言えば、ボランティア出しすぎ…とも言われたりしたけど、初めてのことだから、適正値が見出せるまではやってみなければわからない。色々意見はあるけれども、やってみて、それをひとつのサンプルにして、そのあと、振り返ってよりよい方法を考えていく。その繰り返しだと思っている。
(橋口)先例・前例がないことを作り上げることの大変さを私も痛感した。活動を進めていくのが精神的に、本当にきつかった時もある。ただ、水面下ですごく調整してくれたり、取り持ってくれた人がいたりして、その方々に心から感謝したい。
(ANA:堯天)発達障がいのお子様、ご家族が本当にどういう気持ちをもっているか、感じているかを本当の意味で理解するのが難しかった。少しでも困難さを変えたいという一心でやってきたけど、やっぱり理解しきれていなくて、ケアが十分でなかったところも出てしまったのは反省点。
(橋口)でも、2日目に子どもたちが笑顔でサッカーしている姿が見られただけで、すべての苦労がチャラになった感じがした。みなさんが子どもたちのために動いてくれたこと。このプロジェクトに入った人たちがそれぞれの持ち場で「出来る事はないか?」と聞いてくれること。それぞれの立場の人が気づいてくれたこと。全てが嬉しかった。
(J:鈴木順)この取り組みに橋口さんがいたというのは大きい。わからないことがあったときに、分かっている人に聞けるというのはすごくありがたい。一緒に活動出来たことで、発達障がいについて自分たちも少しは理解が進んだと思うが、まだまだ勉強中。これからも継続して学んでいきたい。
(フ:三浦)社内理解。社外調整。サポーターとの対話。現場での急遽の対応。順さん、大変なことはいっぱいあったと思う。
(J:鈴木順)社内調整は周りが言うほど大変とは思っていなくて、時間が解決してくれるという感覚でいた。こういうものは、自分もそうだが体験、経験してないと、頭で全部を理解するのは難しいと思うから。当日までの苦労は皆さんが話してくれた通り。
当日、川崎市の福田市長がスタジアムで話す原稿の中にこの取り組みを入れてもらった。市長が発信したらより多くの人に伝わるから、どうしても入れてほしいと。川崎市はダイバーシティのまちづくりを推進しているから、市長も入れてくださったと思う。感謝しています。
市や企業が掲げてきたことを実行
―ダイバーシティの文脈では、これまでどんな活動をされてきましたか。
(川崎市:成沢)本市は、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を契機として、「かわさきパラムーブメント」を推進中。「人々の意識や社会環境のバリアを取り除き、誰もが社会参加できる環境を創出すること」を理念とし、「誰もが自分らしく暮らし自己実現を目指せる地域づくり」を目指している。
障がいの社会モデルという考え方に基づき、障がいの有無にかかわらず、誰もが自らの個性や想いに応じて参加できる社会、つまりインクルーシブな社会としていくにはどうすればよいか、ということを常に念頭に置きながら取り組むようにしている。
スポーツに関係するものとしては、市内小学校における「パラスポーツやってみるキャラバン」や、近隣小学生による等々力陸上競技場のバリアフリーマップの作成、とどろきアリーナへのカームダウンスペースの設置などの取り組みがある。
(JTB:関)JTBグループは、「Tourism for All」を実現するため、2013年から全社で、年齢や性別、国籍、障がいの有無にかかわらず誰もが安心して旅を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」に精力的に取り組んでいる。「ユニバーサルツーリズム」の取り組みを通じて、多様な人々の交流を創造し、「心のバリアフリー」と「ユニバーサルデザインの街づくり」を推進し、「共生社会」の実現に向けて貢献していきたいと考えてきた。推進するうえでは、国や自治体、企業、学校、当事者(団体)等の皆様と連携していくことが、とても大切だと思う。
(ANA:堯天)搭乗体験など、ダイバーシティの取り組みはもともと多い。移動は人の可能性を広げるということを信じている。今回は、“観戦をする”“体験する”を通じて子どもたちの世界観や可能性を広げたいと思ってやってきた。もともとBtoCの会社なので、お客様に何かしたいという感覚は持っているが、バックオフィスの人間でもそう。ユニバーサルデザインの教育やボランティアにも力を入れていて、このご時世で防護服づくりをするというのは会社の精神によるところが大きいのかもしれない。
