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2020Jリーグシャレン!アウォーズ・パブリック賞『ヴォルティスコンディショニング プログラム(SIB)/徳島ヴォルティス』活動レポート
■パブリック賞 道を切り拓いていく徳島の物語
徳島県美馬市の「住民の健康づくり」という共通の目的に向かって、コーチたちがコンディショニングプログラムを提供したこの活動。
【映像】
【活動内容】
選考委員からはこんな声があがっていた。
「徳島は、スポーツの強みを活かしたヘルスケアテーマで、行政との取り組みという観点からもシャレン!のモデルケースではないか。ソーシャルインパクトボンド(SIB)というスキームをつかった取り組みは、行政コストという観点からも、パブリック賞らしい。」
「ただ、行政からしても、難易度が高い取り組みともいう印象を持っている人も多い。すごいスキームだよねという打ち出し方は、果たして人々の心に響くのだろうか?というのが一番の懸念。全国に広がっていくためには、大変かもしれないけど是非やりたい!乗り越えたい!と思えるような、共感ポイントが必要。ともすると公務員は“行政”とひとくくりにされがちだし、施策で見れば金太郎あめかもしれないけど、そこには必ず奮闘している「人」がいて。そういう血のかよった人の物語をぜひ聞きたい。」
「確かにその視点はある。それでも前例のないことにチャレンジした行政とクラブに光を当てて応援したい。挑戦する人がいて初めて行政スキームや施策もブラッシュアップしていける。美馬市長のチャレンジ精神、職員の実行力、関係者の巻き込みなど、実現までにとても苦労したと思うけど、それを乗り越えられたところの想いをぜひ伝えていってほしい。」
シャレン!アウォーズの目的は決して優劣をつけることではなく、世の中に活動が広がっていくきっかけとなる情報を共有することでもある。今回は、この活動を推進してきた美馬市保険福祉部 保険健康課の花岡正昭さん、大塚製薬株式会社 徳島営業所 所長の児玉健嗣さん、徳島ヴォルティスの谷直和さん(活動責任者)、柘植竜治さん(コーチ)にお集まりいただき、インタビューをさせていただいた。
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不安の先に掴んだ「やって良かった」
―今、どんなお気持ちですか?
(ヴォ:谷)素直にすごくうれしかった。この活動は、たくさんの方のご協力があって、それぞれの強みを活かして仲間を探すということが大切だった。課題解決という同じ目的・目標に向かってセクターを超えた人達が主体者になっていく、まさにコレクティブインパクトの実践が出来たんだという感覚。関わったみなさんで同じ目標に向かって進み、今回のパブリック賞をいただけたということが、一番うれしいし、感動した。
(ヴォ:柘植)シャレン!が出来た当時、社会連携の略だと聞いていたけれども、今、改めて、大塚製薬・美馬市と一緒に“連携”出来たな~という実感があるのと、地域の課題を解決する意味でも、やって良かったと思うし、こうやって賞をいただけて、尚更そう思う。
(美馬市:花岡)市としても初めての取り組み。最初は約3万人の人口のところで、5年間で1,800人の募集というのは、果たして人が集まるのか、うまくいくのか…という心配の方が大きかったけど、軌道にのってからは安定感があって。住民の皆さんも喜んでいて、市としても、良かったなと。
(大塚:児玉)徳島に着任してすぐ、これは集客を頑張らないといけないなと思って協力体制をつくろうと色々動いていたんだけど、結果として応募がすぐに埋まってしまうぐらい評判が良かった。大塚としては、プログラム内でのボディメンテゼリー摂取とその有用性についての情報提供からスタートして、栄養指導などワンポイント講座とか、プログラム終了後の健幸アンバサダー育成など、協力できることが少しずつ増えてきている。これには、大塚が長年やってきた熱中症予防講座や食育活動などのベースが活かされている。このプログラムのスタート時から関われたのが嬉しい。
共に汗をかく
―大変だったことは?
(美馬市:花岡)美馬市としては、初めてのヘルスケアに関する事業展開ということもあり、まずは事業を知ってもらうこと、そして参加してもらうこと、そこからは運営側がこの事業の効果をいかに参加者に伝えられるかということを苦労しました。
(ヴォ:柘植)そう。苦労という意味では、朝がはやいのもあるし、最初のころはスタッフの休み時間がとれないぐらいバタバタだった。あと、コーチって何でも出来そうに思われているけど、もともとは“サッカーの”指導者だから、コンディショニングの指導が出来るだろうかという不安・プレッシャーもすごかった。コンディショニングの資格もとったけど、R-BODYさんにもかなり助けられたと思う。
(ヴォ:谷)まず、そもそもSIBって何だそれっていう、社内の理解をもらうのが大変だった。コーチ陣にプログラムの提供をやってもらうんだけど、マンパワー的に余裕があるわけじゃない。スクールがある中で、この新しい取り組みに時間をかなり使う。地域にとっても、クラブにとっても取り組みの意義が理解できないと難しい。クラブ内では、まだ認められるところまできてないかもしれない。ただ、クラブとしては年間400回以上ホームタウン活動をやってきたけど、続けていくうえでは新たな事業、収入源も考えていかないといけないと思っていて、ちょうど岐路にあった。価値のある仕事をして、クラブも収入が増え、コーチたちもサッカー以外の武器が増えていくことが出来ればとの想いだった。
(ヴォ:柘植)確かにコーチ陣も最初はとまどいや不安が大きかった。スクールと社会連携のバランスは気を付けなきゃいけなくて、ホームタウン活動もやってるので、本当に人のケアは必要。ただ、今は体を整える・メンテするというのも科学的・理論的にわかって、自信をもって伝えられる。コーチ陣にとっても、サッカーで言うところのサイドキックみたいな、ヴォルティスコーチ陣の“キホン”になってきている。
(ヴォ:谷)私もあと15歳若ければ教える側に・・・という気持ちもあるけど、コーチたちに任せっぱなしはダメだと思う。口だけじゃなくて、みんなで一緒になって現地に行って、苦労することが大事だと思っている。山本五十六精神!
