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2020Jリーグシャレン!アウォーズ・ソーシャルチャレンジャー賞『少年院の少年たちの社会復帰サポート活動/FC東京』活動レポート

■ソーシャルチャレンジャー賞 気付きをくれたFC東京の物語

 

「少年院の少年たちの社会復帰サポート」

 

【活動概要はこちらから】

 

このテーマをエントリーした理由をFC東京の久保田さんはこう話す。

「簡単ではないテーマ。その分意義があったのではないかと思うし、こういう機会にこそ伝えていきたい。全国に存在するテーマなので、他の地域でも何かしらのアプローチが出来たらいいと思う。」

 

ソーシャルチャレンジャー賞の選考委員からだけではない。他のカテゴリの選考委員たちもこの取り組みへの関心は高く、様々なコメントがされてきた。

 

「更生した後、再犯してしまう子は、『どうせ自分なんて』と言う考えをもっていたりするみたい。周りに自分を応援してくれる存在がいるかどうか。親がそういう存在ではないケースもある。地域にいる周りの人が応援してくれると頑張れるケースもある。社会復帰した後の地域での見守りコミュニティをどう作るか、どう繋がり続けるか。クラブとの関わりが、これからの人生をやり直していくための必要な要素となり、前向きに進めるきっかけとなれば。」

 

「罪はもちろんいけないこと。それは、償う必要がある。ただ、罪を償った後の人権も大切。DVや困窮家庭の問題など、ある意味、社会からの孤立、社会や大人からの被害者といえるような少年も増えている。この取り組みは決して、その少年だけのものではない。そして出院後、犯罪を繰り返さないようにすることは、社会全体の責任であり、課題であると意識しなきゃいけない。」

 

法務省の再犯防止推進計画の重点としても、「仕事」と「居場所」が掲げられている。仕事面では、幅広い職種に対する知識・仕事というものに対する理解・金銭的対価以外の仕事の意義を身に着けてもらうことが必要。居場所は、単に住居が必要という物理的な面だけではなく、住む地域の周辺の方々と一緒に何らかの活躍をし、地域に必要とされ、地域のために自分が役立っているという「有用感」や、他人との関係構築が苦手な彼らがそこに居続けられる「安心感」が大切なのだと言われている。

 

 

法務省の大橋矯正局長は受賞にあたって、このような感想を寄せてくださった。

FC東京の少年院の少年たちの社会復帰サポート活動が、シャレン!アウォーズの投票を通じて多くのサポーターの方々や審査員の方々に御理解いただいたことを本当にうれしく思っている。FC東京さんやサポートをしてくれた育て上げネットさんは、この前例のない活動を進めていただく上で、クラブや法人内外でご苦労があったと思う。深く感謝したい。」

 

「少年院の実情は余り知られていない。生徒たちが、いずれ戻っていく社会に受け入れられるのに、貴重な役割を果たしていただいていると思う。」

 

このテーマを扱う難しさと意義を、法務省の大橋哲矯正局長、認定NPO法人育て上げネットの工藤啓代表理事と井村良英さん、FC東京の久保田淳さんへのインタビューを通じてお届けできればと思う。

 

課題の本質を捉え企画していく

―どのような経緯でこの活動が生まれたのですか?

 

FC東京:久保田)始まりは多摩少年院でチェアマンが講話された際に、FC東京も一緒に行ってサッカー教室を行ったこと。ただし、喜んでもらえた一方で、果たしてこれで良かったのだろうか・・・というモヤモヤした感覚も残った。少年院の中では当然、様々な制約があるので、サッカー教室とは異なる形で、もっと応えられることはないだろうか?と。

 

少年院の今抱えている課題は何かと職員と話していくと、少年たちが院を出るまでに、なかなか社会的な接点がないということだった。そんな中で、Jリーグのアカデミー生を対象に実施しているキャリア・デザイン・サポートプログラムでもある「Jリーグ版よのなか科」が参考になるのでは?と考えた。

 

練習場に来てもらえれば、色々な職業のスタッフや選手の活動場面を見られるので、社会的な体験機会として良いアイデアだと思ったものの、実現まで2年かかってしまった。この活動をクラブの中でどのように位置づけるべきかと悩んだ。Jリーグを取り巻く環境も変化を見せ、またFC東京も20年が経って認知も上がり、クラブを先ずは知ってもらうというフェーズから、地域への貢献という視点がさらに増えている。震災の影響も意識を加速させる。観てもらうだけじゃない。スポーツのチカラをつかうという視点も、世の中の目線に加わるようになってきた。

