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2021Jリーグシャレン!アウォーズ
パブリック賞
『福島県産品PR・販路拡大事業
福島ユナイテッドFC』活動レポート

福島ユナイテッドFCが取り組む「福島県産品PR・販路拡大事業」が2021Jリーグシャレン!アウォーズ・パブリック賞を受賞しました。東日本大震災後、風評被害を払拭するためにスタートした取り組みは、どのような価値を生んでいるのか。福島ユナイテッドFCの活動は、地域にとってどのような価値があるのか。その魅力に迫るため、日々地域と向き合い仕事をする現地の「公務員」が、クラブや協働者に話を聞きました。

 

 

●活動エントリー内容は→【こちら

●話し手
福島ユナイテッドFC 阿部拓弥さん
安斎果樹園 安斎忠幸さん
鈴木農園 鈴木満さん
●聞き手・文
いわき市役所 草野郁馬
※本インタビュー記事は、全国の思いある公務員が集う「オンライン市役所」(運営:一般社団法人よんなな会)が担当しました

 

 

■福島の生産者と全国の消費者のハブを目指す取り組み

 

福島ユナイテッドFC「農業部」は、福島県産農産物をPRする取り組みを行っています。特徴は、販売をサポートするだけではないこと。選手・スタッフがそれぞれの農家さんの元にいき、春先の生育作業から収穫まで一貫して関わっています。

 

桃、りんご、お米、ぶどう、ル・レクチェなど、様々な産品を扱っていますが、桃であれば木を1本単位で、米であれば田んぼを1反単位で購入し、自分たちの木、田んぼとして年間を通して生育を行っています。

 

また、県内の農産物、加工品を仕入れて販売・PRを行う「ふくしマルシェ」を開催しています。J3のアウェイゲームをはじめ、提携クラブの湘南ベルマーレや活動に共感してくれた川崎フロンターレや栃木SC、モンテディオ山形などJ1、J2の試合会場でも出店させていただいています。

 

2020年6月には、ECサイト「福島ユナイテッドFC農業部公式オンラインショップ」も立ち上げました。「ふくしマルシェ」で産品に興味を持った方に、継続的に購入してもらうための仕組みです。サイト上では、商品だけでなく、各農家の想いやバックグラウンドを掲載するなど、復興庁、デロイトトーマツコンサルティングの協力を経て、サイトの充実を図りました。

福島の生産者と全国のサッカーファン(消費者)とのハブになることで、福島県産品の魅力を届けることが出来ればと活動しています。

 

 

 

■産品の魅力を自分ごととして語れる選手たち

 

この取り組みは、2014年にスタート。当初は、東日本大震災後の原発事故による風評被害払拭のために始まりました。

 

「福島県は農業県。震災前から、農家のみなさんはすごく頑張って農業をされていました。震災復興のため、地域のために何かできないかと考えたとき、農業に注目しました。クラブの発信力を武器にして、多くの人に知ってもらう活動をできればと考えていましたね。はじめは、石川町にある大野農園さんと組んで、リンゴの木を2本買い取ったところから始まりました。当時は今のようにいろいろな作業ができていたわけではありませんが、収穫だけでなく、その前の作業から選手が関わることで、より地域に根ざした活動を目指したいと考えていました」(阿部さん)

 

この活動を2015年から一緒に行っているのが、安斎果樹園の安斎さん。2本の桃の木からスタートして、今では7本の桃の木を福島ユナイテッドFCが生育しています。選手が「生産者の一人」として、実体験をもって語れることに価値があるといいます。

 

「原発事故の直後は、『福島のものはちょっと』という方もいれば、『興味はあるけどちょっと避けようかな』と思う方もいて、福島県産のものに対していろんな温度感の方がいたと思います。そういう状況の中で、ユナイテッドのみなさんが作業も一緒にやりながらPRを一緒にしてくれるという話だったので、ありがたかったですね。作業の中では、どんな検査体制を敷いているかなどもお伝えできるので、そういった話も、サッカーファンは選手の話なら関心を持って聞いてくれます。

 

実際、収穫だけでなく、細かい作業もやってもらえるのも助かっています。桃の生育では、春先に全体の95%ほどのつぼみを落とす作業があります。その作業に何度も来ていただいて、いいものだけを残してやっと商品になります。そんな細かいことまで含めて、全国先々で説明してもらえるのがすごくありがたいですし、『おいしい』だけではなくプラスアルファまで話せるので、消費者への伝わり方も違うのではないかなと思います」(安斎さん)

 

 

近年では、風評被害の払拭だけではありません。福島の「高品質な農産物」を、クラブの発信力を使ってより多くの方に届けることに力を入れ始めています。2019年から一緒に活動している、鈴木農園の鈴木さんは、「高尾」という日本では珍しいぶどう品種を育てています。

 