(大塚:児玉)きっと谷さんが現地にいかなくてもいいんだけど、行って一緒に動きたいんですよね。この活動は「人」がつくづく肝だと思う。熱量が伝わるし、やっぱり谷さんの話を聴きたいとか、柘植さんのコンディショニングの指導を受けたいって人がいるんだと思うんです。
ファーストペンギンたち
―数々の苦労を乗り越えられた要因は?
(ヴォ:柘植)不安や大変だなという気持ちはあったけど、『集団の中で、命の危険もあるかもしれない海に最初に飛び込むペンギンは、とても勇敢なペンギンで、それをファーストペンギンと呼ぶ。リーグで僕らのことをそうやって話してくれた人がいる』という話を谷さんから聞いた。コーチ陣も、その話を聴いて、頑張ろうと思えた。あとは、参加してくれたみんなの笑顔。「効果があったよ」「痛み止め飲まなくてよくなったよ」というポジティブな言葉をもらえて。喜んでもらえて、クラブのファンになってくれた人もいっぱいいる。口コミでも行こうって思ってもらえる。根拠をもって話して、納得感もって実践してもらえるようになり、結果が出ると、僕らも自信になった。
(美馬市:花岡)始まる前から、色んな知識をコーチ陣が習得してくれたけど、日に日に上手になっていって。参加者の聞き方・表情が変わっていくのを見て、これは本当にいけるなーという感覚を持てた。藤田元治美馬市長もどこかに出ると、この事業は市民からも非常に喜ばれていると話している。この事業が始まって、住民とのかかわりも増えた。プログラムの7回目ぐらいになると、「やめたくない」「続けたい」と皆が一斉に言い出すぐらい(笑)
(美馬市:花岡)市民の皆さんは健康に対する考え方が前向きだし、もっと楽しみたいと思っているのだろうと思う。中には保険健康課で健康に関する指導されている方や、スポーツに全く興味がなかった方もいるが、このコンディショニングプログラムを通じて運動することの大切さや楽しさを感じてもらえ、他の健康イベントにも楽しく来てもらえている。
(ヴォ:谷)今までまったくサッカーに興味がなかった参加者の方が、ヴォルティスのファンになって試合を観に来てくれるようになっている。まさに我々ホームタウン推進部のミッションである、ファンづくりにもつながっている。改めて感じたのは、「自分たちが楽しいことを楽しくやっていれば、その楽しさは必ず、みんなに伝わる。スポーツの持つ力を信じて、スポーツでみんなが幸せになれる!」と強く思った。
(ヴォ:柘植)大切にしているのは人と人だということ。心が通じ合わないと、口でいいこと言っても通じない。参加者の方の名前を呼ぶとか。目見るとか、聞きたそうなら、声かけて話を聴く。相手が何を求めているかを観察する。頭をつかうより、心をつかう。大人でも子どもでも、一生懸命だな、というのは伝わるんだと思う。挑戦って進化していくことなので。びびらずに、失敗もネタになるので、トライして、進化していきたい。
スキームありきじゃなく想いの共有
―自治体からするとSIBは導入が難しいという話も聞こえてきますが、いかがですか?