目的の共有が超重要
―このような取り組みをするうえで、気を付けたほうがいいことはありますか
(富士通:田中)全体像の整理、ゴール設定が重要。色んな葛藤は途中あったけれども、「共生社会の実現」という思いは一致していたと思っている。あとは、プレーヤーひとりひとりの立場にたつことも大切。
(ANA:堯天)目的・ビジョンの共有。立ち返る場所をつくる。当事者の気持ちを入れる。ひとりよがりにしない。あとは誰が言うかで通る・通らないもあるので役割分担。例えば発信は、選手やサポーターの力が大きい。一体感をつくっていくうえではそういう方々との事前の対話が重要だと思う。
(富士通:田中)あとは、あえて一般論と違うことを言うと、出来る事から小さくやろうというのは個人的には避けたほうがいいと思っている。難しいからこそ、妥協せずに挑戦した方がいい。小粒になりすぎると、だんだんやる意義がわからなくなっていく危険性もある。共感者が増えないのは勿体ない。
(川崎市:成沢)スタジアムの環境や関係者がそれぞれ異なるので一概には言えないが、主役はあくまでもクラブチームや当事者であり、その想いを大切にすることが肝要だと思う。そのうえで、「どうやったら実現できるか」「自治体にしかできない役割は何か」というスタンスで、法令や予算等の様々な制約を工夫によって乗り越え、側面からの支援を心がけることが大切ではないか。その先に、きっと当事者の笑顔が待っている。
(橋口)誰のために、何のためにと言った目的の共有と、その地域にある課題の翻訳者・代弁者の存在は必須。各地域にテーマに対して翻訳する人が必ずいるので、そういう人の声を反映する。当事者たちは、勝手な決めつけで支援されるのは困ると口々に言う。センサリールームという場所があれば足りるわけではない。人がそこにどんな想いを込められるかが大切だと思っている。
センサリールームの先にある目的。ユニバーサルデザインはハードとソフトの両面。観戦の先に地域の一員になれるとか、地域で取りこぼれる人がいないとか、置いてきぼりにされる人がいないことをゴールに置く。
(J:鈴木順)当日も、センサリールームという箱にフォーカスするのではなく、子どもたち・親御さんたちが、楽しんで帰ってもらうことを第一に考えていた。
(富士通:田中)確かに自分もソフトの方の設計に気を遣ってきた。偏見から解放される。自分らしく生きられる。困難さを抱えている人がいることに無関心じゃない世界をつくることが目標だった。「感覚過敏の疑似体験」VR映像の制作に中村憲剛選手や小学生を巻き込んだことも、そういった想いで取り組んでいる。ドキュメンタリー映像も同じ。スタジアムに来れなかったひとにも、この取り組みを知ってもらうことが重要だと思っている。
(橋口)行ける・行けない(移動)は世界が変わること、可能性を広げることそのもの。今回の体験を通じて、子どもたちの世界が広がって、ママたちも世界が広がっていくことが出来たら嬉しい。
まだまだ発展途上
持続可能な活動にするために何が必要?
(ANA:堯天)打ち上げ花火的なのはだめ。共感者を増やすことが大事。社内でもそうだし、参加する企業・自治体・クラブも増やしていきたい。今、この取り組みをしてきた私たちには、自分たちの熱を次に渡していく役割があると思っている。ちょっと興味あるというクラブがあれば、自分たちの言葉で伝えていきたい。
(フ:三浦)クラブ的には、こういった賞ももらえて、メディアにも取りあげられて、ポジティブ。サポーターも巻き込めているので、継続してやってきたい。継続してやっていくために・・・どうするか。体制が重要。受け身ではなく、現場のあるクラブ全体が主体として、例えば事務局のような形でやってかないといけないなあと思っている。
(J:鈴木順)クラブが出すぎても、出なさすぎてもうまくいかないのでバランスが大事。想いファーストで、誰のために、何のためにを常に頭に入れて動ければいいと思う。そこがズレると持続しない。まずは関わる人、仲間集めをしていく。お金はあとからついてくると思っている。
(川崎市:成沢)イングランドのプレミアリーグの一部クラブでは、発達障がいの方のためのセンサリールームでのサッカー観戦が日常となっている。本市においては、等々力陸上競技場第2期整備「整備計画」(平成30年3月策定)で、「競技者や観戦者を問わず、子どもから高齢者、親子連れ、障がい者、外国人など、どこでも全ての人が使いやすい施設とすること」が位置付けられているので、この計画に基づき日常的に誰もがスポーツ観戦を楽しめる環境を整えていきたい。