高尾は、主に福島、山形、東京で作られていますが、冬の寒さや病気に弱く手間がかかるため、日本でつくられるぶどうの中で1%にも満たないほどの希少品種です。この高尾を中心に、全国にPRしています。

 

「自分たちではアクセスできない方々に届けられるのが非常にありがたいです。特に、福島県産のぶどうは、東京より西の地域ではほとんど流通していません。それが、クラブを通して大阪や九州の人にも届けられるのは、非常に大きな価値だと感じています。ぶどうの生育作業では、ひとつの房に200くらいなっている粒を一つ一つハサミで切って、40−50粒ほど残す作業があります。そういった大変な作業も選手にやってもらっているので、消費者にその価値が伝わりやすくなっていると思います」(鈴木さん)

 

 

 

■外に出るから、地域の魅力を再認識できる

 

全国の試合会場で福島産の農産品をPRしたとき、どのような反応があったのでしょうか。「想定以上に前向きな反応が多かった」と阿部さんは感じています。

 

「僕がアウェイ戦の販売に行ったときの感覚では、『福島のものだから買ってくれる』という方が多かったと思います。例えば、『福島のものは検査もしっかりしているから安全』と言う声があります。また、湘南ベルマーレ戦の会場で販売したときも、福島を応援して買ってくれる人が多かったです。クラブのオフィシャルクラブパートナーであり、ホームゲーム時のスタジアムグルメとしても注目いただいている、福島の代表的な銘菓のひとつである「いもくり佐太郎」を販売する株式会社ダイオーが他のJクラブから直接出店依頼される事例も生まれました」(阿部さん)

 

また、これまでにない地域で販売することは「自分が作る商品の価値に気づくきっかけ」にもなっています。

 

「福島のぶどうは、産地としてあまり有名ではありません。ぶどうといえば、山梨、岡山、山形なので、福島産がどこまでいけるのか、という気持ちもありました。ただ、実際に選手が全国で福島のぶどうをPRしてくれた結果、とても美味しいという評判を頂きました。福島は主力産地ではありませんが、他の産地に対抗できるような品質のぶどうを作れていることを実感できました」(鈴木さん)

 

「選手から学ぶことも多いですね。例えば、SNSの使い方。どうやってお客さんとコミュニケーションを取ればいいのかなど、いつも参考にさせてもらっています。また、農作業のときは選手が真剣に質問をしてくれるので、こちらも答えられるようにと準備します。そのたびに、パワーアップしています」(安斎さん)

 

 

クラブにとっては、新しいファンを増やすきっかけになっています。鈴木さん、安齋さんともに、一緒に活動するようになってからサッカーの試合の見方が変わったといいます。

 

「正直、活動を始める前はユナイテッドさんのことをあまり知りませんでした。一緒に活動するようになって、選手一人ひとりの名前も覚えましたし、試合も見に行くようになりました。見に行っていなくても、試合があれば結果が気になるようになるほどです。すごく親しみのあるチームになったと思います」(鈴木さん)

 

「私は、ユナイテッドの事務所がある飯坂温泉の観光協会の会員としては一緒に活動をしたことがあったのですが、スタッフや選手の人と直接話す機会はありませんでした。この取り組みを始めてから、やっぱり、試合の見え方は変わりましたよね。

 

また、うちの両親もとても喜んでくれています。普段、親子喧嘩にならないように一緒に作業はしないのですが、ユナイテッドのみなさんが作業に来る日は、家族みんなで一緒に作業しています」(安斎さん)

 

 

さらに、この活動は福島ユナイテッドFCの可能性を広げてくれるものだといいます。

 

「地域での活動を続けていくためには、しっかりと収益を上げていくことも重要です。私たちのGM(ゼネラルマネージャー)がよく言っていることですが、『ホームタウンのまちの規模が、クラブの規模に直結する』という考え方があります。サッカーだけに頼ると、チケットやグッズ、ファンクラブやスポンサー営業で得られる収益は、ホームタウンの人口が上限になり、いずれ頭打ちを迎えるという考えです。

 

福島市の人口は28万人ほど。その中でも、試合に来ていただける方は一握りです。また、福島ユナイテッドFCは、スタジアムの基準が満たせていないので、J2に上がることができない状況です。J2に上がれば、より多くの方に試合にきていただき、より大きな経済効果を生むことができますが、今はそういうこともできません。クラブの存在価値というか、どうすれば地域の人に『クラブがあってよかった』と思ってもらえるかを常に考えています。

 

地域の方と継続的に接点を持たせていただきながら、クラブの価値を届けることが大事になってきます。農業部の活動は、クラブの収入源として、売上を上げられる事業にも成長してきました。コロナ禍で試合ができなくなり、チケット収入が激減する中でも、特産品の販売は続けられます。また、昨年6月に立ち上がったECショップは県外のサポーターにも注目していただき、ホームタウンの人口に限らない事業になる可能性があります」(阿部さん)