※補足:本取り組みはSIB(ソーシャルインパクトボンド)と言われるスキームを活用。民間資金を活用して社会課題解決型の事業を実施し、その成果に応じて地方公共団体が対価を支払うスキームのことを言う。成果に応じての支払いという点では事業者にとってはインセンティブであり成果へのコミット力があがる。行政から見れば施策に対する成果の見える化、アカウンタビリティの向上にもつながる。共通ゴールを設定することで行政と事業者が一緒に汗をかくことができるモデルと言われる。
*なお、PFS(Pay For Success)と呼ばれる成果連動型民間委託契約方式の1類型としてSIBがある。以下から活動事例等も見れるので参考情報としてリンクを添付する。
(ヴォ:谷)SIBというのがあるよと前社長の新田さんから聞いて。ちょうどその頃、Jリーグの全クラブがあつまるホームタウン会議でも、そんな手法があるという話も出てた。よし、取り組んでみようと。とはいえ、KPI含めてつくるのは事例がなかったから、経産省さんや日本総研さんなどのサポートを経て、乗り越えられた。
(美馬市:花岡)お話をもらって、市長がやってみようと前向きになり、企画総務部長の吉田が進めてくれた。色んな方に質問を受けるが、第三者機関をおかないといけないとか、制度が先走ってはダメ。市民の方からすると、制度がソーシャルインパクトボンドかどうかなんて関係ないんですよ。市民目線でどういうニーズがあるのかと、そこに行政で出来る事は何だろうという視点。
(美馬市:花岡)大前提としては、美馬市民の健康が大切で、その上で、行政としては医療・介護給付費を抑制したいという狙いもある。今までも様々な取り組みをしてきたが、成果を数字として追いきれないという課題があって。そういった明らかになっている課題に対してどうするか?というところでこのスキームを選択した。行政だけで出来ないから、情報や専門性がある民間に入ってもらう必要があって、そのプロセスの中に、大塚製薬さんや徳島ヴォルティスさんがあったし、民間資金の活用という観点で経産省にもサポートしてもらった。行政でもSIBに取り組むところは多くはないと聞いているので、経産省や経産局に問い合わせていけば、実施までたどり着けると思う。
(大塚:児玉)今回は市長の判断・号令が背中を強く押したのだと思うけど、やるとなればやれるもの。成果連動型のスキームは、行政の他の事業にも考え方を取り入れられるので取り組む価値もある。
(ヴォ:谷)そして、一歩踏み出す勇気がとても大切だと思う。正直自分も難しい!失敗するかもしれない!わかんない!と思っていたけど、自分たちだけでやろうとしないのが大事。まずは一歩踏み出してみる。巻き込んでやってみる。例えば、地域の課題っていったい何だろうから話してみる。次に、課題解決に向けてどうしたらいいかを話し合う。花岡さんとは家族以上に会ってるぐらい色々話し合った。一緒に考えてみんなを巻き込んでいけば進められる。そうすると、知り合ったみんなと固い絆・人脈も生まれ、それらも大切に育てることができる。もしかしたら、SIBじゃなくてもいいかもしれない。スキームありきじゃないと思う。
夢。まだいっぱいある。
―今後に向けての夢をお聞かせください
(美馬:花岡)2年目に入って、今コロナで悔しい思いをしているが、逆に色んなことを考えさせてもらっている。市のCATVでも徳島ヴォルティスさんと大塚製薬さんに手伝ってもらって、自宅でできる簡単なストレッチ運動や、健康情報を発信したりしている。コンディショニングを軸に、どう健康づくりに取り組んでいけるか、様々にアプローチしたい。現在は、成人を対象としているが、幅広い年齢層に対象を広げたり、低年齢の子どもたちにもできないか検討している。
(大塚:児玉)徳島県のほかの自治体や、全国にも広がってほしい。クラブや企業としても、この事業に光があたるといい。
(ヴォ:柘植)クラブとしては、事業としてしっかり横展開したい。ヴォルティスのコーチはコンディショニングできるよねという位置づけで、徳島の地域でのブランドにもなっていくような、そんな強みを出していきたい。全国展開という意味では、Jリーグにもこの横展開のリーダーになってほしい。
(ヴォ:谷)夢。まだまだ、いっぱいある。コンディショニングを核として、美馬市でも応用展開できることがたくさんあると思う。例えばプログラム卒業生のOB・OG会の実施。そしてその方々が今度は家族、友人、知り合いに健康情報を発信できるように「健幸アンバサダー」の取得。また、スポーツ団体とのタイアップによる、未就学児の体力向上プログラムの実施とか。幼児期の子どもたちをJクラブが支えていけたらいいな。他の自治体への提案・企業への健康の提案などもいい。地域おこし協力隊にも参画してもらうけど、スポーツ人材の雇用が生まれるところまで出来たら嬉しい。
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インタビューしている私は運動不足甚だしいレベルだが、過去に徳島ヴォルティスのコンディショニングプログラムを受けたことがある。普段使わないところが伸びて、翌日筋肉痛になるぐらい効いたし、とても姿勢が良くなったのを覚えている。一人で継続するのは難しいけれども、プロのコーチがいることでの安心感と仲間と一緒に取り組む楽しみがあれば続けられるのだろう。
美と健康の街を掲げる美馬市。健康を主軸にした商品を出してきた大塚製薬。プロスポーツクラブのコーチを有するクラブ。地域の人をハッピーにしたいという想いで、3者が手をとって、沢山の人の協力も経て、作り上げていく活動は、まさにシャレン!の代表例とも言える。
すでに他地域の他スポーツクラブでコンディショニングプログラムが始まりそうという話も出てきている。介護予防は国全体のテーマでもあるので、全国にぜひ広がってほしいものだ。
「徳島県で、大塚だから出来るんでしょでは決してない」と児玉さんは言った。血の通った人間の想いと奮闘があったことを忘れてはならない。不安もあったけど、飛び込んでやってみて、少しずつ成功体験を重ねていく感覚はどんな0➡1の取り組みでも大事なことだろう。そんなチャレンジャーたちに、リスペクトを込めつつ、新たなチャレンジャーが生まれてくることを願って、この記事を締めくくりたい。