 

とはいえ、リソースには限りがあるため全てのテーマに取り組むことは出来ない。FC東京におけるシャレン!の中心テーマは、『未来の地域の担い手となる子ども』『障がい者スポーツ』の支援にしようとしていた。

 

そんな時、法務省の審議官(編注:現大橋局長)が小平の練習場まで見学に来てくれた。「少年はここで貴重な体験をするだけではなく、出院後にまた地域に戻り活躍することへと繋がるわけで、FC東京のホームタウンにおける他の青少年健全育成の活動と同じではないか」という話をしてくれた、これは「地域の担い手づくり」なのだと感じることができた。

 

―法務省としては、この企画をどのように感じていらしゃったのですか?

 

(法務省:大橋)FC東京さんが、多摩少年院の施設内で活動いただいていることは承知していた。今回の御提案を受け、事前に自らの目で実現可能性を確認しようと思い、昨年(2019年4月)、FC東京小平グラウンドにお邪魔した。

 

そこで、クラブ関係者のみなさまの多様なお仕事を直接拝見し、意見交換をする中で、トップリーグのピッチに立つ選手には何が必要なのか、また、選手を支える方々のやりがい等を肌で感じた。

 

私たちが目にする華やかな試合は、その背後に長い間関わっているさまざまな人たちが、お互いにリスペクトして自らの役割を果たさなければ実現できないんだと現場で実感することは、少年院の生徒たちの社会復帰にとても大切なことだと感じた。

 

 

―クラブとして工夫した点はありますか?

 

FC東京:久保田)企画の中心は、グラウンドキーパーやホペイロといった支える側のスタッフを見てもらうこと。Jリーグという華やかな舞台を裏側で支えている存在があることを知ってもらいたいという思い。なぜなら世の中、社会がそういうものであるから。

 

まずは練習前の早くから準備する裏方のスタッフの仕事を体験してもらい、選手の想像以上に厳しい練習も見てもらい、それを応援しに見学に来てくれているファンの様子も見てもらい、選手たちのその後のメディア対応+ファンサービスも見てもらい、そして最後に選手と一対一で話す時間を設ける。選手から様々な話を聞いてもらい、激励の言葉をかけてもらう。

 

強化部との連携も重要。対応してくれた選手たちは、こちらが「時間だから」と止めるまで本当に親身に話し込んでいる。東慶悟選手は首位争いのプレッシャーの話などを、林彰洋選手は海外でのプレーにチャレンジした時の話などを、いずれも自分に逃げずに取り組んできた実際の経験を少年の相談にのりながら伝えてくれていたみたい。

 

意識していたのは、決して押し付けにならないようにするというか、こちらの自己満足にならないようにすること。お互いに対等であること。練習場という場をつかって「少年自身に感じてもらう機会」を作ることを心掛けた。感じ方は人それぞれでいい。クラブを支えるスタッフ、選手の公式練習やそれを応援してくれているファン・サポーター、練習前後に自主トレで努力する選手の姿、色んな様子が練習場では見られる。そこから何か感じ取ってもらうことができれば良いと思っている。

 

犯罪に至るまでの、彼らだけのせいじゃない、社会構造によるところもある。サッカーをやっていた少年がいたのもあって、互いに想いを馳せられる部分があったのか、話していくうちに、選手たちも自分の場合は指導者などとの良き出会いがあったこと、打ち込むものがあったことで恵まれていたのだと、この活動を通じて理解していくことができた選手もいる。

 

参加した少年が一生懸命に取り組んでくれたことは嬉しかった。感想や御礼からもそれが伝わってきた。

 

※なお、今回特別に許可をいただき、少年の感想について、一部抜粋して掲載する。

 

 

世の中に伝えたいこと

―賞を聞いたときの感想は?

 

FC東京:久保田)賞のためにやっているわけではないけれど、今回もアウォーズにエントリーしたことで、色んな人に見ていただく機会になった。広く発信していくことが大切だと思っている。FC東京が絡むことで、知ってもらえる範囲が広げられたらいい。そのためには、FC東京も学ばないといけない。この活動が実現できた要因は様々だが、やはり、法務省や育て上げネットさんとの出会いが大きい。

 

例えば、少年院と民間の協働推進の研究会や、多摩少年院を支える人たちの横串を刺すような集まりなどがある。こういう複雑な課題に対してアンテナを張り、我々よりもずっと以前より取り組んでいる人たちがいて、そのような人たちが対話するような場に一緒に参加させてもらうことで、知らないことを知っていくことができてきた。

 

―これを機に、世の中に知ってほしいことはありますか?