(ANA:堯天)企業に所属する社員だと、自分の会社の理解を得なければならない。「なぜやるの?」からスタート。企業内で案件を進めるためには『ストーリーづくり』が大切。当然、何のために、自分たちの企業がそこに取り組むのか聞かれる。そういう時に、「移動の支援を続けることは、社会的責任であると同時に、この子どもたちの世界観が広がれば、利用は促進される。お客さんになる可能性を秘めているもので、本業につながる」ということを伝えていく必要がある。
(富士通:田中)継続していくためには各社の本業への貢献に繋がっていることが重要だと思っている。富士通でいくと、スポーツやユニバーサルデザインの分野でもっとICTを広げて、共生社会の実現に貢献していきたい。今回の取り組みで生まれたVR映像も教育ツールとして、川崎だけでなく、全国で今後も活用されていってほしい。そうなれば一過性の取り組みにはならない。憲剛選手が担っている部分を他のクラブのJリーガーがバトンのように繋いでいってくれればと常々考えている。
(JTB:関)基本的な取り組みのマニュアル等を作成するなどしてJリーグで事例共有を行なっていただき、例えば、世界自閉症啓発デー(ウィーク)に合わせてJリーグの各チームで取り組みを実施するなど、活動を国内外に広めていくことができれば。
(橋口)全国の子どもたちに届けたいからこそ、好事例を見せることは大事。ユニバーサルデザイン・心のバリアフリーだと内閣。移動支援だと国交省。IOT・AIで社会をよりよくする流れでVR推進だと総務省など、国が推進している施策と連動して、そのロールモデルとなるようにすることが大事。想いが大事という人間だけど、それだけじゃダメなので、賞やお金も含めて、自分たちもやってみたい・やってみようと思えるようなものにする必要がある。
発達障がいの支援には、地域差がある。川崎だけじゃダメ。発達障がいは診断を受けていない人もいるため発達障がい児がどの程度いるかは正確な把握が難しいと言われているけれども、厚労省科学研究では発達障がいの疑われる児童は少なくとも10%という数字が出ている。それだけニーズがあるということ。でも、ごく身近にいるのにその存在に気づく・気づかないに地域差がある。
Jリーグに、まずはスポーツ界をひっぱってもらう「主導」。主導と主体は違う。主体というのはバトンを繋ぐ役割。3つ立場は絶対的に必要。①クラブ ②選手(発信) ③サポーターがそれぞれ、主体としてバトンを繋いで、共感者を増やしてくださると嬉しい。想いやビジョン、愛の伝道師。
―サポーターの皆さんは関わってみていかがでしたか
(川崎サポ:ゴンタ)準備期間もっと欲しかった。次からは早め早めに動いていければ。続けること、他の人に知ってもらうのも大事なので。オンラインでもいいから、色々話していきたい!やりたいよりも、(発達障がいについて)もっと知りたい。知ってから出来る事がわかってくるような気がする。勉強会みたいのを、自分たちにもしてほしい。
(橋口)ありがたい。とても幅が広い障がいなので全部理解するのは難しい。その子その子によって変わる。成長によっても特徴が変化する。大切なのは、その子が何に困っていて、何に躓いているか気づけるかとか、心開いてもらえるか。技術とかよりも、この子たちの力になりたい・寄り添いたい、応援したい、未来のサポーターになってほしいとか、そういう気持ちは伝わる。色んな症状の子がいるので、選択肢が色々あるといい。
その後もサポーターから橋口さんへの質問は続く。
・川崎市全体だと発達障がいどのぐらいいる?
・克服していけるものなの?
・イングランドはセンサリールームにスポンサーついている?
・こんなやり方はどう?
知ろうとする姿勢、何が出来るか模索しよう、関わろうとするまっすぐな気持ちに胸が打たれる。
(川崎サポ:カイト)駅で待ち合わせて、途中でお買い物とか、フロンパークに行ってご飯食べるとこからスタートもできる。まずフロンターレでやって、日本中に広がっていければいい。僕らは、もっとやれたなという感じもあるし、創っていきたいというか、子どもたちとも一緒に歩んでいきたい。
(橋口)サッカー観戦に行く、途中で買い物する。観戦中、お兄さんが一緒にいてくれた。この人がいるなら、そういう街なら安心して外に出られるかもという気持ちになる。出逢ったサポーターの人たちが川崎市中にいる。そういう仲間がその子の住む地域にいる安心感ってすごいこと。
一緒につくる、あゆむ
―フロンターレのサポーターはクラブとの関係性が特徴的だと聞きますが…?