 

 

 

■サッカークラブのつながりをいかして全国に広めたい

 

今後、農業部や福島ユナイテッドFCと一緒にどんなことをしていきたいか。生産者のお二人は「売っている現場に行きたい」という思いがあります。

 

「各地での試合に一緒に行ったことがないので、どんな言葉でお客さんに伝えているかなども学びたいので、ぜひ試合会場に一緒に行ってみたいですね。また、コロナ禍で人が集まりづらい状況ではありますが、果物に興味を持ってもらったサポーターに、畑に来てもらいたいです。選手と一緒に作業をしてもらったり、飯坂温泉で遊んでもらったり、コロナが落ち着いた頃にそんなことができたらいいなと思います」(安斎さん)」

 

「私も、農作業が忙しくて行けていないのですが、アウェイ戦で実際に販売している様子を見て、自分の肌で反応を感じてみたいですね。ユナイテッドさんの試合でも、そうでない試合のときでも、現場を見に行けるようにしたいです。また、プラスアルファのこともしていければと考えています。具体的な案があるわけではありませんが、農家と、ユナイテッドとのコラボレーションとして付加価値を高めるような活動をやっていけたらおもしろいと考えています。桃、りんご、ぶどう、アスパラなどの農産物や加工品も扱っているので、かけ合わせたことができるといいのではないかと思っています」(鈴木さん)

 

プラスアルファの取り組みとして農業部では、郡山市にある宝来屋本店(甘酒・糀の会社)と大野農園(クラブと一緒にりんごを成育)と一緒に、麹を使ったアスリート向けの甘酒の開発も進めています。さらに、昨年立ち上がったECサイトは、今後も注力していきたいと考えています。

 

「例えば、アウェイ戦で出店しているときに農業部を知ってもらって、ECで定期便を頼んでいただいたり。他にも、他クラブから期限付き移籍中の選手が農作業を一緒にしているのを見て、そのクラブのサポーターに興味を持ってもらえたり。サッカークラブならではのつながりをいかしたいと考えています。理想は、57クラブ全ての試合で出店することです」(阿部さん)

 

 

サッカーでつながった人と継続的な関係を築くために、ECサイトが活用されていくことが見込まれます。最後に、震災から10年、これからの活動に向けた阿部さんの思いを聞きました。

 

「おかげさまで、農業部の認知は少しずつ広まっています。こういう活動は継続してやらなければ意味がないので、これからも続けていきたいです。震災から10年になりますが、クラブも10周年を迎えました。今後J2昇格を目指す中で、より多くの人に『クラブがあってよかった』と言ってもらえるように、地域の人たちと一緒に活動していきたいです。農業部は、選手が参加する活動なので、回数や提携先が増えるほど、日程調整の問題も出てくるので、悩ましいところもあります。ただ、選手が福島に来てくれたのはご縁です。地域の人にとっても、選手にとっても、『福島にクラブがあってよかった』と思えるような活動を続けていきたいです」

 

 

 

 

― 取材後記 ―  

 

私は普段、地方創生を担当する部署で働いています。地方創生とは、人口減少の緩和や地域経済の活性化を目指すものですが、それを実現していく上で、スポーツは一つの起爆剤になり得ると考えています。

スポーツには、人と人を繋ぎ、地域に夢や元気を与えるチカラがあります。また、地域のシンボルとして飛躍していくクラブを支え、応援していく中で、これまでになかった新しいコミュニティが生まれたり、異業種の連携が生まれたりします。クラブの存在や取り組みは、イノベーションを促す「ハブ」であるとも言えます。

福島県は、東日本大震災や原発事故により甚大な被害を受けました。今年でちょうど10年を迎えましたが、未だ課題は多く残されています。しかしながら、震災前には考えつかなかったアイディアや人との出会いもありました。災害が人を繋ぎ、未来を創造するきっかけとなっています。

民間の調査によれば、福島県と何らかの関わりを持つ「関係人口(出身者やファン、サポーターなど)」は全国1位(人口の約7倍)であり、ボランティア活動や寄付、産品購入などの意欲を示している人が多い特徴があるようです。

アウェイサポーターに地元の観光名所や農産物をPRするのも、関係人口、地域のファン獲得に繋がります。

農家さんのほか、クラブ、行政、それぞれ単体の力では解決できないこともあります。スポーツを軸として、クラブと連携することで何ができるか、地域の様々な人の視点からアイディアを持ち寄れば、誰か一人では成し得ない「魅力的なまち」を作ることができるのではないか、この事実に気付きを与えてくれるのが「シャレン!」の活動ではないかと思います。

Jリーグの競技成績だけでなく、勝った時も負けた時も、また試合以外でも地域に愛され、福島県の誇りとして、福島ユナイテッドさんがこれからも飛躍していくことを期待しています。