 

(法務省:大橋)少年院で学ぶ生徒たちが被害者の方々に多大なる御迷惑をおかけしたのは事実としてある。そのために少年院では自らの非行をしっかりと振り返り、その上に立って非行を繰り返さず社会に適応できるようにひとりひとりに働きかけている。

 

少年院に送られて来る生徒は減ってきており、学校や行政や地域のみなさまの御尽力によるものだと考えている。一方、生徒たちをみると、少年院出院後に住む場所がなかったり、知的な制約や発達上の課題を抱えていたり、被虐待経験があるといった生きづらさを抱える者の割合が増えてきている。

 

少ないながら、社会の支援の網の目からこぼれ落ちている子がまだいる状況だ。このような生徒たちへの働き掛けには手間暇をかけることが求められるが、少年院の職員は365日24時間体制で力を尽くしている。少年院では、本活動以外でもいろいろな工夫をして子供たちに働き掛けている。

 

少年院の活動について理解を深めていただくには、施設をご覧いただくのが一番。現在の新型コロナウイルス感染症が広がっているとされる状況ではお断りせざるを得ないが、例年各施設では参観の機会を設けている。ぜひ機会を見つけて少年院の活動を御覧いただきたい。

 

(育て上げ:井村)こういうことが知られていないというのが一番の課題。自分たちも時々スタディツアーをやっているが、近くの少年院の見学会に行くことは出来ると思うので、行ったらぜひ少年院について感じたことを発信してほしい。出来れば、見るのと関わるのでも違うので関わるところまでいってほしい。LGBTの“アライ”(編注:「アライ」とはLGBTの良き理解者・支援者のことを指す)のように、味方だよって伝わるとこまでいけたらいい。

自分も、正直なところ、できれば関わりたくないとすら思っていた人間。でも、事実を調べていくと、事実として凶悪犯罪は少ない。関わり始めると、ここは応援者が沢山必要な人たちなのだと気づき始めた。当時は出院時に就労できた割合が3割と聞いた。家庭からも社会からも、学校からも排除されて、出てきた時に一人で頑張らなきゃいけないという。

 

それでも、地域の人たちにどう見られるかわからず、最初は静かに就労支援をスタートした。ただ、2016年12月に、この活動をしていくので応援してくださいってファンドレイジングしたとき、知らない人が結構支援してくださった。支援者の中には元当事者の方もおり、自分が社会に出てから苦労したからこそ、少年院を出た子たちが苦しまないようにという想いでいてくれたり、昔サッカークラブのコーチをやっていたのだけれど、その頃の生徒が親になって、ニュースを見て連絡くれたり。

 

ある指導者は「サッカーという厳しい世界の中で、夢失って、道を外してしまう子がいないわけじゃないと思う。もしかしたら、自分たちも生み出している可能性ある。」というコメントを寄せてくれた。

 

被害者がいる世界なので、本当に難しいところではあるが、両方の支援が大事というスタンスを持つ必要がある。そして、無視するのではなく、支援が必要なところに細やかに目を配っているという姿勢は、いつか伝わると信じている。

 

ちなみに、なぜ自分が「凶悪」だと思っていたかというと、ニュースの報道は凶悪な側面にフォーカスされやすいからではないか。少年院法が2016年に変わり、社会に開いていこうという流れができた。それまでは、我々が見えないところにいて、知らない方が幸せという感じ。だから、2016年以前は凶悪ニュースばかりが目に入った。しかし、法改正以降、違う角度の報道も出始めている。今回のシャレン!でとりあげられるというのも1つ大きなターニングポイントと思っている。

 

 

―それぞれから、今後に向けて、展開や夢をお聞かせください。

 

(法務省:大橋)生きづらさを抱えていて、家庭にも頼りにくいといった生徒たちが地域に戻ったあと、「地域には支えてくれる人がいるんだ」と実感できるように、少年院では、従来のボランティアの方々に加え、地域社会や民間企業・団体、学校などとの連携を一層深めていく方向にシフトしてきている。少年院が、これからも、被害にあった方々にしっかりと目を向け、自らの非行について振り返る場所であることは変わらない。引き続き、生徒を地域社会に適応できるような状態で戻すように努力を重ねる。

 