(川崎サポ:カイト)例えば他クラブだと、チームの負けが続くと、「社長出せよ!」ってサポーターがいる。でも、勝ちだけを共有するのはずるいと思っている。勝ちも負けもある、その両方を共有していく。自分たちもチームを一緒につくっていくっていうのが、大事。サポーターだからこそ気づけるところをクラブスタッフに伝えることができる。伝えるハードルが低い。みんなで同じところを向いているのがフロンターレの強さだと思う。
川崎市や日本にどう貢献できるか?の目線で動く。試合なんて約40試合。365日の中の40日。それ以外の時間の方が多い。どれだけ地域に愛されるか。90分じゃなくて、その前後や、街をどれだけフロンターレカラーで染められるか。
川崎だって人口150万のうち、まだ4万人しかクラブ会員じゃない。世界を見たら、試合日には町中がお祭りになるところもある。100年後、200年後そうなってほしい。強いときもあれば、弱いときもあるので。弱いときも地域に愛されるチーム作りを自分たちも大事にしている。
サッカー自体はクローズした世界だけど、サッカーをつかって、日本を、世界を明るくしていきたい。面白いことを一緒になって、フロンターレつかって出来たらいいな。
(川崎サポ:今里)フロンターレ、川崎市に関わった人がどれだけ幸せになるか。そこに、自分たちが率先してやる。フロンターレを介してってことだと思う。
―大分側から見てどうでしたか?
(大分サポ:あつお)他クラブの、クラブとサポーターの関係性を目の当たりにする機会はあまりない。今回初めてその場に行った。サポーターの皆さんがアイデアをどんどん出す。クラブも受け取る。そういう関係性があるんだなぁと痛感した。大分は借金問題とか、色々あった。苦労はしてきたけど、クラブとサポーターの関係性はまだそこまでじゃない。フロンターレのクラブとサポーターの関係性、風通しの良さから学ぶことは沢山あった。大分でも絶対やりたい。その時はよろしくおねがいします。
(大分サポ:Ben)川崎の実施一週間前のクラブスタッフとサポーターのミーティングがツーカーのやりとりだったのを見て、すごいなぁと。とにかく感動した。時間があればもっといいものができる、という川崎サポーターはすごい。大分も経営危機乗り越えてきたけど、頑張っていきたい。1人でも多く、仲間を見つけていきたい。
―今後の夢は?
(フ:三浦)クラブとしては、こういった活動含めて、広げていきたい。サッカーを通じて、川崎市民を、街を笑顔に、が根本。障がいがあってもなくても誰でも関係がない世界。クラブにいると、気持ちや無償の愛で動いている人と接することが多い。クラブとしても、個人としても、そういう想いを大事にしていきたい。この立場で働かせていただいているので、アンテナもって動く。あとは自分も0→1にすることをチャレンジしたいし、この活動も継続して、主体的に実行していきたい。
(J:鈴木順)シャレン!はサッカー界だけがやることでもないので。他クラブはもちろん、サッカー以外の競技にも広げていきたい。バトンを繋ぎたい。スポーツだけでなくアートや音楽もいいと思う。最初は「知らない」がバリアだった。フロンターレで障がい者と一緒に過ごして知る機会をもらった。それぞれの特性を知る。「知らないを知らない社会に」が最近の夢。最終的には、こういうことが当たり前になって、誰からも取りあげられないくらいになればいいなと。
(橋口)夢はシンプル。発達障がいのある子たちだけじゃなくて、発達障がいを手掛かりに、すべての子どもたちがサッカー観戦できるように。サッカー好きって気持ちを極められたり、深められたり。そういう「楽しさを極められる」世界にしたい。観戦が「成長」の場になってほしい。将来的にサポーターやスタッフになろうと思うかもしれない。地域で自立、活躍できるという希望がある取り組みだと思っているので、そういう世界になってほしい。
(富士通:田中)会社としては共生社会の実現。そこに富士通だとICTは前提。スポーツ×ユニバーサルデザインでもチャレンジしたい。より無関心層に届けられるように、VRを川崎市内の小学校の授業で使うとか。小学生とフロンターレの選手が一緒に意見を交わしてもらうとか出来たらすごくいい。他の地域にも広げていきたい。アジアにも広がっていくとか。国際線に乗っていくとか。グレードアップしていく。掛け算の可能性はいっぱいある。
(ANA:堯天)会社としては、誰もがストレスなく移動するが出来る事。目的は、サッカー観戦、芸術、なんでもいいけど。誰もが当たり前のように移動できる社会。個人的には、今後もこういった取り組みに引き続き携わっていくことが夢なんだと感じた。
(川崎サポ:カイト)去年がスタート。今、世界中、日本中が危機だけど、去年以上のものをつくって、フロンターレと大分から日本に発信して、日本のスポーツ界に広がってほしい。一緒にいいものをつくっていきたい。子どもたちの笑顔、親御さんの笑顔をみんなでつくりたいと思う!
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川崎らしい取り組み。だけど、それを「川崎だから」で終わらせてほしくない。そんな想いでこのインタビュー記事をつくった。シャレン!を行っていくうえでの大切な要素が、いくつも見つけられる。どうか、このバトンを受け取ってくれる人が1人でもいますように。いつの日か、それぞれの夢が実現しますように。心から願わずにはいられない。