地域は少年院とその生徒たちに対する関心を持っていただき、彼らが地域に戻るときには、必要なサポートをお願いしたい。犯罪や非行が減ることが新たな被害を生まないことにもつながる。多様性のある方々がそれぞれ幸せに人生を送っていけるような社会になればと思う。今回のシャレン!アウォーズを通じ、Jリーグの多くのサポーターの方々に少年院のことを知っていただいたことは、非常によいキックオフになったと考えている。

 

また、Jリーグのクラブには、各地の少年院がいろいろな取り組みでお世話になっている。今後シャレン!アウォーズにノミネートされるかもしれないので詳細は差し控えるが、ありがたい限り。各クラブは、リーグの共通理念をベースに多様な人材と職種を抱え、強い発信力とファンの信頼と期待を得ておられる。

 

このようなクラブが、各地で地元の少年院とそこで学ぶ生徒たちに理解を示し、一緒に活動し、それを発信していただけることは、社会の関心と理解を高める。少年院は全国各地に50弱あるが、地域のJリーグのクラブとよい関係を築かせていただき、それぞれの地域のサポーターの方々の御理解も得ながら、特徴ある取り組みが進むことを望む。

 

(育て上げ:工藤)矯正教育分野が本業でない方々のかかわりが受賞という形で評価されたことは、どれだけ関心層を増やしたか、というのにもつながる。ささやかにかかわることができたのはとても嬉しい。一方で、活動の「持続可能性」が担保できていないのは残課題と思っている。

 

自分たちも含めて事業として継続してやっていくにはずっとボランティアで、というのは現実的に厳しい。FC東京というクラブであれば、このような社会貢献に取り組む姿勢によってソシオが増えるとか、スタジアムに足を運ぶひとが結果として増えていくことを願う。

 

このような事業ではよくインパクトについて問われる。Jリーグ、Jクラブが社会貢献から社会課題解決を掲げていくなかで、FC東京の受賞そのものはひとつのインパクトであると言える。

 

FC東京:久保田)目立ちはしていなくても、格差も随分出てきている。学習支援、子ども食堂、少年院、すべてはつながっていて、そうした社会構造に歪みのある地域コミュニティの中で、FC東京はどのように役に立てるのだろうかという感覚はいつもある。表面的なレベルではなく、その背景、構造にまで多くの人の目を向けさせられたらという気持ちがある。

 

あとは、被害にあわれた方に対しても何ができるだろう?と考えたり。ほかのクラブの活動も参考にしている。今回のこの活動は継続しながらも、さらに違うアプローチにも広げていきたいと思っている。例えば、少年院を支える方々にも何かできることがあるのではないかとか。

 

単に課題を話すだけではなく、こういうやり方があるのではないか?と、各々の持ち場でチャレンジをしてくれる人たちと仲間であることも重要。交流できる機会には顔を出して、学ばせてもらうことを、丁寧に積み重ねていけば、つながりは確実に広がっていくし、これからも広げていきたい。

 

なぜこのような活動をしているの?と言われたら、答えは明確。FC東京だから。Jリーグのクラブだから。求められていることだから。JリーグにもFC東京にも理念があるから。別にサッカーだけではないよ、と。社会連携活動は取り組むのが当然という意識。それを成し遂げるためにも、事業もしっかり取り組んでいく。

 

クラブの強みは発信力。売名のためではなく、きちんと使う。社会課題があれば、まずは課題そのものの社会的認知をあげていきたい。課題への向き合い方も、継続しながらも進化していきたい。他のクラブにも広がってもらいたいし、法務省の研究会などにも働きかけていきたい。

 

今回の活動を継続していけば、これを経験してきた少年とも、どこかで出逢える機会があるかもしれない。そんなことがあれば嬉しい。

 

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私も育て上げネットさんのご縁で、ある少年院のスタディツアーに参加したことがある。少年犯罪の傾向や、そこに至るまでの環境要因、更生プログラムなど、様々なことを教えてもらい、自らの無知さを恥じた。正直、社会システムの中で零れ落ちてしまう人がいることも、それをサポートする人の存在も知らなかった。その日以来、このことを忘れないようにと私の眼鏡ケースの中には黄色い羽根がそっと置かれている。

 

少年院と聞けば、どこか遠い存在で、他人事だったものだが、この経験以降、自分事になった。居場所となるコミュニティの大切さを、より強く思うようになった。自らの日々の行動が、誰かの孤独を作っていることがないか、それが巡り巡って負の連鎖を引き起こしていないか、気になるようにもなった。

クラブがこのテーマ取り組むことで、アクションする人が1人でも増えたらと願わずにはいられない。